素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

ホノルル美術館所蔵“北斎”展・後期

2012年03月09日 | 日記
 前期の時に購入した図録で、予備知識を得ていたので前回よりもゆったりとした気持ちで楽しむことができた。最初から4つの作品に目星をつけていった。
①雪月花シリーズの“淀川”
 「雪月花」は隅田の雪、淀川の月、吉野の桜から成る3枚揃の作品。淀川はなじみの場所であり、以前訪れた淀城址と作品に描かれている淀城天守閣とが頭の中で重なった。三十石船や物売りの船など当時の様子がしのばれる。なぜ水車が?と思ったが淀城は淀川から城内に水をくみ上げるための水車が有名であったらしい。
②最晩年の作品 “地方測量の図”
 嘉永元年(1848)、北斎89歳の作品である。当時の測量の様子が正確に描かれていて興味深かった。伊能忠敬のことが頭の中でダブル。
③富嶽三十六景の “御厩川岸より両国橋夕陽見”
 富嶽三十六景の中でも特に気に入っている作品。船上の人々のいろいろな仕草から“一日の終わり”の情感が伝わってくる。波の描き方も動と静を巧みに表現している。
④詩哥写真鏡シリーズの“清少納言” 
 「夜をこめて 鶏のそら音ははかるとも よに逢坂の関はゆるさじ」ではあるが、描かれているものは「???」と思ってしまうもの。解説を読んで、『史記』の「孟嘗君伝」にある“函谷関”の逸話をモチーフにしていることを知る。そして、この和歌が清少納言と藤原行成の知的な応酬から生まれたもので、そのことは“枕草子”の129段にあるという。橋本治さんの桃尻語訳「枕草子」の【注】によって、やっとこさこの絵解きができた。江戸時代の人たちの素養に感心させられた作品。

 夜、ニュースを見る気がしないのでBSで「猫のしっぽ カエルの手」のアンコール放送があったので何気なく見ていたのだが、中ほどでベニシアさんの友人である立原位貫さんが紹介された。1951年名古屋生まれで、ジャズのサックス奏者として活動していたが、25歳のとき一枚の浮世絵に深く感銘を受けて転身...以来、江戸時代と同じ手法、絵の具、紙を独学で研究、再現し、それらを使って真の意味での浮世絵の復刻を成し遂げた唯一の画家である。

 北斎展のこともあり、いろんな意味で「たいしたものだ」を心で連発しながら見てしまった。いい仕事は心のエネルギーになる。

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