穴にハマったアリスたち

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感想:小説「ドキドキ!プリキュア」

2024年09月16日 | 小説版プリキュア
てっきり立ち消えたのかと思われた講談社キャラクター文庫さんから、まさかの続刊が出ました。ありがたい。

■小説「ドキドキ!プリキュア」


小説 ドキドキ!プリキュア [ 山口 亮太 ]

ドキプリを貫くキーフレーズ「幸せの王子」。
困っている人がいる。だから王子は助ける。
でもそうやって助け続けたら、王子は疲弊していずれ倒れる。犠牲になったツバメたちと共に。

これへの本編の回答は、人々が立ち上がること。
文化祭の一件然り。最終決戦の混乱を協力し合って乗り越え、プリキュアの救援に駆けつけようとしたあの時然り。

マナさんは特徴的に「人に手取り足取り教える」ことをしない方です。
幸せの王子は宝石をばらまく。魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えよ…とは逆の思想。
今必要なのは直接的な助けであって、悠長に構えている余裕はない。

この思想は、人々が自発的に立ち上がるかが肝で、実際に本編では立ち上がってくれたのですが、事はそれだけではやっぱり上手くいかない。
ジコチューが人間に潜む以上、人々にも悪意は存在する。幸せの王子にとっては天敵です。
しかも幸せの王子は、所詮は一つの町の守護者でしかない。よその町にも困っている人はいる。

人造プリキュアや対プリキュア兵器、果ては人々からの悪意や際限のない現実に、プリキュアさんが屈するのはなかなかに辛い。
物理的に破壊される変身玩具、危険性から自主規制を迫られる追加玩具等々。
「敵を浄化すれば原状復帰する」と割り切って戦った結果、倒せなかったので破壊が元に戻らないとか。

かつてのトランプ王国がそうだったように、プリキュアだけでは世界を救えない。

ただ悪意や困難の渦巻く中、立ち上がってくれる人たちももちろんいる。
四葉兄の行動方針はまさに「私たちも立ち上がろう」です。警部さん他、奮戦する方々もいる。
最終的に決定打となったのも、人造クリスタル。作った人々すら紛い物と認識していたそれが、戦局を決めた。

四葉兄がマナさんに突き付けた「世界中で困ってる人がいるのに、君は何をやってるのか」。
相田マナがいかに頑張ろうと、覚悟を決めてツバメを使い潰そうと、王子一人では世界は救えない。

その幸せの王子の限界への回答は、本編よりも具体的かつ抽象的にもう一歩先でした。
キュアハートの活躍に胸を震わせた人々から生まれた、5000人のプリキュアが舞い降りる。

全人類でいえば0.0001%未満のささやかな覚醒ですが、元の5人からは1000倍です。
新たな5000人の幸せの王子が、ツバメや人々を信じて宝石をばらまき、その中からまた王子が現れるラブリンクの輪。

とても読み応えのある、ドキプリの正統続編でした。

【マナさん】
極めてハイスペックな印象と、パルテノンモードの圧倒的な美しさから、最強プリキュアにも挙げられるマナさん。
この考えを根本から改めました。

マナさん自身は何でもできる超人ではなく、むしろかなりの弱さを抱えてる。
ただそれでも彼女は幸せの王子たらんとして、必死に奮い立って強くあり続けた。

思えば本編でも「意外に弱い」のがドキプリの特徴でした。ボロボロになっていく幸せの王子を、傍観してちゃだめだった。

パルテノンモードも「強い!格好いい!すごい!」だけではなく、「私もああなろう」まで思える人になりたい。あの5000人のプリキュアのように。

幸せの王子から降りることができたラストは、とても清々しく、ここからマナさん本来の物語が始まるのかなとも感じました。

(なぜ「パルテノン(処女神アテナの神殿)」なのか?は長年の謎でした。劇場版のエンゲージとは対極にある。あれはもしや、究極的な個人の選択である結婚が許されない(私人ではなく公人として戦う)的な意味だったのかも。もしそうなら、ある意味でダークプリキュア的なニュアンスだったのかもしれない)

【本編の回収と未来】
繰り出されまくる本編設定のツッコミどころの回収の嵐が凄まじい。
ドキプリさんの裏設定をちゃんと追い切れておらず、初出かどうかは分からないのですが、本編のフォローをしつつ、物語にも組み込まれていて爽快でした。

