獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』第3章 その7

2022-12-22 01:01:37 | 統一教会

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』(文藝春秋1994年3月)
より、引用しました。
著作権上、問題があればすぐに削除する用意がありますが、できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように算用数字に直しました。

(目次)
□第1章 「神の子」になる
□第2章 盲信者
■第3章 神が選んだ伴侶
□第4章 暴かれた嘘
□第5章 悪夢は消えた
□あとがき



入籍は母の一周忌まで延期
一方、私と勅使河原さんは新居をさがし、あとは入籍を待つばかりだった。すでに勅使河原さんは、新居へ移り、母の一周忌が終わってから入籍して一緒に住むことにしていた。
早くー緒に住みたいという気持ちはあったが、姉たちからも一周忌がすむまではやめてくれと言われていたし、自分自身もそれがけじめであると思っていた。
教会の人からは、早く入籍した方がいいと言われていたが、それだけはできないと思った。
「浩子さんはお姉さんに主管(支配)されすぎてるってM先生が言っとったぞ」
勅使河原さんが教えてくれる。
教会の指示通りにやれていない自分に罪悪感はあったが、姉の反対を押しきってすべて事後承諾のようにやってきた私だから、一周忌が終わってからという姉の願いだけは受けてやりたいと思った。
そうこうするうちに、勅使河原家のご両親が私の姉夫婦に会いたいという申し出をしてくださった。
「どんな形にしろ出会った二人が結婚するんだから、披露宴の話も出ていることだし、せめて顔合わせをしたい」
ということだった。両家の顔合わせは大きな進歩のように思えた。一周忌の前に会っていた方がいいという勅使河原さんの言葉に、私ももっともだと思った。
「どうにか、都合をつけてほしいんだけど」
「だんなに聞いてみるけど、今、年度末で忙しい時だからね。難しいと思うよ」
姉はそう言った。
「それに、お墓の件もあるんだから。そっちの方が先でしょ」
それもわかっていた。母の一周忌を前に、お墓を少し整理しなければならない。そちらの方が先にやるべきことだった。私は、姉を怒らせない程度に、何度かお願いしてみようと思った。
何度目かの電話の時、姉はしぶしぶ承諾してくれた。教会に報告すると、「よかったわね。一周忌の前に両家が会うなんて、恵みねえ」と喜んでくれた。
披露宴を勝利するための第一段階として、その日を大切にしようと思った。

 

教会問題に終始した両家の顔合わせ
3月5日。
私と勅使河原さんは名古屋行きの夜行バスに乗った。東京駅から出発し、明け方には名古屋につく。これなら、誰にも顔を見られずに移動することができる。私は、これから訪れる素晴らしい日を思い描きながら眠りについた。
朝方、名古屋駅についた私たちは、約束の2時までには時間があったので、勅使河原さんは実家へ、そして私は鳥羽市の姉の家へと向かった。この日、勅使河原さんのご両親とは姉の家で会うことになっていた。
「まだちゃんと掃除ができてないのよ。ヒロコは疲れただろうから、ひと寝入りすれば? あとで起こしてあげるから」
姉はていねいに掃除機をかけたり、洗濯をしたりしている。邪魔になってはいけないからと、少しの間ふとんにもぐりこんでいたが、どうにも気になってまた起きてきた。
観葉植物の葉っぱをふいたり、ソファーの位置をずらしたりと、自分にできることをしながら姉の様子を見ていたが、普段と変わりない姿に安心した。勅使河原家と対面することを、さほどいやがってはいないらしい。
一段落して姉が聞いてきた。
「お昼どうする? ミートスパゲッティでいい?」
私は姉のつくるミートスパゲッティが大好きだった。
その昔、姉は料理や裁縫という家庭科に関しては無頓着で、お嫁入りする時に母が心配したぐらいだった。けれど結婚したあと、みるみるうちにうまくなって、子供たちの洋服や自分の服もリフォームしてつくったり、パンだって生地からコネてつくったりと、なかなかの達人になっていた。ミートスパゲッティをつくってくれるという姉に、不思議な喜びを感じて「ウン」とうなずいた。
統一教会に反対していながら、それでもこうして私たちを温かく迎えようとしている姉の心の中を思うと、なんだか切ない感じもしていた。
ちょうど義理の兄も帰ってきて一緒にごはんを食べ、少し休んだあと、また片付けに追われた。
時間がどんどん過ぎてあせるばかりである。
やっと一段落し、さ、これから化粧でもしようかという頃に電話のベルがなった。
待ち合わせの駅にもう着いたという勅使河原さんからの亀話だった。予定より二十分も早い電話に、姉も私もほとんど化粧もせずにすっとんでいった。
出迎えに行き、姉の先導で事を走らせ、再び姉の家へと舞い戻ったのは2時を少しまわった頃だった。
話は統一教会のことに終始した。姉はメシアのことをファシズムだといい、勅使河原さんのお母さんも、霊感商法やその他の問題点を指摘していた。
披露宴を5月末ぐらいにはやりたいと切りだしても、
「披露宴に教会の人が出るんなら、私は出ませんから」
と姉は言う。
私はだまって聞いているしかなかった。統一原理を知らない人にとって、祝福がわかるわけではないし、霊感商法といわれる万物復帰の意味もわかるはずもなかった。
2時間ぐらいの時が過ぎ、勅使河原家の人たちと別れを告げた。見送りに出て、部屋へと戻りながら姉がこう言った。
「ごめんね、ヒロさん。あんたの思うように話が進まなくって」
「ううん、いいの別に。そんなことないよ」
私は首を軽く横にふりながら答えた。
会ってくれただけでも十分だった。内容がどうであったにしろ、両家が無事出会えただけでよかっだ。第一段階をのぼれたような気がして、私はそれだけで幸せな気分だった。
部屋に帰ると緊張していた糸が切れ、疲れがドッと出た。
「叔父ちゃんたちが夜くるから、先におフロに入ってれぽ?」
私は湯船につかり、今日の出来事を思い出しながら、これからもがんばろうと決意をあらたにした。

