上州の「寅」(45)
「はじめてユキと出会ったのはいまから半年前。
場所はさぬき高松まつり。
開店準備していた出店の前へ、はでな金髪の女の子があらわれた。
金髪?。そのわりに年が若すぎるな。
見た瞬間、そんな風に感じた。もしかしたら中学生かな?
チラリと横目で見たけど、その子はそのまま通り過ぎていった」
「さぬき高松まつり?、何それ?」
「3日間で58万人をあつめる香川県最大のおまつり。
学校は夏休み。だから若い女の子が金髪で通っても別に不思議じゃない」
「でも中学生で金髪はまずいだろ」
「そうでもないさ。
夏休みの間だけ金髪や茶髪にそめる女の子はたくさんいる。
2学期がはじまるまえ黒髪へ戻しておけば、どうってことないからね」
「そんなものか?」
「そんなものさ。
すこししたらまた、金髪の女の子がもどって来た。
わたしの店の前で立ち止まった。2度目だ。
さすがにこんどは顔を上げ、その子の顔をまじまじ正面から見つめた」
「その子がユキか」
「その子もわたしを見つめてきた。
いや・・・視線がちがっていた。
そのこが見つめていたのは、鉄板の上の焼きそば。
食べるかと聞いたら、その子はコクンとちいさくうなずいた」
「冷やかしじゃないのか?」
「露天商を長年していると、本能的に客と冷やかしを見抜ける。
ユキの目はわたしの焼きそばを欲しがっていた。
しかし金はなさそうだ。
欲しいとうなずいたけど顔は迷っていた。
いいからおいでと手招きしたら、子猫のように店の中へはいってきた」
「食い物で釣ったのか、中学生を」
「うん。焼きそばで簡単に釣れた。金髪の中学美人が」
「美人だったのか?。その頃のユキは?」
「14歳の肌だ。つるつるでピカピカさ。
健康そうな肌が私の目には、とてつもなくまぶしかった」
「君だって18だろ。同じだろ」
「不規則な生活していると女の肌は荒れるんだ。
ユキの肌には勝てなかったさ」
「そんなもんか」
「そんなもんさ」
「ユキちゃんはなぜ君とコンビを組んで露店の仕事をするようになったんだ」
「一宿一飯の恩義ってやつかな。
そのまま子猫のようにユキがわたしの屋台へ居ついた。
なにもしなくてもいいというのにユキのやつ、わたしの仕事を手伝った」
「問題ないのか。中学生が働いて?」
「ユキが働き始めて1時間後。
うわさを聞いた大前田氏(チャコの義父)がやって来た。
※15歳以下を働かせているのかと、えらい剣幕で、飛び込んできた」
※中学生は基本的にアルバイトできない
労働基準法では雇う側のルールとして、満15歳になってから
最初の3月31日が終了するまで雇ってはいけない、と書いてある。
正社員として働くのがダメというだけではなく、契約社員であっても
アルバイトでもあってもダメということになっている。
(46)へつづく