設定だけの存在だった四葉兄の他、謎の敵幹部ゴーマとルストも遂に登場。

ドキプリさんの敵は、いわゆる邪悪な悪党ではない。ジコチューなだけです。
七つの大罪の皆様は人間の負の根源ですから、価値観は通じるものがある。
かといって当然仲間でもなく、えげつない攻撃もかなりしてくる。この独特の距離感が、小説でも発揮されてた。
リーヴァたちまで出てくるとは、正直全く予想しなかったな…。いや確かに7人勢ぞろいは凄く良いから、とても嬉しい。

トランプ王国のプリキュアさんも登場なされた。

キュアデュース
キュアケイト
キュアサイス

デュース(2)、ケイト(4)、サイス(6)。
エース(1)が亜久里さんなので、他にトレイ(3)さんとシンク(5)さんもいらっしゃるんだろうか。
(どこまで本気か分かりませんが、キュアシンクは山口亮太さんのTwitterで発言されたことがある)

5000人のプリキュアの内、名前が出たのは3名。

キュアキスリング
キュアテスラ
キュアクラベス

クラベスは楽器…なんだろうか。
キスリングとテスラは何だろう。モイズ・キスリングとニコラ・テスラ?

(なお読むまで全く考えもしませんでしたが、男子プリキュアが登場する可能性もあったのか。「彼女たち」と表記されているので男子がいるとは明確にはされていない。

男子プリキュアの是非はともかく、せっかくの続編のクライマックスを「男子プリキュア登場!」と雑に評されるのは残念なので、わざわざ扱わないのは正解だと思う

【いつもの皆様と未来】
オノマトペまこぴー可愛い。エースショットの影響を受けたんだろうか。

そしてまこぴーの初恋。素晴らしい。

ぽこぴーなんていない。あれは異文化で馴染みがないし、危機的状況で余裕がなかったせいだ。
と主張し続けて10年。肉食獣なまこぴーが見られて大変に満足です。
こういう「二次創作でやったら袋叩きにあいそう」なのを公式が描いてくれるの、とても嬉しい。続編の醍醐味。
二次創作広しといえど、「ありすの姉になろうとする、まこぴー」なんてネタ、思いついた人いるんだろうか。

(お葬式のシーンはそれでいいのかと若干思いましたが、妙に口が悪かったりするのもドキプリの特徴だなと思い返してみた。なかなか王女様を探してくれないとか、あの辺り)

ジョナサンと亜久里&レジーナの微妙な関係に踏み込んでくれたのも良かった。
全く全然興味なしと回答はされたものの、その後の描写を見ると、亜久里さんはもしかしてもしかするのかもしれない。
キュアジョーカーにもジョー岡田リスペクトを感じます。
ジョナサンは亜久里やレジーナを、アン王女と同一視はしないと思うし、なまじ由来が由来なだけに却って断固として拒否されそうな気はしますが…。

レジーナ様は普段は目が青い。ジコチュー状態の時は赤になる。
片割れのエースは、常に目が赤。故にエースの方がジコチュー度が高い。
というネタが当時ありましたが、今回の亜久里&レジーナおよびキュアジョーカーはちょっとそんな気配がした。

亜久里さんの誕生日について、妙に丁寧に記述がありました。
公式的には5月30日も提唱するが、ただこれまでのファンの慣習を尊重して12月1日。ということなのかしら。
(5月30日は、亜久里役の釘宮理恵さんの誕生日)

兄が重要ポジションで登場した他、鈍器で戦うロゼッタさん。
一人称で獅子奮迅の活躍を成された菱川さん。各人が活躍の場があって、読みごたえが凄まじかった。

いやもう過去の回収と未来の切り開き方が素晴らしくて、この1冊でドキプリも一気に未来に進みました。ありがとうございます。
このシリーズは是非継続して欲しいです。

【蛇足】
人参回の人が、「嘘情報である」ことを示唆するような場面で登場しました。わざわざ、きゅぴらっぱまでして。
この場面の意図が分からない。丸ごと削除しても全く問題なく話がつながる。

「かぐや姫」かタケノコに思い入れがあって一言書きたかった、亜久里さんの誕生日説に7月7日があり(?)それを否定したかった、特に意味はないが何となく筆が進んだ?
個人的に人参回は、堆肥を手で扱うことを推奨する等々かなりの疑問を抱いているので、「嘘情報」とセットで登場したことを勝手に深読みしたくはなった。