 

“拉致・監禁”が始まった
夜になって叔父たちが到着した。一周忌を前に、お墓の話し合いをするのが目的だった。
しばらくは昔話や世間話に花が咲き、テレビを観ながら談笑していた。
その時----。
「ヒロコちゃん、叔父ちゃんたちはあなたの結婚に対してやっぱり納得できないんだよ。だから、お互いに納得のいくまで話し合いたいんだけどね。場所を変えて話そうじゃないか」
叔父のその言葉は、それまでのなごやかな空気をかき消すかのように、突然吐き出された。
私は、一瞬にして変わってしまった姉たちの表情と、重く緊張した空気で“そのこと”を察知した。
(しまった、やられた)
不意にあふれてきた涙が、私のこわばった頬を、とめどもなく伝う。
(姉たちが“拉致・監禁”をするなんて----)
到底信じられないような想いだった。けれど、これは間違いなく、統一教会で何度となく聞かされた“拉致・監禁”だった。
喉からしぼり出すような声で私は尋ねた。
「ここでは話し合いはできないの?」
「いや、時間もかかるだろうから、外に出よう」
みんなの視線が、私に突き刺さってくる。逃げることはできない。いや、逃げてはいけないと思った。
私は今まで、この統一教会問題に対して、いつでも堂々と対処してきたつもりだった。自分が信じている統一原理というものに、誇りを持ってきた。
だから、たとえ“拉致・監禁”によって、私に対してどんなことが行われようと、逃げるわけにはいかない。
私は、教会のある人が、私に対してジョークを交えながら、こう言ったことを思い出した。それは、初盆から無事に帰ってきた日のことだった。
「いやあ、残念でしたね、つかまらなくて。私は、浩子さんが“拉致・監禁”されればいいと思っているんです。そうすれば、マスコミに対して、改宗組織や“拉致・監禁”の残虐さをアピールできますからね。ホントに残念ですよ。ワッハッハ」
そんな言葉を聞きながら、「そんな他人事だと思って」と、みんなで笑っていたのだった。
そのことが今現実となって私の前に現れた。今こそ、“拉致・監禁”の実体を知らなければならない----そう心の奥底でつぶやいた。
少しの間をおいて、私は立ち上がった。
姉や叔父たちが、それに続いて立ち上がる。階段を一段一段踏みしめるように降り、用意された車に乗りこむ。私を真ん中にはさむようにして、姉と叔母がシートに身を沈める。
姉は、私の手をさすりながら、「ごめんネ」と繰り返していたが、私はその手を払いのけたいような衝動にかられた。
(ここまで来たら、腹をすえるしかないな)
車はどこに向かって走っているのか、全然わからない。これからどうなるのか、それもまた、まったく見当がつかなかった。
(天のお父様<神様>の御心のままに……)
私は小さくつぶやきながら、浅い眠りについた。

 

 

(つづく)

 


解説
第3章では、山崎浩子さんが旧統一教会での合同結婚式に参加するもその後“拉致・監禁”に至るまでの様子がていねいに描かれています。

いよいよ、実の姉らによる“拉致・監禁”がはじまりました。


獅子風蓮



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