からっ風と、繭の郷の子守唄(79)
「座ぐり糸の修行をした、碓氷製糸場を案内する千尋の本音は・・・・」
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「今日は先日のお礼に、私が修行をしてきた碓氷製糸と今のアトリエを案内します。
繭から生糸を引き出す工程ばかりですから、康平さんには面白くないかもしれませんが、
ここが私の新しい原点で、お仕事が始まった場所です」
『私をしっかりと見つめてくださいね』と遠まわしに千尋から言われてたような気がしました。
康平が思わず、千尋のそんな横顔をしっかりと見つめかえしています。
時刻はまだ午前8時。目の前に佇む製糸場に稼働している雰囲気は見当たりません。
無人の工場内へ足を踏み入れた千尋が、まず右手の高い位置を指さしました。
「荷受所の後ろに見える、換気塔のついた赤い屋根の建物が乾繭所です。
農家から送られてきた繭はまだ生きています。
そのまま置いておくと、蛾が穴を開けて繭から出てきてしまいます。
繰糸するまでのあいだ繭が保管できるように、熱風で乾燥させ殺蛹をします。
この行程のことを「乾繭(かんけん)」と呼んでいます。
碓氷製糸の乾繭機は多段バンド式という方式で、ベルトコンベアの上を繭が移動しながら
乾燥させていく大型の機械です。投入口は2階にあり、取出口は1階になります。
後ろに見える青い壁の腰折れ屋根の建物は、乾繭を保存しておくための倉庫です。
あら・・・・なんだか説明が、新人の中途半端なガイドさんみたいです。
ごめんなさい。味気ない説明の仕方で。
でも、ここは私がはじめて群馬で親しんだ、最初の自分の庭です」
『どうぞ』と千尋が、入口のドアを開け康平を内部へ導きます。
日本中から届く生繭がどのようにして生糸となり、どのような荷姿になって出荷されていくのか、
その様子と製糸工場での工程の順序を、7つの工程に沿って説明をはじめてくれました。
「全国各地から届いた袋詰めの生繭は、まず「荷受け場」へ届きます。
蚕品種ごとに品質管理のためのサンプリングを、まず行います。
選除繭(せんじょけん)と呼ばれている場所が繭の最初の工程です。
ここでは、汚れなどの欠点のある繭の割合を調べ、品質の確認などを行います。
第2段階の「乾繭(かんけん)」は、繭に熱風を当てて蛹を殺し、
乾燥をさせるための工程です。
繭は金網のコンベアーに載せられて、30分ほどかけてゆっくりと乾燥機の中を流れていきます。
最高125度の高温で上の段、その後に下の段に落とされて、60度での乾燥が約30分間続きます。
その工程を5~6時間かけ5往復して、乾繭の作業がようやく完了します。
繭の中の蛹は、放っておくと蛾となって繭をやぶって飛び立ちます。
破れた繭は汚れて品質が低下をするために、生糸には適しません。
そのために長い時間をかけてしっかりと乾燥させることで、繭が汚れるのを防ぎ、
保管中に、カビなどが発生しないようにするのです。
蛹は、新潟県小千谷の錦鯉のエサや釣りの練エサの材料、長野県伊那で作られる
蛹の佃煮などの食用として利用されます。
乾繭を終えた繭はその後、倉庫へと移され、品種や季節(何年、春、夏、秋など)、
生産地域などによって分類をされ、それぞれ個別に管理をされます。
乾繭により、10kgほど有った繭は6割ほど減り、4kgになってしまいます。
そこから生糸になるのは2kgほどで、2kgの生糸からは反物が2反作ることができます。
一反の絹織物に必要な生糸量は、約1kgです。
「1kgの生糸を作るのに必要な繭の量は、約2600粒。
重さにして4.9kgです。かなりの量の繭を使わないと1反分の生地はできません。
その数の繭を算出するのに必要なお蚕さんは、約2700頭。幼虫ですから匹とは呼びません。
この約100頭の差は「減蚕歩合」といって、途中で死んだり、
繭を形成しなかったりなどによるロス分のことで、通常約5%ほど発生をします」
「2700頭。一反のためには、気の遠くなるような蚕が必要なんだ」