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感想:小説「魔法つかいプリキュア!いま、時間旅行って言いました!?」

2021年05月15日 | 小説版プリキュア
■小説「魔法つかいプリキュア!いま、時間旅行って言いました!?」


小説「魔法つかいプリキュア! いま、時間旅行って言いました!?」

以前に感想は書いたのですが、カテゴリ「小説版プリキュア」を作ったのでこちらにまとめてみる。
(以前の感想記事:「リコのパラドックス」)

改めて振り返ってみると、クシィ関連がやっぱり熱いです。「闇の魔法で過去に戻れる」と示されたので、色々と妄想が広がります。
前回の感想では「クシィは現代人」説を唱えてみましたが、もっと単純明快に考えてみよう。

①クシィは校長と同時代の人。「大いなる災い」に悲嘆した彼は、闇の魔法を習得。
これにより「過去に戻る」タイムトラベル手段を得る。

②現代魔法(推定4000年前)に限界を感じ、未来の魔法技術を取り込むことを思いつく。
未来にいくことで「大いなる災い」がどのように襲来するかもわかる。

③何らかの手段で未来に旅立つ。自己封印でもコールドスリープでも「未来に行く」魔法でもウラシマ効果でもなんでもいい。
未来に行くのは容易なので、たぶん何かで実現できる。

④未来にいったクシィは校長と「再会」。最終話のあのシーン。そこで事の顛末を知る。

⑤闇の魔法で過去に戻り、「大いなる災い」への切り札たる「プリキュア」を信じ、悪役「ドクロクシー」を引き受ける。
歴史どおりプリキュアが出現し、そして「大いなる災い」の撃退に成功する。

アニメ本編・小説の内容のいずれにも矛盾していない、はず。闇の魔法で過去に戻れるのなら、この手段を使わない方がむしろ不自然とも思えます。
「ルール無視」のムホーに嘲笑された魔法が、実は「歴史を変えない」「ルールを守る」が故にムホーに打ち勝った、踊らされていたのは魔法ではなくムホーの方だった、というのは個人的にかなりカタルシスがあります。
真相は不明なれど、私としてもう「こういう設定だったんだ」と妄信したい。


小説「魔法つかいプリキュア! いま、時間旅行って言いました!?」

【追記】

この小説はルビ付き。なのでうちのお子様も読書黎明期に黙々と読みふけってた。おかげで時間ネタの概念に触れて、映画「ミラクルリープ」を初め時間モノが結構ブームになってた。私らの世代でいうところの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなものだろうか。
モノが「時間」ネタなだけに、なんか時を超えるちょっとした感慨があったりなかったりする。

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感想:小説 フレッシュプリキュア!

2021年05月08日 | 小説版プリキュア
■小説 フレッシュプリキュア!


小説 フレッシュプリキュア!

ラビリンスとの決戦から1年後のお話。
中学3年生になった桃園さんは、今後の進路で迷い悩み。何か深刻な事情があったりはしないのだけど、逆にこれといって事情がないので判断もできず。
周りの面々はブッキーは獣医師、せつなは国家運営、美希たんは実家の美容院と、なんか色々と覚悟が決まってる人ばかり。なのに自分だけは決まらない。
なお、大輔くんとの関係もいまだ保留です。むごい。そっちは早く解決してあげて欲しい。

そんな中、突如現れた魔フィストなる敵により、街の人たちが次々に怪物「フシアワーセ」に変えられてしまい。1年間のブランクを経て、桃園さんらは再び戦闘に。

同じく1年後の後日談の小説「スイート」(感想)と比べると、「フレッシュ」はアニメ本編のノリを持ち込んだ感じ。場面転換が早く、細かなネタが雨あられと続きます。
「サウラーが看護婦の変装をする」場面があるのですが、ストーリー的には強い必然性はなく、描写そのものも一言触れた程度。その恰好をしていたのも1ページほどで、挿絵もなし。何の意味があったのか謎ですが、映像としてはよく分かります。本編でやってくれたら愉快そうなことを、細々盛り込んでくれた感が物凄い。

再び巻き込まれた四つ葉町の人たちのショートストーリーが無数に出てくるのも、本編でのゲストの皆様の物語を想起します。アズキーナを初め懐かしい皆様も出演され、アニメ数話分の追加エピソードを小説にした雰囲気。
そしてこの構成が「フレッシュ」のテーマ(だと思ってる)「それぞれに人生山あり谷あり。迷い迷って、されどたどり着く先は一つ」を反映しているようで、非常に納得感もある。

