のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

お絵かきクッキー

2009-12-26 | 『毎日のこと』


お嫁さんと、ちびちゃん達が、
アイシングをしたクッキーを作ってくれました

かわいい

ありがと。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

創作:時の切り取り

2009-12-26 | 『創作・短いお話』
私の部屋に、女の子がいた。

ある日、学校から帰って来ると、その子はいた。


私が自分の部屋のドアを開けると、その女の子はポッキーをポリポリ食べながら、私のお気に入りのふわふわクッションに座って、何か書いていた。

「あ~、おかえり~」

その子はこちらを振り返りながら、ペンを持たない方の手で食べかけのポッキーを振った。

「だれ、あんた?」

私は、自分の部屋に誰か知らない子がいたこともびっくりしたけど、その子の顔が自分と同じ事にもっとびっくりした。

その子は答えた。

「あなたの中のあなたよ。」

私は聞いた。「何の用?」

その子は答えた。

「あなたの悩みの相談に来たの。あなたが呼んだのよ。」

言われてみれば、悩みという程ではないが、悩みがあった。

ぼんやりしたもの。

なんとなくの不安。

でも、こんな女の子に登場してほしいとは思っていなかった。

でも、まぁいいか。

私はバッグを机に置くと、とりあえず一緒に座った。


「ポッキーでも食べたら?」

その子は言った。

「ありがとう、でもそれは私のおやつよ。」

私は3本まとめて取ると、少し当てつけのように音を立てて食べた。


その子はそんなことは気にとめる様子もなく、絵を描いている。

「なんの絵?」

私が聞くと、こちらを見ないで答えた。

「マリアの受胎告知。興味あるでしょ?」

「…とても興味ない」

私は絵には興味がないし、特に宗教的題材の絵に関心はなかった。

その子はポッキーを割合規則正しいペースで食べながら、黙々と絵を書き続けた。


絵はかなり仕上がって来ていた。

落ち着いた深い色合いが、多彩な表情を見せ始めた。

それは、絵はわからない私でも、すごい綺麗、と思った。

自分と同じ見た目の女の子が、そんな絵を描いているのは、不思議な気分だった。


だいぶ時間が経った。

その子は細部にこだわって色合いを調整していた。

私はじれったくなって来て、言った。

「悩みの相談に乗ってくれるんでしょ?私の悩み、わかるの?」

「わかるよ。答えはこの絵の中にあるの」

「どこが?」

私は絵をよーく見てみたけど、わからなかった。

その子はペンを片付け始めながら言った。

「あなたの悩みはなんとなくの不安よね。過ぎていく時間に焦りを感じるのよね。」

「うん、まぁ、そんな感じ…」

「時間をね、切り取ったらいいと思うの。絵ってね、瞬間を冷凍しちゃうみたいに、その時間と情景を永遠に閉じ込められるの。重要な瞬間も、重要じゃない瞬間も、そうできるの。」

「少し意味がわからない…」

私は時間を切り取る意味も意義もやり方もわからなかった。

その子は言った。

「時間は切り取る意思を持つと、なんでもない瞬間がなんでもあるものになって、あなたの中に積み重なるわ。積み重なる事自体に意味はないけど、きっと今より楽しくなるわよ。切り取ることは、ありがとうを言うことよ。マリアの受胎告知は特別な瞬間か特別じゃない瞬間かは、人によって違うかもしれないけど、切り取られた事で一人で歩みを始めることができたの」

私はお経を聞いてるような気分で、なんとなくわからなかったけど、気にとめなかった小さなシーンを大切にしてね、と言ってるのかな、と勝手に考えて、とりあえずポッキーを口に運んだ。

「うんうん、わかんないけど、わかった」

私は適当に答えて、でもなんか友達が増えたようで楽しくなって来た。

「もう帰るね。相談終わり。あなたの中に戻るよ。」

私が、えっ、と言う顔をするかしないかのうちに、その子はキラキラした砂のようになって、ポッキーの箱に吸い込まれた。

ポッキーの箱には、2、3本のポッキーが残っていたけど、もしかしたらさっきより1本増えたかもしれなかった。

これを食べたらあの子は私に戻るのかな。

なんだか夢の中みたい。

私は最後のポッキーをポリポリ食べながら、またあの子と話したくなったら、なにか悩むのも悪くないな、と、思った。


(おわり)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする