素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

ホトトギスは来ているらしい

2014年05月26日 | 日記
 ジムでピラティスを一緒にしている同じ町内のKさんは野鳥観察に余念がない。早朝、裏山を歩くのを日課としている。ピラティスのレッスンが始まるまでの時間は好き好きにストレッチをしながら待っている。隣のマットでもも裏を伸ばしていたkさんが「今朝も裏山に行って来たのですよ。すると白い煙が見えてビックリです。」と話しかけてきた。 先日、バーベキューの火の不始末で姫路のほうで山火事があり大変だったこともあり、急いで確かめに奥の方へと行ったらしい。すると大学生らしき若者がテントを張ってキャンプしている姿が見えたという。「そんな場所ありましたっけねえ?」と言うと「ほら、山への急な登り口に寺院跡みたいな石垣があるじゃないですか、あそこです。」「それでどうしたのですか?」と訊ねると「走って、逃げました」と意外な答え。「走ったのですか?」「いえ、気持ちだけ走っていただけで、急いで戻りました」「また、どうして」「山奥に女ひとり。私もまだ女ですから、本能的に危険を感じたんです。」「・・・・・」ここはノーコメントに限る。余計なひと言を言って墓穴を掘った経験を活かさねば。結局、6時30分から広場でラジオ体操をしているグループの中のおじさん達に御注進してまかせると、三匹のおっさんよろしくおじさん達は山へ入って行ったらしいが結末は知らないという。「朝から疲れました。あんなに急いで動いたのは久しぶりだから」と今度は入念にアキレス腱を伸ばす。

 「ところで、ホトトギスって来てます?そろそろ鳴き声が聞こえるはずなのに、まだなんですが」と言うと「山の奥のほうに行けばいますよ。卯の花の咲く頃にはちゃんと現れます」「じゃ、耳をすませて待っておきます」ここはKさんの得意分野、ピラティス開始までの3分間はホトトギスのミニ講座。
 
 『5月頃に南方から日本に渡って来て、8,9月にまた南へ帰る渡り鳥。古来より夏を告げる鳥として特別な存在。背は灰青色で腹は淡黄色でハトよりやや小さめ。蝶や蛾の幼虫、蜥蜴などを食べる肉食系。自分では巣を作らず、ウグイスなどの托卵して、自分の子どもを他人に育てさせるずっこい奴。それやこれで万葉集の中で最も多くうたわれている鳥』という話。

 万葉集という部分が新鮮だったので家に帰ってから中西進編「万葉集事典」(講談社文庫)を引いてみた。こういう時とても重宝な事典である。確かに多い。その中の一首、万葉人も霍公鳥(ほととぎす)の子育ての習性をすでに知っていたことをうかがわせる。巻九の1755とその反歌の1756.

 鶯(うぐいす)の 生卵(かひこ)の中に 霍公鳥 独り生まれて 己(な)が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 
 卯の花の 咲きたる野辺(のへ)ゆ 飛びかけり 来(き)鳴き響(とよ)もし 橘の 花を居(ゐ)散らし 終日(ひねもす)に 鳴けど聞きよし
 幣(まひ)はせむ 遠くな行きそ わが屋戸(やど)の 花橘に 住み渡れ鳥
 ※「幣(まひ)」⇒贈り物

                    反歌

 かき霧(き)らし 雨の降る夜を 霍公鳥 鳴きて行くなり あはれその鳥

 Kさん曰く、「ホトトギスは鳴き声だけで十分。姿は見ないほうがいいよ。人でもいるじゃないですか」「・・・・」これにもノーコメント。初音を楽しみに待つことにしよう。
コメント
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