読んでいて純粋に「楽しい」「愉快」な小説なのですが、一方で考察ネタも強烈です。さりげなく重大な問題が投げかけられてる。

・ラビリンスとの決戦後、桃園さんらは変身アイテムを手放しており、1年のブランクがある
・せつなはラビリンスに(本編でも言及されていた通り)、蒼乃さんはパリに留学する
・アカルンの瞬間移動は「疲れるので1日に何回もはできない」らしい、他諸々

特に1番目はエグい。これにより、「フレッシュ組も変身できる」「せつなは普段はラビリンスにいる」と描写された映画「春のカーニバル」が、決戦から1年以上後とほぼほぼ確定してしまいました。「春のカーニバル」時点ではゴープリは序盤戦と推測されるので、「春野はるかの戦いは、フレッシュの少なくとも1年後」と予測されます。何か色々とどうでもよい妄想が羽ばたきます。(参考:「春野はるかの未来への道」

上記の派生で「ハートキャッチ本編もフレッシュ本編の1年後」だと勝手に決めつけると、映画「花の都」の際に実はパリに美希たんがいた可能性が出てきます。
モデル志望でパリに行ってるんだから、この時点で面識があるなら、ファッションショーのために渡仏した来海さんらは普通に考えれば連絡も取りあうはず。ど素人の花咲さんにランウェイ歩かせてるぐらいなんだから、声をかけても不思議はない。

ですが実際には蒼乃さんは出演なされていない。「フレッシュとハトプリ本編は同時期である(「花の都」の時点では留学していない)」「面識がなかった(DX2は「花の都」の後の出来事だった)」「連絡先を知らなかった」「パリにいることを知らなかった」「知っていたが誘うほどの仲ではなかった」「蒼乃さんが忙しかった」「素人を売りにした企画だったのでNGくらった」等々、無駄に妄想が広がります。
パリにいたのならサラマンダー戦に参加していないのもなんでだろう?距離があって間に合わなかっただけ?よくよく見たら、パリ市民に交じってミラクルライト振ってたりしないかしら。

同様にアラモードの映画でも、ミラクル・マジカルの影に隠れて奮戦しているベリーがいたのかもしれない。「花の都」と違い、クックの騒動はパリ中に広がっていますから、パリにいたなら応戦していない方が不自然です。
この時点で朝日奈さんと蒼乃さんが知り合い同士なら、パリに不慣れな朝日奈さんが、蒼乃さんを頼ってもおかしくない。「蒼乃さんの家に下宿する魔法つかいチーム」とかいうどこに需要があるのかよく分からないけど何か楽しそうなイベントが起きてたんだろうか。夢が広がります。

ついでにいえば「スイート」の北条さんがドイツにいます。ドイツとパリの間はそれなりに離れている(飛行機で2時間ぐらいらしい)ので頻繁には会わないでしょうけど、「プリキュア仲間が集まる」的事情があるなら、パリ観光を兼ねてプチ同窓会をやっても変ではない気はする。じゃあハトプリ映画やアラモード映画の時、パリの現場にキュアメロディもいたのか?妄想の宝庫。

今でこそ「15年」でひとまとめになってはいますが、「フレッシュ」本放送時は「5年」の節目のあとの新シリーズ。「3DのED」「プリキュアの存在が当たり前に認知されている」「敵幹部のプリキュア化」等々、衝撃展開の嵐だった。そんな当時のカオスなワクワク感を思いださせてくれる小説でした。


小説 フレッシュプリキュア!

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感想:小説 ハートキャッチプリキュア!

2021年05月01日 | 小説版プリキュア
■小説 ハートキャッチプリキュア!

 
小説 ハートキャッチプリキュア!【電子書籍】[ 山田隆司 ]

ゆりさんから見たハートキャッチの物語。
本編終了後の後日談にあたる小説版「スイート」「スマイル」と違い、「ハートキャッチ」は本編を別視点から。

「ハートキャッチ」のテーマは「外見を変えても内面が変わらなければ意味がない」からの「服を変えるだけでも気持ちが変わる。単純だけでそれでいいと思うんだよね」。これから転じて「各自の事情は分からない。だから他人では本質的な解決はできない」「しかし表面的なお手伝いでも、大きな助けになる」だと思っています。
そのイメージ通りに「本編のあの場面を、ゆりさんサイドから見たらどうなのか」が描かれる。あの時ゆりさんは何を考えていたのか。分からなかった「他人の事情」が明らかに。一方でゆりさん視点では花咲さんらの事情は分からない。分からないので、物凄く愉快なことになってる。

