店主敬白(悪魔の囁き)

栄進大飯店の店主さがみやがおくる日々の悪魔の囁き。競馬予想や文学・音楽・仕事のグチやちくりまでいろいろ。

盗作の文学史

2010-04-03 11:34:31 | 小説・読んだ本
 「●●は××のパクリ」
 そんな言葉をネット上でよく見かけるけど、まあ本当にパクリだの盗作だのというものは、どんどん出てくる。
 「盗作は(精神的に)貧しい事件」
 とこの本の作者は言いたいようであるが、確かにその通りである。
 作家である自分のためにやったにしろ、お金のためにやったにしろ、世に出た時点でそれはアウトだ。
 「そしてその貧しい盗作を、マスコミはどう報道したか」
 まあ、貧困なる精神を貧困なる報道で責めてるわけか。
 貧しい精神でもいっこうにかまわないけど、それが世に出てくるとうざいのである。
 これはその「うざいことをした人たち」の見本市の本である。
 
 動機はそれぞれいろいろある・・・
「そんなことをしてでも作家でいたい(になりたい)」
「オーバーワークや無理な執筆の果て」
「他人の著作物に対する認識不足」
・・・でも、いつかは叩かれますよ、って。
「バレなきゃわかんない」「このぐらいなら」
 その考えは泥沼のスタートなんだから。

 無断借用、改ざん、模倣、丸写し・・・ホントにこの本「盗作博覧会」です。
 出るわ出るわ・・・しかも、文豪といわれる大家から、有名文学賞の受賞作まで。
 個別作家の盗作疑惑本は今までにあったかもしれないけれど、これだけ盗作をディープに扱った本は、ホントに作者の言うとうり、ないのかもしれない。
 確かに労作 なんだけど、しいてあげればこの値段(¥3800)はやっぱ高い。
 おいらも図書館で借りたクチだから、大きなことは言えないけれど、本当に世に問いたいことがあるなら、もうちょっと価格を下げてくださいよ、ねっ。 

あんまり友人に持ちたくない女

2010-03-17 17:20:41 | 小説・読んだ本
 杉本苑子「新とはずがたり」
 他の作者が「とはずがたり」をもとに書いた小説というのは、
「美貌と後深草院との特別な関係ゆえにねたまれる悲劇の女性=二条」
 ということになっている。
 でも、この杉本氏の作品の二条は
「なんか、いや~な女」
 なのである。特別あくどいとか権勢を欲しいままにしたとか、強欲だとかではないけれど、ねちねちと陰でとんでもないことをしているカンジで、女の武器の弱さや涙でガンガン攻めてくる。
 でも、そんな武器があっても恋愛という「勝負のつかない勝負」には「勝てる」わけじゃないんだけどさぁ・・・。

 この作品の主人公は西園寺実兼、つまり原点の「雪の曙」と言われる二条の恋人だった男性だ。良家のお坊ちゃまでそれなりにやり手で、皇室との姻戚関係もばっちり。
 テキトーにお人よしで、テキトーに人が悪くて財産もあるし、当時の宮廷女房ならば、
「自慢できるステキな恋人」のはずである。
 でもその恋人さえ、二条はさんざんに振り回す。

 この作品の二条は「男性から見た二条」である。
 ふだんは陰気かと思うほどおとなしく、琵琶の名手で美貌。
 でもいったん感情的になると・・・
「やはりあなたは破竹(琵琶の名器)が欲しくて私に近づいたのですね・・・」
 ここからはじまりえんえん、相手を責めまくる。
 それどころか宮中から出奔、あげくの果てには出家・・・そして旅に出てしまう。
 もう、ヒステリー全開で暴走していくのだから、この人っておとなしく無力でもはかなげでもなく、けっこうエネルギーがあるんじゃないのか?
 決して男性遍歴を重ねても、それに流される悲劇の女性じゃないと思う。
 少なくとも、この作品では・・・そう、本人が悲しんでいるほどには不幸じゃないんじゃないのか?
 彼女は思い切ったことをずばずばやってのけ、相手をハラハラさせながらもけっこうしぶとく生き抜いている。出家して旅に出て無事に帰ってこれたのも、当時の治安を考えるとたしいた幸運だし、実兼もなんだかんだいいつつ、彼女の面倒を見ているし、院も最後まで 彼女を記憶のかなたに忘れ去りはしなかったのだから・・・。

