「今度あのお店に一緒に行こうよ。」
A子はB美と食事をしながら話していた。
「そうね、私も行きたかったの。」
B美もそのお店には興味があった。
翌日、B美はA子の彼であるC男とその店にいた。
なんてことがあってはいけませんよね。
一緒に行こうよって約束したのに、抜け駆けして
でも、これがおっさん同士の会話で、
「今度は谷六のあの店行こうぜ!」
「おぉ、行こう行こう」
って話ししたその翌週一人で行くのんはなんの罪もないですよね
この日は谷町六丁目で仕事。
時計を見れば丁度終業時刻。
直帰じゃ、直帰じゃ!
「愚昧ちゃん、ワイン飲んで行こうよ」
この後飲み会があるなんて言ってた奴。
約束時間迄の時間つぶしに指名しやがったな。
エエんですよ。
飲むのは嫌いじゃないですから。
お店じゃなくて冷蔵庫からボトルを取り出してきた。
しかもマグナム。
「アテは要らんよね。」
というか無い。
「乾きもんかチーズ位ないの?」
「無い。」
「もう直ぐ出かけるからみんな空けてよ。」
って、ガブ飲みワイン
結構飲んじまったぜ。
谷六で一人放り出された。
空堀商店街でもフラつくか。
いや待てよ。
男は思い出した。先週某所での会話を。
「谷六に気になるお店があるんですよね」
男は空堀を逆方面に急いだ。
店内を覗き込むと大衆酒場の雰囲気だ。
それにポツンポツンと空きがあり、ひとり客も張り付いている。
一緒に行こうと話したのに抜け駆けした訳では無い。
ワインに酔ったせいであり、自分の強い意志に反したわけではない。
男は自分に言い聞かせた。
「大瓶頂戴な」
男はこの瞬間以降なんの躊躇いもなかった。
実は最初からなんの躊躇いもなかったのではあるが
男は静かに店内を見回した。
品書きは所狭した張り出された短冊。
お店は広いのだが、この一角だけに張り出されていた。
男はすかさずチェックした。
中華そば
今日の〆はこれだ。
なぜに〆を最初に指名したのか。
〆だけにシメぃなんて、ところに突っ込んではいけない。
今日は久しぶりのハードボイルド調なのだ。
ギャグもボケも必要無い。
ただ、男は自分の書いたシメィの文字を眺め、激しく後悔した。
男はベルギービール好きなのだ。
あぁ、leffeが飲みたい。
CHIMAYは単に呼び水に過ぎない。
男は今はleffe blondが好みなのである。
著しく脱線してしまった。
男は名物の文字を探した。
ハードボイルド調を真似たところで所詮はミーハーである。
見渡した範囲では肉どうふとメンチカツである。
男は思った、せめて名物という字だけは赤で書いて欲しいと。
ハードボイルドな男はこの時点で少し悔やんでいた。
適当に空いた席に座ったのであるが、隣はかなり強面のおっさんである。
その強面おっさんの前に並べられていたのが、肉どうふとおつまみメンマ。
ハードボイルドな男は実はラーメン屋メンマで飲むのが好きである。
男が、注文の口を開こうとした瞬間、
強面おっさんが、「メンチカツ!」
ハードボイルドな男は一瞬固まってしまった。
肉どうふとメンマとメンチカツ。
これではまるで強面おっさんの追っかけではないか。
ちなみに強面おっさんが飲んでいるのは瓶ビール。
ストーカーと思われても仕方ない。
大瓶がやって来た。
グラスはカウンターに置いてあるものから選ぶらしい。
ゲルググ。
ガンダムでないか。
赤いゲルググはもしや。
そう、私がシャア・アズナブルである。
しまった、男は著しく後悔した。
大衆酒場で正体を明かすとは。
強面おっさんが男を睨みつけていた。
男はおとなしく、その他のグラスを眺めた。
ミッキーかドラちゃんにすれば良かった・・・
「肉どうふ頂戴な」
一つぐらい被っても強面おっさん睨めつけたりせんだろう。
七味をふりかけた。
強面おっさんと目があってしまった。
儂なんか悪い事したん?