ゆりさんは華やかなりし中学生時代にプリキュアになり、日常でも武道を学び、数年間に渡り砂漠の使途と交戦、満を持してプリキュアの試練に挑んだとのこと。花咲さんに対する冷たい視線もむべなるかな。前準備なし・素の性格が戦闘に向いていない・プリキュアの自覚薄・半年間の短期決戦と不安材料しかなさすぎる。

しかも「ゆりさんの出番があるシーン」が舞台になるので、必然的に「ブロッサムらがピンチ」ばかりになります。ダークさんにゴミのごとく蹴散らされ、死屍累々と倒れ伏すブロ子たち…。ゆりさんの視線がますます冷たくなる。あなたたち、プリキュア舐めてるの?

[引用]
薫子はプリキュアの先輩として、二人にアドバイスだけでもしてもらえないかと頼んできた。
ゆりがきっぱりと断った時、息を弾ませながらつぼみが温室に飛び込んで来た。
つぼみは、えりかやその姉ももかとショッピングに行こうとしていたが、薫子からリュウゼツランが開花したとの連絡を受け、向こうを断って駆けつけてきたのだった。
「何十年に一度ーーっ!」
と、つぼみが興奮気味に叫んだ。リュウゼツランがただ一度開花するまで要する期間を言っているのだが、ゆりには何のことかさっぱり分からなかった。
[引用終]

もはや珍獣。思い返せばハートキャッチ13話でそんなシーンがあったような気がしますが、ゆりさん視点では不可解な生き物にしか見えない。そう、これが今のプリキュア…。アドバイス?お断りします。

相対的にサソリーナさんらの評価は妙に上がる。あのムーンライトと数年も戦い抜き、ブロ・マリ・サンシャイン相手には五分以上。というか、よく半年程度で勝てたものだ。
プリキュアの試練を受ける際の「まだ早すぎる」「でもやらせてください」のようなやり取りも、こうしてみると確かに深刻です。「まだ早い」はお約束展開ですからテレビ本編では大して気にしなかったけど、ゆりさん視点だと自殺行為にしか見えない。死に急ぐ脇役プリキュアたち…。(なお小説本文中には「ムーンライトの死体」とかの物騒なワードも出てくる)

そんなどうしようもない最弱プリキュアども(マリンやサンシャインも、ゆりさん視点では大差ない)が、仲間の力で押していくのはなかなかに強烈。
依然としてゆりさんの方が圧倒的に強く、彼女の事情を3人は詳しく知らない。が、それでも確かに力になってる。
「詳しい事情は分からない。でもお手伝いならできる」。ハートキャッチの真骨頂。本質的な解決には踏み込めなくても、それでも何かが力になるはず。

また、薫子さん視点でも描かれており、彼女から見た月影家族やつぼみらの様子も興味深い。孫のこと、めちゃくちゃ不安ですね…。花咲さんが古風な言葉遣いをするようになった経緯も書かれているのですが、この子をプリキュアにして戦地に送り込むのは並大抵の覚悟ではない。
一方で、孤立していることを気にしていたようなので、えりからのことも踏まえて後押ししたのも分かる。改めて考えてみれば「薫子さんが(性格的に明らかに不向きに見える)つぼみをプリキュアとして戦わせた背景」は謎といえば謎だった。世界を守る云々の大仰な話の前に、「孫の交友関係」というささやかな願いがあったのかもしれない。

欲を言うなら、同じ形式で「マリン視点」「サンシャイン視点」の物語も見てみたい。映画「花の都」がそんな感じ(オリヴィエを介して各自の物語が進む)ですが、「同一場面で、各自が何を思っていたのか」は、アニメよりも小説に適してる。二人とも色々と抱えていますから「おちゃらけてたけど、内心ではこう思ってたのか…」みたいなのが沢山ありそう。読みたい。

 
小説 ハートキャッチプリキュア!【電子書籍】[ 山田隆司 ]

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感想:小説スマイルプリキュア!

2021年01月24日 | 小説版プリキュア
■小説 スマイルプリキュア!


