たびたび引用させていただく辻静雄著「料理人の休日」交友録の章に、哲学者アランの生徒でもあったリガル教授という人との交流が描かれています。
1919年に百五十部しか出版されず、稀覯本としても難解な料理書としても有名な、エドゥワール・ニニョンの「エプタメロン・デ・グールメ(食通の七日物語)」という本があるそうです。
日本人でも、昔の本から起こした影印本をすらすら読める人はそう多くないかと思いますが、やはり向こうの人でも特別に勉強しないとラテン語は難しいのか、内容については語られることが少なかったとのこと。
大学で古典学を教えていたリガル教授をマダム・ポワンから紹介してもらった辻さんは、毎日のように通って、難解な「一週間の『幻の旅』を通して、毎日、昼、晩と、これは又頗る現実的なメニュで構成された食卓をかこむという内容の本」を教授と共に読み終えます。
そして最終日、遠慮がちに授業料を払わせて戴きたいと申し出た辻さんに、こんなに充実した日々を与えられ改めて貰うものなどありません、と教授は辻さんだけでなく読んだ人にまで普遍的な何か温かいものを伝えてくれます。
新潮文庫から出ていた辻さんの著作や関連した物の多くは、今では古書として手に入れるしかありません。
そんな「ボキューズさんちの家庭料理」という一冊に、最後辻さんが一文を寄せていました。
辻さんから「エプタメロン・デ・グールメ」の存在を聞いていたポール・ボキューズ氏が、ある日格安で手に入れたと得意げに言ってきたそうです。
嬉しそうに見せた後、
「『で一体、あれに何が書いてあるんだい』と私にいうのである。この時ばかりは2人とも声をあげて、お腹が痛くなるほど笑った。『いいんだ、いいんだ、読まなくたっていいんだよ、持ってさえいたら。家にだってあるぞ、とさえいえればそれでいいんだ』と、私がいったのには訳があって、実は、生半可のフランス人の読書歴程度では、読みこなせはしないことが書いてある、難物中の難解なものなのである。しかし私たちは、『これが人生さ、知らないことをいっぱい残して死んじゃうんだよな』と語りあったものである。」
この思い出を記して五年後、辻さんは六十歳の若さで亡くなっています。
知人を訪ねると、先日そこそこの年齢で服好きという人が来たんだけど、素材もアイテムも好きな人なら誤らないチグハグなコーディネイトなのに、ブランドのことばっかり言ってるようなタイプで困ったよ、なんて聞くにつけても、好きならちょっと勉強すれば解かりそうなレベルの問題点だと思いましたが、やはり辻さんも言うとおり、結局知らないまま.......なのかも知れません。
1919年に百五十部しか出版されず、稀覯本としても難解な料理書としても有名な、エドゥワール・ニニョンの「エプタメロン・デ・グールメ(食通の七日物語)」という本があるそうです。
日本人でも、昔の本から起こした影印本をすらすら読める人はそう多くないかと思いますが、やはり向こうの人でも特別に勉強しないとラテン語は難しいのか、内容については語られることが少なかったとのこと。
大学で古典学を教えていたリガル教授をマダム・ポワンから紹介してもらった辻さんは、毎日のように通って、難解な「一週間の『幻の旅』を通して、毎日、昼、晩と、これは又頗る現実的なメニュで構成された食卓をかこむという内容の本」を教授と共に読み終えます。
そして最終日、遠慮がちに授業料を払わせて戴きたいと申し出た辻さんに、こんなに充実した日々を与えられ改めて貰うものなどありません、と教授は辻さんだけでなく読んだ人にまで普遍的な何か温かいものを伝えてくれます。
新潮文庫から出ていた辻さんの著作や関連した物の多くは、今では古書として手に入れるしかありません。
そんな「ボキューズさんちの家庭料理」という一冊に、最後辻さんが一文を寄せていました。
辻さんから「エプタメロン・デ・グールメ」の存在を聞いていたポール・ボキューズ氏が、ある日格安で手に入れたと得意げに言ってきたそうです。
嬉しそうに見せた後、
「『で一体、あれに何が書いてあるんだい』と私にいうのである。この時ばかりは2人とも声をあげて、お腹が痛くなるほど笑った。『いいんだ、いいんだ、読まなくたっていいんだよ、持ってさえいたら。家にだってあるぞ、とさえいえればそれでいいんだ』と、私がいったのには訳があって、実は、生半可のフランス人の読書歴程度では、読みこなせはしないことが書いてある、難物中の難解なものなのである。しかし私たちは、『これが人生さ、知らないことをいっぱい残して死んじゃうんだよな』と語りあったものである。」
この思い出を記して五年後、辻さんは六十歳の若さで亡くなっています。
知人を訪ねると、先日そこそこの年齢で服好きという人が来たんだけど、素材もアイテムも好きな人なら誤らないチグハグなコーディネイトなのに、ブランドのことばっかり言ってるようなタイプで困ったよ、なんて聞くにつけても、好きならちょっと勉強すれば解かりそうなレベルの問題点だと思いましたが、やはり辻さんも言うとおり、結局知らないまま.......なのかも知れません。