男は静かに一片のニンニクを手にした。
ふとある日の光景が男の脳裏を横切った。
男は目覚めた。
電車のベンチシートに座っていた。
車内には立っている乗客もいたが、男の隣には誰も座っていなかった。
男は直ぐに気付いた。自分から強烈なニンニク臭が漂っているのを。
だが既に手遅れである。
確かに前夜、野毛のニンニク通りでニンニク料理屋をはしごした。
福田フライの辛いソース、三陽のバクダン、そして第一亭のパタン。
多分、このうち一軒に立ち寄っただけでも翌日までニンニク臭の持ち越しはあるだろう。
だが、3軒である。
肉を喰らわば骨まで。
男は酩酊していたに違いない。
おとなしく昼過ぎまで寝ていれば良いものを、早朝に起き出して西向きの東海道線に飛び乗ったらしい。
車内アナウンスは小田原を告げていた。
まっすぐ帰っても1時間はゆうにかかる。
ならば、どこかで飲もう。
そのまま、沼津まで行った。
沼津港には朝から飲んでいる奴はいくらでもいた
男も調子よく飲んだ
だが、昨夜の酒も残った状態では、直ぐに眠気が襲ってきた。
酔いはなんとかごまかせても眠気はごまかせない
沼津駅まで戻った男は東海道線の上り電車に乗り込んだ。
運よく、ベンチシートに座ることが出来た。
気が付けばうとうとしていた。
誰かが隣に座っては直ぐに席を立って行った。
なんとなく男はその気配を感じていた。
何人目かは中年いや初老のご婦人が座った。
直ぐに鼻をハンカチで押さえる気配を感じた。
男は何気なくあくびをした。
「ぅわぁ~」
初老の中年令嬢は、突然大きな声を上げて立ち去っていった。
眠気と酔いで半分眠りかけていた男は瞬時にすべてを理解した。
だが、どうすることも出来ない。
牛乳?
ガム?
多少は効果もあるだろうが。
くろれっつ?
確かに手元にあれば効果は期待できるが・・・
男は出来るだけ呼吸をしないように家に
エライ長い前書きじゃのぉ・・・
男はニンニク好きである
男に限らずニンニク好きの女性も多い
パワーの源なのだ。
冷蔵庫に余っていたモロッコ豆のニンニク炒めを作ることにした。
なんかそれだけでは寂しい。
次の瞬間、男はスーパーに鮮魚コーナーにいた。
安心してくれ、男はどこでもドアを持っていた。
ハードボイルド調に書き上げるつもりで筆を持ったのであるが、気が付けばドタバタ喜劇調。
男にはない新たな芸風である。
不安になりながらも男は書き進めた。
次の瞬間、男はエビを手に取っていた。
これも入れよう。
背腸をとり、片栗粉をまぶして揉み洗いをするのである。
まぁ常識だ。
ニンニクを適当に粗みじん切りにする
ニンニクと輪切りの唐辛子をオリーブオイルで炒める。
そこにエビ、
そして塩もみをしたモロッコ豆を投入した。
途中、写真を撮る余裕は男にはなかった
オイルが少なかったようだ。
まぁええやろ。
ハードボイルドは多少のことには動揺しない
良い感じに出来上がった。
粉チーズを振り掛けるのもなかなかに美味かった
気が付けば隣にいた娘がもう一品拵えていた。
きゅうりのニンニクオイル炒め
完全に被っている。
「大丈夫やで、オイルはごま油にしといたから」
確かにきゅうりを炒めるのは中華風である。
オリーブオイルよりはごま油のほうが合うかも
男は妙に納得した
男は粉チーズが妙に気に入っていた。
何れにしても、ニンニク料理はお酒が進むのである