「手で糸を引くという作業は、もっと気の遠くなるような作業です。
私も最初の頃は、いくら頑張っても一日に、200gひくのがせいっぱいでした。
乾繭を終えた繭は「選繭(せんけん)台」に乗せられ、下から光を当てて透かし、
汚れた繭をひとつひとつ手で取り除いていく作業へ移行します。
通常の繭よりひとまわり大きめの玉繭(二頭の蚕が一緒にひとつの繭を作ったもの)
はよけて、紬用として使うために別の場所へ集めていきます。
蚕の飼育は、大きく分けて年に4回です。
春蚕(はるご)は5月。夏蚕(なつご)は6月。初秋蚕(しょしゅうさん)は7月。
晩秋蚕(ばんしゅうさん)は8月と季節ごとに、呼び方も変わります。
製糸場は、これらの繭を常に貯蔵しておくための設備が必要になるために、
ある意味では、巨大な繭の倉庫になります」
「そういえば、富岡市にある、富岡製糸場の2つのまゆ倉庫も巨大です。
東繭倉庫と西繭倉庫。どちらもともに長さが114m、高さ14m、奥行きが12mもある建物でした。
明治5年に建てられたために、すべてメートル法で設計されたものを
日本の棟梁たちが、尺貫法に書き直して造ったそうです。
柱は32cmの杉材で梁は松材、屋根瓦は本工場も含めて総計で22万枚にものぼる。
何故このような大きな物が必要だったかというと、当時の養蚕は
年に1回だけの「掃き立て(収繭)」であったためです。
それらの繭を一年間収納をしておくために、巨大な「繭倉庫」が2棟も必要だったようです。
と、世界遺産入りを目指している富岡製糸場のホームページに、記述がありました」
「あら素敵。だいぶ絹に関しての情報が豊富になってきましたね」
「織姫さんと付き合うためには最低限でも、このくらいの勉強はしておかないと」
「残念でした。私は織姫ではなくただの糸取り女です。
どなたか別にいらっしゃるのかしら。いまどきに機などを織る美人の織姫さんが」
「あ、しくじった・・・・。やはり一夜漬けには無理がある」
「ねぇぇ。ゆっくりと製糸場を案内しようと思ったけれど、私もそこそこ飽きてきました。
お天気も良さそうですし、どこかツーリングにでも出かけませんか。
あなたのスクーターのバックシートって、思いのほか居心地がいいんですもの。
もう病みつきになってしまいました。ねぇ、そうしましょうよ」
「そういう可能性も有ると思って、一応、君のぶんのヘルメットも用意してきた」
「さすが康平くん。あたしの想いが、願ったり叶ったりです。
実は、先日とはまた別に、ツーリング用のパンツなども急いで買ってしまいました。
すぐに履き替えてまいりますので、工場の表でまた落ち合いましょう」
「せっかくの工場見学の途中だろう?
もうすこしだけ、君の名調子のガイドにも聞きたかったし、
この先の繭の工程などにも、若干ながらも興味があるんだけどなぁ・・・・」
「まだこのうえ私の詰まらない説明を、どうしても聞きたいの、あなたは?。
3番目の工程で選繭(せんけん)を終えた繭は、生糸にするために
4番目の煮繭(しゃけん)をします。わかるわね、お湯で煮て繭を柔らかくする工程よ。
5番目は繰糸(そうし)と呼ばれる作業で、柔らかくなった繭から糸口を見つけ出します。
生糸を引き出すための準備をするためのもので、これもまたお湯の中での作業です。
自動操糸機で引き出された小枠の生糸を、別の器械で大枠に巻き直す工程が
6番目の工程の、揚返しという作業です。
大枠からはずして、ほどけないように糸留めして、綛(かせ)という単位で束ね、
プラスチック製のボビンに巻き取り、出荷に便利な形にすることを、
7番目の、仕上げと出荷の工程と呼んでいます。
以上で終わりです。
のちほどメールで詳しく書き送りますから、それで読んでくださいな。
では、早速、座ぐり女が、ツーリングのための着替えなどに行ってまいります~!」
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・「新田さらだ館」は、
日本の食と農業の安心と安全な未来を語る、地域発のホームページです
http://saradakann.xsrv.jp/