小説 スマイルプリキュア! / 小林雄次

昔々あるところに星空みゆきという女の子がおりました。
彼女は仲良しのお友達4人と共にプリキュアとなり、未来を黒く塗りつぶそうとするバッドエンド王国と戦いました。
激しい戦いの末、ついには悪の帝王・ピエーロを倒し、世界には平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。

そして、それから10年。

 第1章 星空みゆき
 第2章 日野あかね
 第3章 黄瀬やよい
 第4章 緑川なお
 第5章 青木れいか
 最終章 最高のスマイル

かつてプリキュアであったことも、共に戦った仲間のことも忘れた5人の娘さんたちの、絶望の物語。

現実はメルヘンとは違う。都合の良い奇跡は起きず、楽しい時間はいずれ終わる。
夏休みは必ず終わりがくるし、敵を撃退してもピエーロ時計の針は進む。
それでも。目に見えない、あるかもわからぬ何かでも。信じて進めば、それは確かに実在するはず。

学業成就のお守りは、ただの布と紙だ。でもそれに込められた想いを信じ、それがあることで平常心で試験に望めれば、ガチガチに緊張しているより良い結果になるはず。良い結果になったのなら、確かにそれには不思議な力がるのです。
奇跡や神が実在するから信じるのではない。信じるから、奇跡や神は存在するんだ。

絵本の力。
友情や恋。
空想上のヒーロー。
家族や後輩。
道。

星空さんたちはそれらを信じ、信じたから力になり、己自身で存在を証明した。
だけど現実とメルヘンは違う。
信じたそれらも、いずれ終わりがやってくる。

せっかく笑顔をもたらした絵本も、訪れる別れは止められない。日野さんが思い描いていた甘い恋の行方は、相手の描いていたものと違った。
「自分で自分の言葉が響かなくなった」と「ミラクルピース」の連載を自ら終了する黄瀬さんや、自分がいるせいで家族や後輩の成長を阻害していたと気づく緑川さん。
以前の自分を救った「道」の解釈が、かえって教え子を追い込んでしまう…。
アニメ本編の個人回のその後の話。感動したあの総決算が、悪夢の未来の始まりだった。

かつてプリキュアだったことを忘れてしまった星空さんたち。
「いずれ破滅が訪れても、楽しかった思い出を胸に抱き、笑顔で立ち向かおう。だから私たちはスマイルプリキュアだ」。
その「楽しかった思い出」が欠落したまま、彼女たちはそれぞれの絶望に立ち向かう。

ネタを明かしてしまうのなら、この「10年後の未来」は蘇ったジョーカーが作った仮初の世界。中3になった星空さんたちが記憶を操作され閉じ込められているだけ(中3なのでその視点では「9年後の未来」。ちょっとややこしい)。
とはいえ描かれている「絶望」は本編からの延長線。確かにいずれ直面する、リアルな課題です。
実際ジョーカーも語る。「これは私が作った嘘の世界ではない」と。
「友の名を忘れる」等はさすがに作為があるにせよ、全くの架空世界ではなく、未来予知に近いように見えます。
「嘘の世界」ではないから、あからさまに絶望的な悲惨な未来ではない。でもだからこそ回避不能の恐怖があります。仮に起きることが事前に分かっていても、本質的には防ぐことが出来ない。防げばよいというものでもない。

それでも星空さんたちは各々この世界を突破します。きっかけとなったのは、やはり昔の友との思い出だった。
直接的にはプリキュアの能力とは全く関係なく、「思い出」そのものも直接の解法にはならず、あくまで「きっかけ」。それが何とも「スマイルプリキュア」らしいです。
破滅は避けられない。解決策もない。だけど思い出を胸に、笑顔で立ち向かう。

作られた未来世界の絶望を乗り越え、脱出した星空さんらは、再度ジョーカーと向かい合う。
しかしスマイルパクトは輝かない。バッドエンドの力により、完全に封じられています。
やはり現実とメルヘンは違う。奇跡なんて、起きはしない。

だけれど、星空さんは気が付いた。10年後の20代半ばの姿のまま気が付いた。

『この世界は、メルヘンだ』

「スマイルプリキュア」を、その後の「プリキュア」シリーズを苦しめ続けた呪縛への爽快きわまる素晴らしき逆転の一撃。
「現実はメルヘンとは違う」。大前提とされたそれが吹き飛ばされる。

『この世界は物語で、主人公は私たちだ』

だから奇跡は起こせる。素晴らしすぎる突破口です。嗚呼だから各章のタイトルは登場人物の名をとっていたのか。
古くは「はてしない物語」を連想するような、読者と登場人物がお互いを認識しあうかのような相互のメタ構造。そうだ、私たちもまた、この物語の登場人物だ。