 もし、こんな人が友人にいたら、おいらはかんべんだ。
 えんえん「いじめられた」「男に冷たくされている」など気分の悪いときにはさんざんグチって、こっちに近寄ってこないときにはちゃっかり自分の人生を楽しんで、友達のことなんか忘れていそうだからだ。 
 あくまでも女、どこまでも女・・・こんな言葉はこの小説の二条のためにあるもんだと思う。

贋作王ダリ

2010-03-17 00:14:45 | 小説・読んだ本
 今回はこの本。
 ま~とんでもない内容の本である。
 20世紀を代表する芸術家、ダリ。
 その狂気じみた私生活と、そのとんでも私生活を維持するためにタレ流しにされた贋作「芸術」。
 読んでいてめまいがするようなダリとガラの果てしない欲望。
 お金のためなら、贅沢のためなら白紙にサインをしてばんばん売ってしまうのである。
 (もちろん後から、絵が印刷されてくる)
 油絵と違って大量生産できるリトグラフの世界は、これだから怖いのだ。
 なんか芸術愛好家をナメきったような世界がえんえん続くんだけど、
「どうせみんな、資産(投資)として作品を買ってるんだから、いいじゃん」
「こんなもん買うほうが悪いんだよ」
 と言われてるようで、だんだんハラが立ってくるのだ。
 そう、白紙にサインをしながら朝食をとっているシーンを読んでいると、かなりムカムカしてくる。そばにいたら思わず殴りたくなるほどにだ。
 まあ、こんなことしてたら主人公(絵画の斡旋人)じゃなくてもイヤ気がさしてくるんだろうな、と思うけどね。
 読後感はかなり悪い。
 でもそれは作者のせいでも主人公のせいでもない。
 ダリ夫婦とその二人を骨抜きにして「金もうけマシン」にしてしまった周囲の連中、
あんたらがすべて悪い。

それは深く激しく

2010-03-12 22:31:48 | 小説・読んだ本
 今回は有馬頼義「遺書配達人」
 戦争名作シリーズと銘打たれた軽装本だけど、確かに名作かもしれない。
 
 中国戦線でひとりだけ内地に送り返された男が、戦友たちのかわりに残された家族に各戦友の遺書を届けに行く、オムニバス形式の小説だ。
 戦後の混乱・生きるため必死の日々、そしてその中で何かが壊れ、何かが生まれていく・・・。
 そこに書かれているのは新しい時代への「希望」なんておめでたいものじゃない。
 戦争で家族を亡くした人たちの、「遺書配達人」の、怒りと怨念だ。
 なんか風俗小説っぽく読みやすくできているけれど、書いてあることはかなり重い。
 遺書がすべて配達されても、決して戦争は終わらない・・・。

ウッドハウスにハマっている・・・。

2010-02-19 19:50:34 | 小説・読んだ本
 前に図書館で借りて以来、ウッドハウスものにハマっている。
 まあ、今度はジーヴスものをひたすら読んでいるのだ。
 教養もあって学歴も十分、それなりに立派な紳士だけど(たぶん、オシャレでルックスもいいんだと想像する)お人好しでイマイチ間抜けなバーティが、いつもさんざんな目にあい、ひたすら執事のジーヴスを頼りまくって生きているのが、すごくおかしい。
 まあ、社会問題だの心の闇だの格差だの、そういうものが出てこないぶん、おいらにとってウッドハウス世界は別天地の笑いをくれる癒しの世界なのだ。
 そうだよ、ジーヴスがいたらなんでも解決するんだよ。
 ある意味ウルトラマンより仮面ライダーより頼もしいんだよ。
 なんたって自分で解決できなくても助けてくれるんだもん、他力本願バンザイ!である。
 現実問題に目をつりあげて戦わなくてもいいんだよ、ああ、うらやましすぎるぞバーティ。