「座ぐり糸の修行をした、碓氷製糸場を案内する千尋の本音は・・・・」
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「今日は先日のお礼に、私が修行をしてきた碓氷製糸と今のアトリエを案内します。
繭から生糸を引き出す工程ばかりですから、康平さんには面白くないかもしれませんが、
ここが私の新しい原点で、お仕事が始まった場所です」
『私をしっかりと見つめてくださいね』と遠まわしに千尋から言われてたような気がしました。
康平が思わず、千尋のそんな横顔をしっかりと見つめかえしています。
時刻はまだ午前8時。目の前に佇む製糸場に稼働している雰囲気は見当たりません。
無人の工場内へ足を踏み入れた千尋が、まず右手の高い位置を指さしました。
「荷受所の後ろに見える、換気塔のついた赤い屋根の建物が乾繭所です。
農家から送られてきた繭はまだ生きています。
そのまま置いておくと、蛾が穴を開けて繭から出てきてしまいます。
繰糸するまでのあいだ繭が保管できるように、熱風で乾燥させ殺蛹をします。
この行程のことを「乾繭(かんけん)」と呼んでいます。
碓氷製糸の乾繭機は多段バンド式という方式で、ベルトコンベアの上を繭が移動しながら
乾燥させていく大型の機械です。投入口は2階にあり、取出口は1階になります。
後ろに見える青い壁の腰折れ屋根の建物は、乾繭を保存しておくための倉庫です。
あら・・・・なんだか説明が、新人の中途半端なガイドさんみたいです。
ごめんなさい。味気ない説明の仕方で。
でも、ここは私がはじめて群馬で親しんだ、最初の自分の庭です」
『どうぞ』と千尋が、入口のドアを開け康平を内部へ導きます。
日本中から届く生繭がどのようにして生糸となり、どのような荷姿になって出荷されていくのか、
その様子と製糸工場での工程の順序を、7つの工程に沿って説明をはじめてくれました。
「全国各地から届いた袋詰めの生繭は、まず「荷受け場」へ届きます。
蚕品種ごとに品質管理のためのサンプリングを、まず行います。
選除繭(せんじょけん)と呼ばれている場所が繭の最初の工程です。
ここでは、汚れなどの欠点のある繭の割合を調べ、品質の確認などを行います。
第2段階の「乾繭(かんけん)」は、繭に熱風を当てて蛹を殺し、
乾燥をさせるための工程です。
繭は金網のコンベアーに載せられて、30分ほどかけてゆっくりと乾燥機の中を流れていきます。
最高125度の高温で上の段、その後に下の段に落とされて、60度での乾燥が約30分間続きます。
その工程を5~6時間かけ5往復して、乾繭の作業がようやく完了します。
繭の中の蛹は、放っておくと蛾となって繭をやぶって飛び立ちます。
破れた繭は汚れて品質が低下をするために、生糸には適しません。
そのために長い時間をかけてしっかりと乾燥させることで、繭が汚れるのを防ぎ、
保管中に、カビなどが発生しないようにするのです。
蛹は、新潟県小千谷の錦鯉のエサや釣りの練エサの材料、長野県伊那で作られる
蛹の佃煮などの食用として利用されます。
乾繭を終えた繭はその後、倉庫へと移され、品種や季節(何年、春、夏、秋など)、
生産地域などによって分類をされ、それぞれ個別に管理をされます。
乾繭により、10kgほど有った繭は6割ほど減り、4kgになってしまいます。
そこから生糸になるのは2kgほどで、2kgの生糸からは反物が2反作ることができます。
一反の絹織物に必要な生糸量は、約1kgです。
「1kgの生糸を作るのに必要な繭の量は、約2600粒。
重さにして4.9kgです。かなりの量の繭を使わないと1反分の生地はできません。
その数の繭を算出するのに必要なお蚕さんは、約2700頭。幼虫ですから匹とは呼びません。
この約100頭の差は「減蚕歩合」といって、途中で死んだり、
繭を形成しなかったりなどによるロス分のことで、通常約5%ほど発生をします」
「2700頭。一反のためには、気の遠くなるような蚕が必要なんだ」
「手で糸を引くという作業は、もっと気の遠くなるような作業です。
