北へふたり旅(21)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/fa/fe76ab57ada21cd04d55a0ee40d0f177.jpg)
入院から4日目。妻が退院した。
途中スポーツショップへ寄り、一番やわらかいゴムのボールを買って来た。
「こんなやわらかいヤツで、ホントにいいの?。
ほら。フニャフニャだぜ」
「このくらいでいいの。
生まれたての赤ちゃんの握力ですもの」
かるく握りしめただけで、ゴムのボールが半分になる。
「それよりあなた。たいへんです、今夜から。
ふたりでお風呂にはいるなんて何年ぶりかしらねぇ。
怪我の光明というのは、こういうことをいうのかしら。うふっ」
そうだ。妻の右手はまだ使えない。
手首にうっすらと、黒い充血がのこっている。
風呂へはいる許可は出たが不具合の手では、身体を洗うことができない。
「そうか。そうなると、とうぶん新婚だな。おれたちは」
聞こえる様につぶやくと、「そうね」と妻がまたわらう。
「復帰まで、はやくて3ヶ月。
年齢もありますので、もうすこし、長くかかるかもしれません。
ゴルフですか。痛みがなければ、それなりに振れるでしょう。
いいですねぇ。ご夫婦で共通の趣味があることは」
お大事にと医師に笑顔で見送られた。
妻はSさんの農場を、3ヶ月ほど休むことになる。
「そうか。たいへんだねぇ、カミさんも。かまわねぇさ。
実はよ。もうひとり、ベトナムが来ることになった」
初耳だ。
妻の付き添いで4日休んでいる間に、いきなりすごいことになっていた。
「いつからです、ベトナムの3人目がくるのは?」
「明日からさ」
「えっ・・・」開いた口がふさがらない。ずいぶん急な話だ。
Sさんが「訳ありさ」と笑う。
「どんな訳ですか?」
「雇い入れ先の農家がきゅうに病気になった。
余命半年だそうだ。
そんなわけでさ。きゅうきょ俺んところへ話が舞い込んできた」
「いきなりベトナムばかり、3人ですか・・・
賑やかになりそうですね」
「実はよ。もうひとつ訳があるんだ。
こんど来るのは、大学出のインテリだ。
頭がいいと思うだろう、普通は。
ところがよ。あやしい日本語しか話さないんだ、こいつが。
面接のときも、とちゅうからまったく話が通じなくなっちまった」
「だいじょうぶですか。そんなことで・・・。
断れないのですか。この話」
「頼まれると断れねぇのが俺の性分だ。
まかせろと、大見えをきっちまったからなぁ。
なんとかなるだろうよ。きっと、そのうちに。たぶん・・・」
さきに来た2人のベトナムも、ようやく仕事に慣れてきた。
しかし。日本語が通用しているわけではない。
意思の疎通に、まだまだおおくの問題がのこっている。
おおまかにはわかる。しかし、細かい部分で理解が食い違う。
そんな状況だというのに、さらにもうひとり、ベトナムがふえるという。
(大丈夫か、ホントウに・・・)
(22)へつづく
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入院から4日目。妻が退院した。
途中スポーツショップへ寄り、一番やわらかいゴムのボールを買って来た。
「こんなやわらかいヤツで、ホントにいいの?。
ほら。フニャフニャだぜ」
「このくらいでいいの。
生まれたての赤ちゃんの握力ですもの」
かるく握りしめただけで、ゴムのボールが半分になる。
「それよりあなた。たいへんです、今夜から。
ふたりでお風呂にはいるなんて何年ぶりかしらねぇ。
怪我の光明というのは、こういうことをいうのかしら。うふっ」
そうだ。妻の右手はまだ使えない。
手首にうっすらと、黒い充血がのこっている。
風呂へはいる許可は出たが不具合の手では、身体を洗うことができない。
「そうか。そうなると、とうぶん新婚だな。おれたちは」
聞こえる様につぶやくと、「そうね」と妻がまたわらう。
「復帰まで、はやくて3ヶ月。
年齢もありますので、もうすこし、長くかかるかもしれません。
ゴルフですか。痛みがなければ、それなりに振れるでしょう。
いいですねぇ。ご夫婦で共通の趣味があることは」
お大事にと医師に笑顔で見送られた。
妻はSさんの農場を、3ヶ月ほど休むことになる。
「そうか。たいへんだねぇ、カミさんも。かまわねぇさ。
実はよ。もうひとり、ベトナムが来ることになった」
初耳だ。
妻の付き添いで4日休んでいる間に、いきなりすごいことになっていた。
「いつからです、ベトナムの3人目がくるのは?」
「明日からさ」
「えっ・・・」開いた口がふさがらない。ずいぶん急な話だ。
Sさんが「訳ありさ」と笑う。
「どんな訳ですか?」
「雇い入れ先の農家がきゅうに病気になった。
余命半年だそうだ。
そんなわけでさ。きゅうきょ俺んところへ話が舞い込んできた」
「いきなりベトナムばかり、3人ですか・・・
賑やかになりそうですね」
「実はよ。もうひとつ訳があるんだ。
こんど来るのは、大学出のインテリだ。
頭がいいと思うだろう、普通は。
ところがよ。あやしい日本語しか話さないんだ、こいつが。
面接のときも、とちゅうからまったく話が通じなくなっちまった」
「だいじょうぶですか。そんなことで・・・。
断れないのですか。この話」
「頼まれると断れねぇのが俺の性分だ。
まかせろと、大見えをきっちまったからなぁ。
なんとかなるだろうよ。きっと、そのうちに。たぶん・・・」
さきに来た2人のベトナムも、ようやく仕事に慣れてきた。
しかし。日本語が通用しているわけではない。
意思の疎通に、まだまだおおくの問題がのこっている。
おおまかにはわかる。しかし、細かい部分で理解が食い違う。
そんな状況だというのに、さらにもうひとり、ベトナムがふえるという。
(大丈夫か、ホントウに・・・)
(22)へつづく