 ってことは置いといて、おいらが今気に入っているのは、クロードとユースタスの双子たちである。
 ドナルドとダグラス(トーマスに出てくるアレ)もまっ青なその破壊力で、今後も何かをやらかして、できればふたりの行状録が一冊の本になるぐらいだったらいいのに。
 といってもウッドハウス先生はもうお亡くなりになってるし、そんな本は出ないんだろうけれどね。

  

女優の生涯はこんなにも・・・

2010-01-27 09:19:47 | 小説・読んだ本
 ジョイス・C・オーツ「ブロンド」

 あの稀代のセクシー女優、マリリン・モンローの伝記小説だ。
 いや、女優の伝記というより、ノーマ・ジーンという不幸な女の子の一代記、といったほうがいいかもしれない。
 まあこのレビュー見てこの本を読みたいなんて思う人はいないだろうから言うけど、読後あと味は「めっちゃ悪い」。
 とにかくやなヤツのオンパレードである。
 ノーマの母親、里親、恋人(大統領も含む)、ビジネスパートナー、結婚相手(元野球選手も)・・・よってたかって彼女を傷つけ続けたような関わり方しかしていない。
 相手の要求に応えようとして、無様に失敗し、傷ついていく彼女を見ているとそれはそれは痛々しいのである。
 (この場合「イタイ」ではなく、「痛ましい」ということだ)
 なんで、家族に無条件に愛されてはいけない?
 なんで、家族のかわりに自分を愛してくれる人を探してはいけない?
 なんで、不器用ではいけない?
 なんで、美貌だけじゃなくて主婦としても完璧じゃなくちゃいけない?
 なんで、セクシー女優から向上していこうしてはいけない?
 なんで、他人は彼女の人生に恐ろしい予言をする?
・・・何かひとつ人並み以上に突出したものを持っているからといって、そのほかのこともできてアタリマエなのか?
 こうして彼女はずっと、まわりの人間の欲望にふりまわされていく。 
 ちっぽけな願いすらズタズタにされて。

 上下巻のうち、晩年に向って暴走していく下巻は特に圧巻だ。
 まあ小説だから史実ではないけれど、トラップだらけのストーリーが頭の中に滝のように流れこんでくるカンジだ。
 

知りすぎれば消される?

2009-12-08 19:57:59 | 小説・読んだ本
 野上弥生子の「秀吉と利休」を読んだ。
 利休の悲劇は、彼の活躍が「芸術」からどんどんはみだして、政治の世界にまで及んでしまったからだろう。
 秀吉とのあまりにもの密着が、近代的小役人タイプの石田光成との水面下の対立を生み、その密着ゆえに秀吉からも憎まれていく。
 そんな流れを、淡々と景色のように綴った作品だ。
 ここには合戦の激しさも、色気のある話もない。
 なんか安土桃山時代っていうと、秀吉の金ピカ趣味が反映された華やかな「キンキンキラキラの極彩色の世界」みたいに思えるけど、その極彩色の絵巻の裏側は、薄墨でただひとことこんなことを描いてるんじゃないのか。
「知りすぎれば消される」

 聡明ではいけない、小才がききすぎてもいけない。
 
 

古きよき紳士の時代

2009-12-03 12:02:06 | 小説・読んだ本
 なんか今、イギリスにかぶれてて昔のロンドンを書いた「言語都市ロンドン」やこの本を読んでいる。
 P・G・ウッドハウス「エムズワース卿の受難録」。
 ウッドハウスという人について、おいらは中野翠さんのエッセイで知ったのだが、日本での知名度はイマイチだけど、イギリスでは有名作家も参加している研究会があったり、あちらではかなり有名な作家で、たくさんの本を残している。
 今回読んだ本も、かなりおもしろいのだ。
 もう、古き良き時代の貴族生活全開で、善良な領主様であるがゆえに、とんでもない事件にばんばん巻き込まれるエムズワース伯爵。
 本当は退屈なまでの平和が好きなんだろうけれど、次から次へと事件が、人とともにやってくる。
 それを決してスマートではなく、聡明なやりくちでもなく、権謀術数を駆使するでもなく、おたおたしながら解決していくから、この作品は面白いのだ。
 いや、伯爵には災難だが、読者には大笑いでしかなんだけどね。
 一族の者も、愛すべきところもあるけれど、自分の利益や名誉が大好きな、けっこうとんでもない人だらけである。
 この「とんでもなさ」の描き方がすごくうまい作家だからこそ、あっちではたくさんの人に愛され、大笑いされたんだろう。
 なんかおいらもハマってしまいそうである。 

