オヤジ達の白球(55)初優勝
4番にキュウリ農家をくわえたドランカーズの、快進撃がはじまる。
20対0で初戦を快勝。
つづく2回戦も12対2の楽勝ゲーム。これで2連勝。
Aブロックの暫定1位として、1日目の日程をおえる。
ソフトボールには、コールドゲームの規定がある。
これまでは、5回以降7点差。
今年から新たに3回以降15点差、4回以降10点差という規定が追加された。
これらは公式の競技会で適用される。
親睦大会においては懇親を重視する意味合いからコールドを適用しない。
そのためこんな大差のゲームが成立してしまう。
初戦、2回戦、ともに北海の熊がひとりで投げる。
受けるのはもちろん、キュウリ農家で4番を打つ小山慎吾。
ベンチに坂上の姿はない。
足を痛めた柊の姿もない。
ドランカーズの快進撃はとまらない。
2日目。Aブロックの3回戦がおこなわれる。
この試合も15対3の大差で勝つ。
いきおいに乗ったまま順位を決める決定戦にのぞむ。
Aブロックの1位として、Bブロックを勝ち上がってきた古豪チームと対戦する。
この試合も8対0で勝利する、
かくして居酒屋チームののんべぇ軍団がいきなりの登場で、初優勝という
快挙をとげてしまう。
とうぜんの結果として、祝勝会の酒がとまらなくなる。
午後5時からはじまった祝勝会が、深夜の1時をまわっても終わる気配がない。
呑み潰れた男がひとりふたりと、奥の小上がりで横たわる。
そんな中。真っ赤な顔をした北海の熊が、岡崎の隣りへどかりと腰をおろす。
「呑め!」空っぽの茶碗を岡崎の前へ差し出す。
「どうしているんだ。敵前逃亡した坂上のやつは。その後?」
熊が岡崎の茶碗へ、あふれるまで酒をつぐ。
「どうにもこうもないさ。
あの野郎はあいかわらず、壁にむかって黙々と球をなげている」
「飽きずにまだ投げているのか、あの野郎は。
で、当然のことながらお前は受けているんだろうな、あいつの球を」
熊の赤く濁った眼が、ぎょろりと岡崎をのぞきこむ。
「俺にも仕事がある。
進歩の無い男に、いつまでも付き合っているほど暇じゃねぇ。
そうでなくても自動車産業の下請けだ。
月がかわるたび、親会社から単価の切り下げでいじめられてんだぜ。
とにかく忙しい。だが、そのわりに売り上げは伸びねぇ。
坂本の球を、のんびりと受けている場合じゃねぇ」
「同級生だろうお前と坂上は。つめてぇなぁ、おめえって男も」
なんだ。誰の噂をしているのかと思えば、敵前逃亡した坂上の話か、
おれにも聞かせろと、もと消防士の寅吉が割り込んでくる。
「坂上?。ひょっとして、野球部の先輩だった坂上一郎さんのことですか?」
寅吉の背後からひょいと小山慎吾が顔を出す。
「なんだ、小山は、坂上のことを知ってんのか?」
「中学の時の2年先輩です。
外野で石拾いばかりしていたから、よく覚えています」
「なんだ。野球の練習をしないで、外野で石ばかり拾っていたのか坂上のやつは。
道理でルールなんか覚えていないはずだ」
「消防の試合で、敵前逃亡したというのは坂上先輩のことだったんですか・・・」
「おう。ウインドミルをはじめたばかりでな、四球を山のように連発した。
消防に一度もバットを振らせず、押し出し押し出しで3点を献上した。
自分の不甲斐なさに愛想が尽きたんだろ。
投手の交代を自ら宣言して、球場からさっさと姿を消しちまったのさ」
「そうですか・・・そんな事が有ったんですか。
受けてみたかったですねぇ。坂上先輩がいったいどんな球を投げるのか・・・」
(56)へつづく
4番にキュウリ農家をくわえたドランカーズの、快進撃がはじまる。
20対0で初戦を快勝。
つづく2回戦も12対2の楽勝ゲーム。これで2連勝。
Aブロックの暫定1位として、1日目の日程をおえる。
ソフトボールには、コールドゲームの規定がある。
これまでは、5回以降7点差。
今年から新たに3回以降15点差、4回以降10点差という規定が追加された。
これらは公式の競技会で適用される。
親睦大会においては懇親を重視する意味合いからコールドを適用しない。
そのためこんな大差のゲームが成立してしまう。
初戦、2回戦、ともに北海の熊がひとりで投げる。
受けるのはもちろん、キュウリ農家で4番を打つ小山慎吾。
ベンチに坂上の姿はない。
足を痛めた柊の姿もない。
ドランカーズの快進撃はとまらない。
2日目。Aブロックの3回戦がおこなわれる。
この試合も15対3の大差で勝つ。
いきおいに乗ったまま順位を決める決定戦にのぞむ。
Aブロックの1位として、Bブロックを勝ち上がってきた古豪チームと対戦する。
この試合も8対0で勝利する、
かくして居酒屋チームののんべぇ軍団がいきなりの登場で、初優勝という
快挙をとげてしまう。
とうぜんの結果として、祝勝会の酒がとまらなくなる。
午後5時からはじまった祝勝会が、深夜の1時をまわっても終わる気配がない。
呑み潰れた男がひとりふたりと、奥の小上がりで横たわる。
そんな中。真っ赤な顔をした北海の熊が、岡崎の隣りへどかりと腰をおろす。
「呑め!」空っぽの茶碗を岡崎の前へ差し出す。
「どうしているんだ。敵前逃亡した坂上のやつは。その後?」
熊が岡崎の茶碗へ、あふれるまで酒をつぐ。
「どうにもこうもないさ。
あの野郎はあいかわらず、壁にむかって黙々と球をなげている」
「飽きずにまだ投げているのか、あの野郎は。
で、当然のことながらお前は受けているんだろうな、あいつの球を」
熊の赤く濁った眼が、ぎょろりと岡崎をのぞきこむ。
「俺にも仕事がある。
進歩の無い男に、いつまでも付き合っているほど暇じゃねぇ。
そうでなくても自動車産業の下請けだ。
月がかわるたび、親会社から単価の切り下げでいじめられてんだぜ。
とにかく忙しい。だが、そのわりに売り上げは伸びねぇ。
坂本の球を、のんびりと受けている場合じゃねぇ」
「同級生だろうお前と坂上は。つめてぇなぁ、おめえって男も」
なんだ。誰の噂をしているのかと思えば、敵前逃亡した坂上の話か、
おれにも聞かせろと、もと消防士の寅吉が割り込んでくる。
「坂上?。ひょっとして、野球部の先輩だった坂上一郎さんのことですか?」
寅吉の背後からひょいと小山慎吾が顔を出す。
「なんだ、小山は、坂上のことを知ってんのか?」
「中学の時の2年先輩です。
外野で石拾いばかりしていたから、よく覚えています」
「なんだ。野球の練習をしないで、外野で石ばかり拾っていたのか坂上のやつは。
道理でルールなんか覚えていないはずだ」
「消防の試合で、敵前逃亡したというのは坂上先輩のことだったんですか・・・」
「おう。ウインドミルをはじめたばかりでな、四球を山のように連発した。
消防に一度もバットを振らせず、押し出し押し出しで3点を献上した。
自分の不甲斐なさに愛想が尽きたんだろ。
投手の交代を自ら宣言して、球場からさっさと姿を消しちまったのさ」
「そうですか・・・そんな事が有ったんですか。
受けてみたかったですねぇ。坂上先輩がいったいどんな球を投げるのか・・・」
(56)へつづく