北へふたり旅(12)
翌朝、4時、家を出る。
ゴルフ場へ車を向ける。
この時間帯ですでに、東の空は明るい。
Fゴルフ場まで15分。
自宅から、いちばん近いゴルフ場だ。
途中でひなびた温泉地、藪塚温泉郷を通りぬける。
昔、新田義貞が鎌倉攻めで傷ついた兵を療養させたことから、
義貞かくし湯伝説がのこっている。
千年以上途絶えたことのない豊富な湯は、無色透明の重曹泉。
肌をすべすべにし、肝臓の働きを活発にする。
内臓にやさしい藪塚の湯は、女性にも男性にも嬉しい効能をもたらす。
およそ半世紀前。ここには人があふれていた。
農閑期にはいった農民たちが、大挙してここへ骨休めのためにやってきた。
通りに面した3階建ての旅館に、人があふれた。
大広間に入りきれない人たちが、居場所を求めて廊下や階段まで占拠した。
50年が経った今、かつての賑わいはまったく残っていない。
人の気配が消えた3階建ての建物だけが残っている。
通りもさびれた。
そんなに温泉街を、車はあっという間に通過していく。
最奥の宿、室田館から道が里山へ入る。
左右にくねりながら坂道を3分ほど登る。
車がおおきく左へまがると、そこだけ景色が急にひらける。
左右はすでにFゴルフ場。
到着するまであと5分。クラブハウスまでの急坂を駆けあがっていく。
「誰だろうね。4人目は?。女性かな・・・」
「会長かもしれません」
会長とは地元土建業の、もと社長のことだ。
65歳をこえたため会社を息子に譲り、いまはゴルフ三昧ですごしている。
12歳年下の美女に熱をあげているという噂は、ゴルフ界で有名だ。
「ママも、自分から墓穴を掘るような人選はしないだろう。
4人目は、女性のような気がするな」
「そうかしら…
水商売の女は、利用できるものはなんでも利用するものよ。
勝手に熱をあげて、男性の方から寄って来るんだもの。
絶好のチャンスじゃないの」
「君ならそういう男と、ゴルフするかい?」
「ときと場合によります。
でも引退した今となっては、ひとさまの機嫌を取るのは嫌ですね。
気楽に楽しまなきゃ、自分のためのゴルフですもの」
4時13分。駐車場へ到着。いつもより少し早い。
入り口に車が2台。どちらの車も見覚えがある。
赤い軽は12歳年下の美女。
もう一台は美女とつねにスコアを競い合っている、もうひとりの美女。
ということは今日は、美女にかこまれたゴルフになる。
「おはよう!」
早速、いつもの黄色い声がとんできた。
(13)へつづく
翌朝、4時、家を出る。
ゴルフ場へ車を向ける。
この時間帯ですでに、東の空は明るい。
Fゴルフ場まで15分。
自宅から、いちばん近いゴルフ場だ。
途中でひなびた温泉地、藪塚温泉郷を通りぬける。
昔、新田義貞が鎌倉攻めで傷ついた兵を療養させたことから、
義貞かくし湯伝説がのこっている。
千年以上途絶えたことのない豊富な湯は、無色透明の重曹泉。
肌をすべすべにし、肝臓の働きを活発にする。
内臓にやさしい藪塚の湯は、女性にも男性にも嬉しい効能をもたらす。
およそ半世紀前。ここには人があふれていた。
農閑期にはいった農民たちが、大挙してここへ骨休めのためにやってきた。
通りに面した3階建ての旅館に、人があふれた。
大広間に入りきれない人たちが、居場所を求めて廊下や階段まで占拠した。
50年が経った今、かつての賑わいはまったく残っていない。
人の気配が消えた3階建ての建物だけが残っている。
通りもさびれた。
そんなに温泉街を、車はあっという間に通過していく。
最奥の宿、室田館から道が里山へ入る。
左右にくねりながら坂道を3分ほど登る。
車がおおきく左へまがると、そこだけ景色が急にひらける。
左右はすでにFゴルフ場。
到着するまであと5分。クラブハウスまでの急坂を駆けあがっていく。
「誰だろうね。4人目は?。女性かな・・・」
「会長かもしれません」
会長とは地元土建業の、もと社長のことだ。
65歳をこえたため会社を息子に譲り、いまはゴルフ三昧ですごしている。
12歳年下の美女に熱をあげているという噂は、ゴルフ界で有名だ。
「ママも、自分から墓穴を掘るような人選はしないだろう。
4人目は、女性のような気がするな」
「そうかしら…
水商売の女は、利用できるものはなんでも利用するものよ。
勝手に熱をあげて、男性の方から寄って来るんだもの。
絶好のチャンスじゃないの」
「君ならそういう男と、ゴルフするかい?」
「ときと場合によります。
でも引退した今となっては、ひとさまの機嫌を取るのは嫌ですね。
気楽に楽しまなきゃ、自分のためのゴルフですもの」
4時13分。駐車場へ到着。いつもより少し早い。
入り口に車が2台。どちらの車も見覚えがある。
赤い軽は12歳年下の美女。
もう一台は美女とつねにスコアを競い合っている、もうひとりの美女。
ということは今日は、美女にかこまれたゴルフになる。
「おはよう!」
早速、いつもの黄色い声がとんできた。
(13)へつづく