 

ジパング終了

2009-11-06 19:36:03 | 小説・読んだ本
 年内にはたぶん終わる・・・と思っていたものの、マリアナ沖の門松の攻防をあんなに引っ張っておいて、戦後編はほとんどダイジェストのようなノリだったので、おいらはやっぱり不満。
 米内様と菊池と如月が活躍できそうな、終戦・戦後編なのにさぁ。
 話が長かった割にはバタバタと慌しく終わったのである。まあたぶん、掲載誌の都合やら新作やら人気やらがあるんだろうけど、商業誌マンカの悪いところは、このストーリーとビジネス面のバランスの悪さがモロに出てしまうと、感動の最終回も台無しの消化不良になってしまうところである。
 確かに、現実の「終戦工作」でさえあんなに大変だったのに、このストーリーにあるような革命的な終戦工作をじっくり描いていくには、いろいろ問題があると思うけどね。
 でもおいらは、この作品を能天気な一部の既存の架空戦記と一線を画すために、かわぐち氏に難しいそれをあえてやって欲しかったのに、うまいこと逃げられてしまったようなカンジである。
 しかもあの最終回だけ見ると、
「すべての原因は門松がいたこと=門松のせい」
 になってしまうような気がする。
 いちおうは主人公なのにさあ。

 まあ、滝が政治家になったのは、「やっぱね」だった。
 権力の象徴ともいうべく、ダフルのスーツに葉巻が似合うのは、権力と真正面から取り組んできたこの男だけだから。
 おいらの予想としては、
「菊池と桃井に子供ができて、その子供がなんらかのキーパーソンになる」
 だったけど、そんな色っぽい話はなく、いいなと思った菊池と桃井のカップルも、何もなかった・・・。
 
 

最近読んだ本 

2009-08-03 09:36:56 | 小説・読んだ本
「松浦宮物語」
 平安~鎌倉時代の古典小説。
 主人公の氏忠クンは、イケメン・有能・いい人のまさに「もうひとりの光源氏」、でもって遣唐使に選ばれてあっちの国で美人に琴を教えてもらうわ、戦争に参加するわ、皇后陛下と恋に落ちてしまうわと、なかなかスペクタクルな人生を送ってしまう。
 源氏物語は日本の国内に限ったお話だったけど、こっちは恋愛だけじゃなく芸に海外での冒険にと忙しい。恋愛英雄小説って言えばいいのかな・・・。
 源氏物語ほど「恋」の奥行きはないけれど、こんなふうに主人公がアクティブに動きまわるのは、男性が書いたものだからかもしれない。

「シャングリ・ラ」
 近未来SFってのは、どうも「貧困・富裕層の二極化」をこれでもかこれでもかと書いて、行き着く先が「革命」になってしまう作品が多い。
 ゴミと誇りと汚染の中から生まれる救世主・・・そういうありがちなものの中にも、この作品は細部までよくできて、キャラも魅力的な作品なので、読んでいると本当に「おなか一杯」なほど読みたおせる。
 でも・・・他の作家の作品である「バースト・ゾーン」「ブルータワー」を読んだときにも感じたけど、「いまひとつ、のめりこめない」
 たぶんおいらは、現実のゆく末をつきつけられるタイプの作品が、実は苦手なのかもしれない。
 だから熱狂して思い入れも持てないし、ホメちぎれないんだと思う。
 
 ところで・・・この作品で好きなキャラは、美邦様だ。
 やっぱ高貴のお方はああでなくちゃ!