『大人になった未来の私たちへ』から始まる、ラストシーンの星空さんからの語りかけは胸に刻み込みたい。
現実は厳しい。単純な悪意に限らず、不可避の不幸は幾つもある。かつて信じたものもいつかは終わってしまう。

『でもね、そんな時は思い出して』
『あなたたちはプリキュアになって世界を救ったんだよ』

星空さんたちが忘れてしまっていたように、私たちも忘れているだけなのかもしれない。
「スマイルプリキュア」の後日談として、これ以上はないほどの素晴らしい小説でした。


小説 スマイルプリキュア! / 小林雄次

【蛇足】

最終決戦での大人姿での変身にどぎまぎします。劇中でも「大人での変身」とかなり強調されており、姿もちょっと違うらしい。気になる。

あと、繰り返し繰り返し「れいかちゃんはモテモテだった」と言及されてるのが何か愉快。いや確かに、れいかさんは(他の美人枠プリキュアと比較しても)物凄くモテそうだと思いますが、それだけに何か生々しい。

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感想:小説スイートプリキュア♪

2020年08月19日 | 小説版プリキュア
長らく積んでたのを読みました。
素晴らしすぎて胸が熱い。スイプリ本編を反映した正に正統続編。
こんな名作を積んでたなんて勿体なさ過ぎた。

■小説 スイートプリキュア♪



ノイズとの決戦から1年。
北条さんは中学3年生になられた。そして南野さんらと疎遠になっていた。
いきなり立ち込める暗雲。どんより気分の日々。

南野さんはスイーツで著名な専門校を目指し。
エレンは路上ライブで身を立て始め。
アコさんは王族ライフに戻っていき。

北条さん自身もドイツへの音楽留学が決まりました。
みんなバラバラ。それぞれ自分の将来に不安と不満を抱え、それと向き合うのに精いっぱい。
あんなに仲良しだったのに。でもやむをえない。大人になるとはそういうこと。

南野さんの作ったケーキをむしゃむしゃ盗み食いしながら、北条さんは寂しく思う。
こんなにむしゃむしゃ食べてるのに、奏はスルー。昔みたいにツッコんでくれすらしない。
ただただ白い眼を向けてくる南野さんの前で、リアクションを求めてむしゃむしゃむしゃむしゃし続ける北条さんの姿が泣けます。
ね、ねぇ今度一緒に海行かない?勇気を振り絞ったそのお誘いも「は?」と冷たくあしらわれ。
むしゃむしゃしながら北条さんは無言でうつむくばかり。

やがて北条さんがドイツに旅立つ日が近づいてくる。
加音町の人たちが送別会を開いてくれ、そこで北条さんと南野さんは連弾を披露します。そして失敗する。主には南野さんの練習不足で。
正直、ピアノ留学する北条さんと連弾とか、南野さんも辛すぎる。聴衆たるこの町の人たちの音楽水準も異常に高いし。

南野さんの失敗に、北条さんは激怒。これまでの鬱屈もあり、それはそれは激怒。エレンやアコさんがドン引きする勢いで怒り狂う。
そして項垂れてるところを王子先輩に慰めてもらっていたら、それを南野さんに見られた。
なお、この送別会のために、王子先輩と二人っきりでピアノレッスンをしてたりしました。南野さんには内緒で。ちょっぴりときめきながら。
言うまでもなく南野さんは引きつります。そう。そういうことするのね、響。それ、仕返しのつもり?
それはそれはおぞましい空気が立ち込める。

その翌日から異変が始まった。音が何かおかしい。
不思議がる北条さんのもとに、王子先輩の失踪の報が。
続けて聖歌先輩や町の人々も姿を消していく。

突如起きた謎の失踪事件に、加音町の人々も疑心暗鬼。
そこにメイジャーランドから連絡が。
何だか分からないが、何かが起きている。おそらくこれはヴァニッシュのせいだ。
何でもヴァニッシュとやらは、音の反響をなくしていくらしい。なるぼど、だから音がおかしかったのか。
あと、悲しい気持ちを持った人に取り憑く習性があるそうです。なるほど、奏が犯人だ。北条さん納得。だって私と王子先輩がいちゃついてるとこ見て悲嘆してたし。

