店主敬白(悪魔の囁き)

栄進大飯店の店主さがみやがおくる日々の悪魔の囁き。競馬予想や文学・音楽・仕事のグチやちくりまでいろいろ。

死をポケットに入れろ

2005-05-28 20:54:45 | 小説・読んだ本
 おいらが好きな「アメリカのうるさいじいさん」ブコウスキーの晩年の日記である。
 ブコウスキーというと、「酒の上の武勇伝」ばかり取り上げられ、どんちゃん騒ぎとかそういうことの好きな人物のように受け取られているが、意外なほどに「まっとうな人」でもある。
 生活のためにキツイ郵便局の仕事を長年続けながら執筆を続けていたあたりからも、そのへんのことがうかがえるが、日記を見るとあまりまっとうとは言いがたいおいらでさえ、
「おお、そうだよな」
 と言いたくなるような事件やケースがいっぱいあった。
 ファンや取材を自称して、作家である彼のところにやってきて酒をたかる輩。
 競馬場で自分が負けると「こんなのいんちきだ」と叫ぶおやじ。
 彼はこういった厚かましい、こわれた連中にハラを立てまくっている。
 もうひとつおいらが注目したのは、詩人や文学者が彼の自宅に集まってきて「文化サロン」のようなものを形成するのだが、彼がそういった文化サロンの芸術的雰囲気に幻惑されず、集まってくる人間を冷たい目で見ていることだった。
 世の中には芸術的な仲間が自分のところに寄ってくると、自分もその仲間入りしたかのように有頂天になり、どっぷりそれにハマりこむ愚かな連中も多いけれど、彼は「自分ではお金を稼がず、母親や家族に庇護されながら芸術の道に進む」連中のインチキ臭さにこの日記でダメ出しをしている。(しかもそういった連中は経済的に自立している彼の金をあてにして飲みに来るのである)
 そんな連中にハラを立てる彼においらは、
「いいぞ、じいさん」
 と言ってしまいたくなる。
 ブコウスキーは一見酒に呑まれているように見えても、確かに「他人の、うすっぺらな見せかけの何か」を見破る力を持っていたのだ。
 そうおいらは信じている。
 だからおいらは呑んだくれていてもブコウスキーが好きなのだ。
 
 

まだ読んでいた「シルヴィア」

2005-05-26 01:29:09 | 小説・読んだ本
 前に詩人・シルヴィア・プラスのことをここに書いたが、この人の死の直前の月日を書いた小説「シルヴィア」(ケイド・モーゼス)を読んだ。
 もう全編、ものすごく重い。
 えんえんと続くシルヴィアの子育て悪戦苦闘の様子と、その中で詩を書かねばならないジレンマ。
 夫は別の女とよろしくやってて別居中だし、子育てでどんどんシルヴィアの自由になる創作時間は奪われていく。
 夫は育児に協力するどころか、妻が詩人として評価されるのを意図的に妨害するために家庭を放棄しているようだし、思いどうりにならない小さなこと(電話がなかなか敷設できないとか、子供が言うことをきかないとか)の積み重ねが、どんどんシルヴィアを追い詰めていくようすが、えんえんと綴られている。
 実際のシルヴィアはこの小説の終わるすぐ後に自殺しているので、作品が重いし、あと味が悪いのはしかたないことなのだが、
「いいかげんになんとかしてやれよ」
 と他の登場人物(特にろくでなしのクセに名士になりたがりの亭主)に言いたくなるほど、シルヴィアばかりがひどい目にあわされていく。
 読んでいると、どんどんおいらまでもこの苦しく長い戦いにまきこまれ、重苦しい気分になってくる。
 でも、女性の自立とか、家庭と仕事ということを考えたら、決してシルヴィアのいたここから目をそらせてはいけないのだろう。
 未だにすぐれた才能を持ちながらも、シルヴィアと同じようなひどい目にあっている人がいる限り、この小説とシルヴィアは輝き続ける。
 重く、暗い輝きだけど。

 

シルヴィア・プラスを読み始めて

2005-05-13 19:10:33 | 小説・読んだ本
 20年以上前に、「ユリイカ」か何かの自殺特集の本で、イギリスのシルヴィア・プラスという女性詩人のことを読んで以来、彼女のことが気になっていたのだが、最近になって地元の図書館に何冊か彼女の評論・詩集などがあるのを見つけ、しかも彼女に関する本がよく新刊コーナーに出ているので、見つけ出して読んでいる。
 フェミニズムという思想の世界では、彼女のことが「殉教者」として評価されているのだとか。
 自立できるほどの才能を持ちながら『女・母・詩人』と多様な役割を背負い込みすぎて自爆してしまったことに対する評価らしい。
 こんなことが解説に触れられていたので、ふと気になったのだが、ベビーシッターが一般的なアルバイトとして認められているイギリスでさえ、子供を持つシングルマザーはかなりきついのに、日本だったらもっとシングルマザーは厳しい状況なので、(ベビーシッターがそれほど一般的でない、保育園の入園もいろいろ制限があって厳しい等)彼女と同じような道をたどる女性が今後増えていくのではないかと思った。
 それはちょっと恐ろしい予感なのだが・・・この不景気で職も少なく、「実家の親がかり」の人でないとシングルマザーがなりたたなくなってくる厳しい状況に、ちょっとゾッとする。
 世の中は進化している、あまりに速い速度で・・・というが、ベビーシッターとかのサービス業に対してはまだまだ進化のスピードなんて遅すぎる、いらだつぐらいに遅い。