ハードボイルドな男は不安になった。
ハードボイルドな男は実はハードボイルドエッグだ。
カチカチに固まってしまった。
今回はハードボイルドな卵だが両親はチキンである。
あぁ、ついに云ってしまった、チキンのお子ちゃまもチキン。
男は精一杯ハードボイルドに睨み返した。
強面おっさんが人懐っこい顔で微笑んでくる。
普通の良いおっちゃんだった。
男はなんの躊躇いもなくおっちゃんと同じ物が頼めると確信した。
男は口を開いた
「レバカツ頂戴な」
これだけ引っ張って、なんやレバカツかいな。
レバカツって東京ではよく食べてたけど、大阪に来て食ってないかも。
男は思った。
男はレモンハイを願い出た。
後で中を追加するタイプ、もちろん中はキンミヤである。
男はふと目を店内に向けた。
怪きカップル。
あそこに鎮座する二人組はもしかしてかの有名なブロガーではないか。
男は目をそらそうとした。
しかし既に時遅くロックオンされていた。
「隣空きましたでぇ~」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ンの愚昧親爺じゃけんのぉ( ̄^ ̄)ゞ」
男は合流していた。
男は密かに考えを巡らせた。
別の仲間には申し訳ないが、一緒に行こうと話したのに抜け駆けした訳では無い。
この連中に誘われたから今の自分があるのである。
実は遡る事15分前、既に男はこの連中に見つかっていた。
男が一人酒を楽しんでいる時に背後に人の気配がした。
男が本物のハードボイルドであれば、その連中は既に撃ち殺されていたに違いない。
だがこのハードボイルドな男は脇が甘い。
ワキガではない。
ハードボイルドに余計なギャグもボケも自虐ネタも必要ない。
中をお願いすると結構注いでくれるのである。
「あ、愚昧ちゃんじゃん」
振り返ると奴らはいた。
奴らが案内された隣近所には空きがなくというか、お店自体に空きがなかったので後で合流する事にしたのである。
その時は突然やってきた。
ただ単に隣のお客さんがお帰りになられただけだが。
再開の挨拶も程々に乾杯をしたかどうかも定かではない。
うずらの燻製や
パクチーヨダレやっこ
メキシコきゅうりであろうか?
次々と現れる刺客たちはあっさりとこの連中に退治された。
中をお願いすると結構注いでくれるのである。
さて、ワインから勘定すると相当量飲んでいる。
もう飲めません、食べられません。
だが、ラーメンおたくに自慢するにはネタがない。
そろそろ〆るかとラーメンをオーダーされた連中にお裾分けをいただいた。
どうじゃ、これがそのだのラーメンじゃ。
レアチャーシューに背脂、オイリーな熱々スープの上には青ネギが
あ、しまった、これもそのだのラーメンじゃけど、玉造のそのだじゃったわぃ
しかも、尾道ラーメンに興奮してハードボイルド調から広島弁モードに突入してしまった
男は自分の引出しの少なさに唖然とした。
これが真のご対麺である。
ハマグリか?
男はちと驚いた。
ネギも青じゃない。
背脂は?
お裾分けを頂戴した。
男は徐ろに箸を走らせた。
メンマじゃ、
男はノセミネラルに着目した。
いや、男ではない。
男のオートフォーカスはノセミネラルに魅了された。
麺である。
尾道ラーメンらしい平打ち麺の筈である
だが、男はノセミネラルに着目した。
いや、男ではない。
男の
カメラのオートフォーカスはノセミネラルに着目した。
多分一枚前の写真が麺にフォーカスが合っていたと思う。
チャーシューである。
この写真のフォーカスは何処に行ってしまったのであろう。
男のカメラのオートフォーカスも既に酔っ払っていたに違いない。
大した相棒である。
超有名ブロガー達と別れを告げ男は店を後にした。
一刻も早く奴に自慢せねば。
タバコを咥え男は地下鉄駅に消えていった・・・
ちなみに、
食べログによると、
『
大衆食堂スタンド そのだ』
大阪府大阪市中央区谷町6-3-7
営業時間:しばらくの間は、16:00~23:00
定休日:日曜日