in a schale

シャーレにとじ込めたありふれた日常。

9/21 9GOATS BLACK OUT at Shibuya O-WEST

2009-09-24 04:10:23 | ライブレポート

(Photo by zoisite)


地獄。

悪。狂気。絶望。闇。醜悪。雨。憎悪。負。死。


チクタク…チクタク…

18時42分。


ゆったりと流れていた会場SEがすっとフェードアウトし、ピンと張りつめたピアノの音色に切り替わる。すると、地獄からの使者がゆっくりとステージへ姿を現した。これまでの黒髪からイメージを一新、金髪になったutAが赤いテレキャスターの弦をキリキリと擦る。

「ようこそ、この世の地獄へ……」

最後にふらりと現れたryoがつぶやく。わたしたちは、一瞬にして暗く沈んだ世界へと連れ去られた。

1曲目は新曲の「Belzebuth」。いきなりの濃厚な洗礼を受けると、攻め立てるような狂気に満ちた「red shoes」と、トクトクと脈打つhatiのベースと淡々としたutAのリフが冷たく背筋をなぞる「raw」に追い打ちをかけられる。

しんと静まり返った森の中にいるような錯覚を覚えるSEをはさむと、utAがやさしいストロークを響かせ「Den lille Havfrue」へと流れた。音源とは一味ちがったアレンジがほどこされ、息遣いまで聴こえてくるほどのryoのヴォーカルが、ゆらめく海へと引きずり込む。また、壮大な雪景色のパノラマが広がった「Sleeping Beauty」では、凍えそうな体を抱きしめてくれるような温もりの声と、それをあたたかく照らす灯の音が会場を包みこんだ。しかし、「in the rain」では、鋭く冷たい針の雨が、わたしたちをあざ笑うかのようにとめどなく降り注ぐ。刻まれていく残酷な時。


――なんて生々しいのだろう。彼らが見せるその光景は、人間の“生への執着”のように思えた。死にたくない。死にたくない。生きたい。そう、まるでかの有名な小説「蜘蛛の糸」のように。哀しみが必死にすがりつく。


一度メンバーが姿を消すと、manipulateのサポート・メンバーakayaが紡ぎだすノイズと心音のようなバスに乗せて、utAがクリーン・トーンのアルペジオを奏で始めた。前回のワンマン・ライブ『Bright Garden』ではアグレッシブなパフォーマンスを繰り広げたが、今回はミスの許されない緊張感に包まれたアプローチを披露する。

しかし安息の時もつかの間、“地獄の底まで声を聞かせてくれ!”というryoの檄が飛び、ライブ後半は、さらにバイタリティに溢れたステージが目まぐるしく展開された。オーディエンスを巻き込んだコール&レスポンスを自然と沸き起こす「froat」、スピードの限界挑戦とでもいおうか、疾風のごとく駆け抜ける新曲「Who's the MAD」「minus」を容赦なく突きつけていく。hatiは指先をクイッと曲げて観客を挑発し、utAは切り刻むような高速カッティングで攻めの姿勢から崩れない。

「地獄の歌は聴こえたかい?」

鞭を振り回すかのようにそれぞれのメンバーが華麗に音を操ってみせた「headache」。オーディエンスは拳を突き上げ、髪を振り乱しながら酔いしれた。そんな様子を知ってか知らずか、ryoはどこか楽しむようにそう問いかけて、ステージをあとにした。





「『Bright Garden』というテーマをひとつの括りとして完成させた今、僕らは『Heaven to Hell』という大きなテーマに取り組もうとしています。今夜はそれを完成させる第一歩で……『Hell』です」

アンコール。きっぱりと言い放たれた『Hell』という言葉が、そのあとに披露された2曲の印象をがらりと変えた。死の淵に立たされてようやく“生きたい”と立ち上がる人間の姿ように感じられた「落日」、そしてそんな自分自身を認め、そっと救い上げるような「天使」。

ryoは静かに語る。

「9GOATS BLACK OUTのはじまりは“喪失”でした。肉親の死であったり別れであったり……。今年の夏には僕の父が他界し、友人のミュージシャンも亡くなりました。そして9月21日、この日はutAの父の命日です。僕たちは音楽を続けることが生きた証になると……証明になると思っています。人の死は悲しいと思うけれど、そこに残された人はどう思うのか。心の耳で聴いてください。「Heaven」。」

黄金色に染められていくステージ。ミラーボールが反射し、朝の陽射しのように降り注ぐ。“心をこめて歌う”“渾身の力で演奏する”……そんな次元すら超えているように思えた。彼らの核、そして想いが、そのまま声となり音となり、会場を伝っていた。

ryoは“映画のように鑑賞するのではなく、みんなが参加してこそのライブ”だと語っていたが、それはきっと“同じ空間を共有する”ということなのだろう。静かに涙を流す者、かみしめるようにただただステージを見つめる者、音に身をゆだねる者。音楽を通じて、ともに喜び、ともに苦しみ、ともに“この先”を見据える。


「すごくすごく幸せです。ありがとう」


20時40分。


地獄の底で鳥が鳴き、“生きよう”と羽ばたいた。その鳥の羽は、天使のように真っ白だ。美しき本能が、今この瞬間に輝いた。





2009.09.21『Howling bird at the HELL』



【SET LIST】
01.Belzebuth
02.red shoes
03.raw
04.SALOME
05.Lestat

06.Den lille Havfrue
07.Sleeping Beauty
08.in the rain

09.utA Guitar solo~moses

10.ROMEO
11.夜想-noctorne-
12.float
13.690min
14.Who's the MAD
15.minus
16.headache

-EN-
17.落日
18.天使
19.Heaven