獅子風蓮のつぶやきブログ

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増田弘『石橋湛山』を読む。(その9)

2024-03-20 01:57:47 | 石橋湛山

石橋湛山の政治思想には、私も賛同します。
湛山は日蓮宗の僧籍を持っていましたが、同じ日蓮仏法の信奉者として、そのリベラルな平和主義の背景に日蓮の教えが通底していたと思うと嬉しく思います。
公明党の議員も、おそらく政治思想的には共通点が多いと思うので、いっそのこと湛山議連に合流し、あらたな政治グループを作ったらいいのにと思ったりします。

そこで、石橋湛山の人生と思想について、私なりの視点から調べてみました。

まずは、定番というべきこの本から。

増田弘『石橋湛山』(中公新書、1995.05)

目次)
□はじめに
□第1章 幼年・少年・青年期
■第2章 リベラリズムの高揚
□第3章 中国革命の躍動
□第4章 暗黒の時代
□第5章 日本再建の方途
□第6章 政権の中枢へ
□第7章 世界平和の実現を目指して
□おわりに


第2章 リベラリズムの高揚
□1)文芸・思想・社会批評... 『東洋時論』(1)
□2)政治・外交批評...『東洋時論』(2)
■3)日米移民問題...我れに移民の要無し
□4)第一次世界大戦参戦問題... 青島は断じて領有すべからず
□5)21ヵ条要求問題...干渉好きの日本人
□6)シベリア出兵問題... 過激派(ボルシェビキ)を援助せよ
□7)パリ講和問題... 袋叩きの日本
□8)普選運動・護憲運動... 不良内閣を打倒せよ
□9)早稲田大学騒動


3)日米移民問題...我れに移民の要無し
湛山が『新報』に移ってまもない1913年(大正2)、アメリカのカリフォルニア州(以下カ州と略)で日本移民排斥問題が起こった。いわゆる「カ州排日土地法」の成立である。これに先立ち、日露戦後に「日本人学童隔離事件」(1906年10月)が発生し、折からの満州問題とともに、日米関係を急速に悪化させていたが、今回初めて日本移民の土地取得を禁止する法律がカ州で制定されたことは、農業方面へ進出しつつあった日本移民に打撃を与えた。日本政府はアメリカ側に抗議したものの効果はなく、翌14年(同3)4月、山本権兵衛内閣から大隈重信内閣へと交替すると、対米協議は打ち切られた。
しかし日本国民の激昂は収まらず、開戦論さえ唱えられるほど険悪な様相を呈した。新聞や雑誌などのマスメディアは、堰を切ったように、アメリカ側の対日態度を激しく攻撃した。実は植松時代の『新報』も、対米批判の急先鋒であった。また見識者の間でも、終始穏健な外交措置により局面を打開しようとする外務省を叱責する批評が多くみられた。

そのような状況の中で、湛山は社説「我れに移民の要無し」(同年5月15日号『全集①』)において、日本国内の反米気運を批判し、大胆にも対米移民の必要性を全面的に否定したのである。
湛山の移民不要論は、主に人種問題と人口問題に基づいていた。つまりアメリカの排日運動は理屈ではなく、感情の問題であり、その根は深く人種の相違に存する。それゆえ、日本側がたとえ一時は条約を盾とし、法律を武器として、排日運動を阻止できたとしても、「彼等は何時か其の排斥の実を挙げるまでその運動を止めない。ついにそれが今回土地所有禁止の形で成功するに至った。それゆえ問題の根本的解決策は、相互の理解以外になく、戦争に訴えることは「空想の最も甚だしきもの」と断言した。さらに、たとえ「彼等に罪あり、偏見あらば、我れは寧ろ却って之を棄て、飽まで正しき道理の上に行動してこそ、初めて日本の日本たる立場あり。邦人果して此の覚悟あり、此の覚悟を以って常に行動せるや否や」と国民世論の対米態度を批判した。 
次いで湛山は、もう一つの移民問題の核心である人口問題について、今わが国民は「人口過剰の憂」という「謬想(間違った考え方)」に陥っている。政治家、評論家はこれを口実に「大陸発展」あるいは「北守南進」を唱えるが、今や工業が盛んとなり、外国との輸出入が活況を呈し、東洋、南洋、アメリカ大陸などの大市場から食料を自由に得られる以上、わが国は6、7千万の人口で過剰を苦しむはずがない。
「吾輩は我が国民が斯くの如き根拠無き謬想に駆られて、徒に帝国主義を奉行し、白人の偏見に油を灌ぎ、はては米人の嫌がるを無理に移民せんとするなど、無益の葛藤に気を疲らすの、詢(まこと)に愚なるを思わずんばあらざるなり」。
このように湛山は、国家が帝国主義を背景として移民を奨励する状況に警鐘を鳴らすと同時に、当時の常識とされた人口過剰に伴う「移民必要論」を経済的かつ社会的見地から斥け、
「亜米利加の富源は移民にあらずんば利用せられざるものにあらず、我れは決して強いて彼に移民を送るの要無きなり。而して日米人間の理解に阻碍を与うるの要無きなり。吾輩は此の点に於いて我が国民の誤るなからんことを警告する者なり」と結んだ。
要するに、第一に、排日問題は人種の相違に依拠する感情問題である。第二に、この問題は単に日米二国間のみの特殊問題ではなく、むしろ多国間に起こりうる一般的問題であり、アメリカの立場をも考慮した相対的問題として理解すべきである。第三に、解決策としては相互の理解以外になく、戦争といった強硬手段に訴えることは無益である。第四に、人口過剰論は、交通機関や商工業が発達し、貿易が拡大しつつある今日、誤った考え方である。そして第五に、要は人口をいかに利用するかであり、それゆえ、相手国の感情を害する移民政策を取る必要はない、と主張したのである。

 


解説
アメリカのカリフォルニア州で日本移民排斥問題が起こったとき、日本国民の激昂は収まらず、開戦論さえ唱えられるほど険悪な様相を呈したとのことです。新聞や雑誌などのマスメディアは、堰を切ったように、アメリカ側の対日態度を激しく攻撃しました。
そのような状況の中で、湛山は、日本国内の反米気運を批判し、大胆にも対米移民の必要性を全面的に否定したのです。

戦後の現代から見ると、きわめて当然の主張ですが、当時の日本の反米的雰囲気の中で、湛山がこれほど理性的で冷静な分析ができたことに驚くばかりです。

獅子風蓮



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