私も最初の頃は、いくら頑張っても一日に、200gひくのがせいっぱいでした。
乾繭を終えた繭は「選繭(せんけん)台」に乗せられ、下から光を当てて透かし、
汚れた繭をひとつひとつ手で取り除いていく作業へ移行します。
通常の繭よりひとまわり大きめの玉繭(二頭の蚕が一緒にひとつの繭を作ったもの)
はよけて、紬用として使うために別の場所へ集めていきます。
蚕の飼育は、大きく分けて年に4回です。
春蚕(はるご)は5月。夏蚕(なつご)は6月。初秋蚕(しょしゅうさん)は7月。
晩秋蚕(ばんしゅうさん)は8月と季節ごとに、呼び方も変わります。
製糸場は、これらの繭を常に貯蔵しておくための設備が必要になるために、
ある意味では、巨大な繭の倉庫になります」
「そういえば、富岡市にある、富岡製糸場の2つのまゆ倉庫も巨大です。
東繭倉庫と西繭倉庫。どちらもともに長さが114m、高さ14m、奥行きが12mもある建物でした。
明治5年に建てられたために、すべてメートル法で設計されたものを
日本の棟梁たちが、尺貫法に書き直して造ったそうです。
柱は32cmの杉材で梁は松材、屋根瓦は本工場も含めて総計で22万枚にものぼる。
何故このような大きな物が必要だったかというと、当時の養蚕は
年に1回だけの「掃き立て(収繭)」であったためです。
それらの繭を一年間収納をしておくために、巨大な「繭倉庫」が2棟も必要だったようです。
と、世界遺産入りを目指している富岡製糸場のホームページに、記述がありました」
「あら素敵。だいぶ絹に関しての情報が豊富になってきましたね」
「織姫さんと付き合うためには最低限でも、このくらいの勉強はしておかないと」
「残念でした。私は織姫ではなくただの糸取り女です。
どなたか別にいらっしゃるのかしら。いまどきに機などを織る美人の織姫さんが」
「あ、しくじった・・・・。やはり一夜漬けには無理がある」
「ねぇぇ。ゆっくりと製糸場を案内しようと思ったけれど、私もそこそこ飽きてきました。
お天気も良さそうですし、どこかツーリングにでも出かけませんか。
あなたのスクーターのバックシートって、思いのほか居心地がいいんですもの。
もう病みつきになってしまいました。ねぇ、そうしましょうよ」
「そういう可能性も有ると思って、一応、君のぶんのヘルメットも用意してきた」
「さすが康平くん。あたしの想いが、願ったり叶ったりです。
実は、先日とはまた別に、ツーリング用のパンツなども急いで買ってしまいました。
すぐに履き替えてまいりますので、工場の表でまた落ち合いましょう」
「せっかくの工場見学の途中だろう?
もうすこしだけ、君の名調子のガイドにも聞きたかったし、
この先の繭の工程などにも、若干ながらも興味があるんだけどなぁ・・・・」
「まだこのうえ私の詰まらない説明を、どうしても聞きたいの、あなたは?。
3番目の工程で選繭(せんけん)を終えた繭は、生糸にするために
4番目の煮繭(しゃけん)をします。わかるわね、お湯で煮て繭を柔らかくする工程よ。
5番目は繰糸(そうし)と呼ばれる作業で、柔らかくなった繭から糸口を見つけ出します。
生糸を引き出すための準備をするためのもので、これもまたお湯の中での作業です。
自動操糸機で引き出された小枠の生糸を、別の器械で大枠に巻き直す工程が
6番目の工程の、揚返しという作業です。
大枠からはずして、ほどけないように糸留めして、綛(かせ)という単位で束ね、
プラスチック製のボビンに巻き取り、出荷に便利な形にすることを、
7番目の、仕上げと出荷の工程と呼んでいます。
以上で終わりです。
のちほどメールで詳しく書き送りますから、それで読んでくださいな。
では、早速、座ぐり女が、ツーリングのための着替えなどに行ってまいります~!」
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・「新田さらだ館」は、
日本の食と農業の安心と安全な未来を語る、地域発のホームページです
http://saradakann.xsrv.jp/