立原世界の二大凶悪女性キャラ

2005-05-06 00:54:40 | 小説・読んだ本
 立原正秋全集を少しずつ図書館から借りて読んでいるのだが、やはり主人公や主人公にからんでくる重要人物がわりとステレオタイプの「まっとうな人」なので、おいらとしては強烈な人のほうが印象に残ってしまうのだった。
 さてその凶悪キャラだが、とりあえず今のところは・・・。
①「残りの雪」の骨董や女主人(名前忘れたのですいません)
 本命の彼氏からもらったかなり高価な骨董品を、自分の店の商品として売りに出す。
 イマドキの「適当につきあった男からまきあげたブランド品を売り飛ばす」キャバクラねえちゃんも真っ青のすげー商魂である。しかも彼氏がもうキライになったからいらないとかではない。彼氏のことは好きなのにプレゼント品は売る。しかもそのことでふたりが気まずくなったのに反省してるんだかどうかわかんない。
 彼氏のほうが、そんな彼女に見切りをつけて別の彼女(これが主人公)を作ると今度は逆ギレしてふたりの仲を(それと別に妻がいる彼と、独身女性の不倫カップルなのだ)彼の妻にチクる。
 それでもふたりが別れられないとなると、探偵のようにふたりに張りつき再度ちくり。
②「舞の家」の次女・類。
 人もうらやむリッチな生活をして、花形能役者の夫がいながら、主人公である三姉妹の長女・綾(自分の姉だ)の夫を寝とってしまう。
 自分の生活に特に不満があるわけでもないのに、姉の家庭を壊してついでに自分も子供を捨てて出奔。
 適当な遊びでやめておけばいいのに、その「わけのわからない貪欲さ」で寝取ったはずの姉の夫も自殺に追い込む。どうやらこの女は「それがとこからくるのか、自分でもよくわかっていないありあまるパワーを撒き散らし、巻き添えになった人をひどい目にあわせる」タイプらしい。
 (というか頭があまりよろしくないので、自己分析ができないのである)
 姉を精神的に追い込み、結局自分はお水に転向する。
 とりあえず今のところ、おいら的にはこのふたりが立原凶悪キャラの二巨頭なのだが、まだ続きはいっぱいある。今後凶悪キャラがもつと増えてランキングができてくれば、それはそれで楽しいかもしれないと思っている。
  

楽しい???ムーミン一家

2005-05-02 22:43:48 | 小説・読んだ本
 トーべ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズをおいらは小学生のときから、くりかえし読んで来ている。
 最近になってまた読み返してみて、ふと「本当にムーミン一家は楽しいのか?」ということを考えてしまった。
 ここで言うムーミン一家とは、ムーミントロール・ムーミンママ、ムーミンパパ及びその家に住んでいるちびのミイ、スニフなどを含めた一家のことである。
 まず、彼らはよく災難にあう。天災である彗星大接近で避難民生活を余儀なくされたり、洪水。
 まあ天災はしかたないとして「人災」もひどい。魔法の帽子を拾って家がジャングルになったりする魔法がらみのトラブル、家に遊びにきたトンデモな人、おおぜいの難民等常にとんでもなことが起こっているような気がする。
 まあ、家庭生活なんて単調な人のほうが多いから、多少とんでもでも変化があつたほうが愉快なのかもしれないが。
 難民とお客様の数も多いと思う。
 まあ小動物やそれぐらいのサイズの架空の生き物が、何かあるとばんばんムーミン谷にやってきて、ムーミン家にやってくるのだ。
 それでもってムーミンママの備蓄食料を食っていったり、トラブルの種をまいたりする。
「お金がかかるから、家にお客様は連れてこないで」
「疲れるし家の中を見られたくないから友人や近所の人は連れてこない」
 などとほざくどこかの主婦とは大違いだ。
 しかもそういうことを想定してさりげなくいろいろ備蓄しているあたり、ムーミンママはやはり偉大である。
 