たちまち広がる疑念。しかしそれを嘲笑うかのように、被害も容疑者も増えていく。
犯人は奏かエレンかアコか。それとも音吉さんか。そもそヴァニッシュなんて実在するのか?実はピーちゃんことノイズが復活したのでは。

何が真実かも分からぬ「スイートプリキュア」の真骨頂。
放送当時「メイジャーvsマイナー」と聞いて誰もが思った。マイナーだからといって悪ではない。きっと和解するんだろう。
だけど描写上は明らかに悪。しかもそれはそれとしてアフロディテ様も黒幕臭がぷんぷんする。秋映画の「敵はアフロディテ様!?」のコピーも正にそれ。
幸せアイテムは毎回ネガトーンに変化し、黒ミューズやら何やらも入り混じり、最早何も信じられないあの空気が、再び。

そうこうする内にメフィストやアフロディテ様まで消え、容疑者だったはずのエレンやアコや音吉さんも消えていく。かつての切り札、幸せのメロディーも効果ゼロ。
とうとう残るは南野さんと北条さんだけに。ではやはり奏がヴァニッシュか。
恐慌状態で南野さんから逃げ出す北条さんが痛ましい。

だけど。駆け出した北条さんの背後で遂には南野さんも消滅。どういうことだ。やはりヴァニッシュなんていないのか…?
戸惑う北条さんの前に現れるピーちゃん。やはり、ノイズか…。
絶望に打ち震え、涙ながらに命乞いし、無様に逃走する北条さんが実に実に辛い。
これは、無理だ。「価値観の多様化」「人によって真実が変わる」ことによる断絶を、「共有体験」をキーに乗り越えたスイートチーム。だけれどその共有体験がマイナスに働く。なまじ共有体験に依存していたが故に、これから起きる分断には弱かった。「既に起きた分断」への解決策にはなる。でも「これから起きる分断」は共有体験があればあるほど辛くのしかかる…。

そして絶望的な悲しみの中、北条さんは気づく。これは「悲しい」だ。私は悲しかったんだ。
ヴァニッシュは悲しみに取り憑く。みんなを消したヴァニッシュは、私だ。

自分を傷つけるあの人がいなければ、悲しみも消えるはず。だけど実際はどうか。音の響かない世界の何と寂しいことか。
自問自答の果て、北条さんは気づく。
かつての戦いで悟った「幸せと悲しみは音符の並びひとつで変わる」。でもこれは不完全だった。並びで変わるんじゃない。一つの音符に、幸せも悲しみも同居してるんだ。
表裏一体ではなく、不可分だ。無理に「幸せ」「悲しみ」と言葉にするから分からなくなる。「幸せ」であり「悲しみ」でもあるんだ。

確かにみんなバラバラで、そのせいで悲しい。でも違うみんながいない世界はもっと嫌だ。
様々な真実があり、音が響きあう。その音は必ずしも「幸せ」だけではないけれど、「悲しみ」もまた響きあう大切な音。

迷いの晴れた北条さんの前に、遂にヴァニッシュが姿を現す。が、キュアモジューレは沈黙。悲しみに錆び付いた心のト音記号は動かない。メイジャーランドが陥落した今、プリキュアの力も発動しない。

絶体絶命のそこに、生き延びていたピーちゃんが。
自分を、悲しみを信じてくれるか?
無言の問いに、北条さんはかつてのノイズを抱き締める。今度こそ本当に、悲しみを受け止めよう。
そして起動するキュアモジューレ。メイジャーではない、マイナーランドによるキュアメロディ。

定義上は「ダークメロディ」とも言えそうなこの変身は熱すぎる。
描写はされていませんが、やっぱりデザインが少し違うのかしら。それとも「幸せ」も「悲しみ」も同じなんだから、全く同じ姿なのか。

こうして加音町を襲った災厄は解決しました。北条さんは予定どおりドイツへ。
離れることは悲しいけれど、夢を目指す幸せでもある。悲しみと幸せは一体だ。

…読後も興奮が収まらない、本当に素晴らしい続編でした。これぞ「スイートプリキュア」。安易に奇をてらった『意外にも』暗い話ではなく、本編の流れからの納得感とカタルシスが凄まじい。
ここまで正統な本気の続編は、公式でないとできないんじゃなかろうか。

プリキュアファンに強く強くお薦めしたいです。


小説 スイートプリキュア♪ (講談社キャラクター文庫) [ 大野 敏哉 ]

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