祝・二輪之書ギャンブルレーサー4巻

2005-04-29 21:20:56 | 小説・読んだ本
 おいらは、競輪をまったくしなかった時代からこのマンガが大好きだった。
 このマンガを好きになった理由は「絵柄」だった。
 おいらにしては珍しいことかもしれないのだが、最初にこの田中誠の絵を見たとき、
「どうしてこんな、テンプレート(製図・デザインに使う穴あき定規のことです)で全部描いたみたいな直線と曲線だらけの絵が描けるのだろう」
 と思ったのだ。
 そして絶対美男美女が出てこない。
 小汚くイカレタ現実そのままのキャラが、ばんばん動き回る。
 このへんが美形乱発のアニメや少女漫画にあきてきたおいらに、当時すごく新鮮だったのです。
 
 でもこのへんでちょっと気の毒に思うのは、関優一が本当にブスばっかに囲まれていること。
 せめてウリの奥さんぐらいにマトモな人にそろそろ出会って欲しいのだが・・・。
 相変わらず金の亡者金梨も健在です。
 そのぶん武蔵の影が薄くなってきた気がしますが、いつか金梨対武蔵の両極端なキャラどうしの対決も見て見たい気がしまつ。
 
 
 

強烈なヒト

2005-04-22 13:49:11 | 小説・読んだ本
 先月からぼつぼつと、立原正秋全集を図書館から借りてきている。
 今「13」まで読み終わっているところだが、この中の「血と砂」という作品にとんでもない女の人が出てくる。
 百合子という医者の妻で、とにかく男とエッチしていなとダメ。
 夫以外の愛人がいるのは当たり前で、しかもその愛人に昼夜かまわず電話をかけまくり、そいつの職場に押しかけて(日参して)いき、昼休みの時間にエッチを要求。
 そして夕方まで職場の近くで待機し、終業時間にまたもや相手を拉致(拉致としか言いようのない強引さ)していく。
 ストーカーなんて言葉のなかったのどかな時代だか、これでは出待ち入り待ちのライブハウスの追っかけのねえちゃんも顔負けである。
 こんなことを繰り返しているので、愛人からも「ついていけない」と愛想をつかされ続けているのだが、次から次へと相手を探し、弄ばれようと愛人に売り飛ばされようと恨んでもすぐ忘れ、ひたすらエッチに没入していく。
 心の支えとしての愛が欲しいのでも、癒しが欲しいのでもない。
 ただただ「やりたい」のだ。
 それでしか心のスキマや欠落を埋めることができない。
 通り過ぎたあとに何があるということも、決して振り向かず、肉欲を貪り続けるだけの生活。
 何故自分がそんなにやりたいかなんてもちろん考えてもみない、「小脳」だけで生きているようなヤツは、早くもここにいたのかと思った。
 立原は「日本が平和になってしまったので(平和ボケで)ああいうのが出てくる」とこの女性を斬っているが、平和だからエネルギーがありあまり、ひたすら肉欲につっ走っていくのか。
 なんかこの女、平和とは別に心に問題がありそうなんだけど。
 そんなわけでこいつがストーリーと全然別なところであまりに強烈な行動を続けるので、おいらは主人公やその周囲の人々の姿をすっかり忘れ、ずっとこの女を話の中で追い続けてしまった。
 立原正秋をこんな読み方しちゃいけないんだろうけどね。

徹夜して読んだ本

2005-02-28 19:08:25 | 小説・読んだ本
 いや、昨日は仕事でもないのに久々に徹夜いたしました。
 どうも休業中だと時間の使い方がたらしなくなってくるからできるのですが。
 で、徹夜して読んだのは石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」シリーズです。
 (図書館でどこぞのヴァカがずっと借りっぱなしにしてたヤツ。しかたないから文庫で買った)
 この疾走感、クールさ・・・おやじ向けワル小説にない乾いた味。
 東京の中でイマイチ垢抜けない池袋の町が、魅力的になってくる描写。
 巻末にくだらねえ知識の羅列みたいな誰かさんの解説がなきゃ、もっといいんだけどね。
 いつのまにか私も本の中のマコトの動きを猛スピードで追いながら徹夜してしまいました。
 出てくるキャラクターにも、ほどよいスパイスがきいててなかなかいいです。
 自分にはもう過ぎていったガキ帝国の世界の話なのに、この不思議なぐいぐい引き込まれるような魅力にとうぶんハマりそうです。
 
 
 

 

歴史小説

2005-02-23 10:09:15 | 小説・読んだ本
 最近はずっと池宮彰一郎の「平家」を読んでます。
 全4冊のうち3冊まで読了。
 この本がおもしろかったのはあの古典の名作「平家物語」を解体してしまったことです。
 今までに出ている小説は、女性の視点で平家物語を読み替えたり、平家物語の足りない部分を補ったり、なんらかの形で平家物語に沿って書かれたものが多かったけれど、この本は平家物語のカラーを完全に取っ払い、一代の政治家清盛の「政治小説」なのかなと思ってしまいます。
 「平家物語のヒーローのひとり」と言われるあの重盛を「バカ」といわんばかりな言い回しで斬って捨てるあたり、すがすがしさを感じてしまうおいらはヘンでしょうか?
 
 歴史小説は、好きなジャンルのひとつです。