大阪府豊中市の服部緑地乗馬センターで馬の調教に当たる教官の岩坪徹さん(82)。8歳で始めてから74年間、馬に乗り続けてきた。大会出場の最高齢記録を更新し続けている「大阪府民馬術大会」(12、13日、杉谷馬事公苑)に大会デビューとなる愛馬・ジュネスと出場を控え、日々練習を続けている。
府民馬術大会に出場するジュネス号にさっそうと乗る岩坪さん
京都市で育ち、祖父に連れられ8歳で乗馬を体験。戦時下でめまぐるしく変化する学校制度に翻弄(ほんろう)されながらも、幼いころ親しんだ馬への思いを胸に高校で馬術部に入った。衣食も満足でない時代だったが近くの農家に頼み込み、草刈りや馬ふん運びを条件に農閑期を利用して馬を借り、部員で少しずつ交代しながら大事に1~2頭の馬に乗った。
京都大卒業後、ダイハツ工業へ入社。25年にわたり、営業を中心に勤務するかたわら乗馬を続けた。ローマ五輪・障害馬術の国内予選(1960年)や国民体育大会などに出場し、活躍の場を得た。
また、騎兵にのっとったこれまでの乗馬法を根底から覆す、人馬双方に負担をかけない「自然馬術方式」に触れ、「普及に努めたい」と一念発起。同方式を研究したカプリリー氏の論文集を和訳し、自費出版した。
「営業時代の経験を生かし」各地の乗馬クラブに本を持参する中で、同センターを運営する「乗馬クラブクレイン」の竹野正次会長に意欲を買われ、 77年、同社に入社。2004年に定年退職するまで「馬の世話をし、乗馬ができて毎日が天国のよう」と感じながら、スタッフを指導する教官や馬の調教を担当。退職後は北海道で馬と過ごし、09年から再び同センターで調教を手掛けている。
背筋をピンと伸ばし「大病もなく健康でいられたのは馬のおかげ」という岩坪さん。落馬や骨折などの経験もあるが「馬は人のようにだましたりしないし、こちらが心を開けば天使のよう」と馬の魅力を語る。
「陸軍士官学校に通い、正しいと思って進んできた戦争が終わったとき、若い自分たちにはぶつけられるものが何もなかった。今思えばそれが馬へ向かったのかもしれない」と乗馬にかける情熱を振り返る。
府民馬術大会では、18歳以上の選手を対象にした「小障害飛越競技(一般)」(13日)に出場する。「ジュネスは初めての大会出場なので、まず大会の雰囲気の中で競技を普段通り行うのが目標。小柄だけどバネがあり素直で、将来が楽しみな馬」と岩坪さん。「いつまで許してくれるか分からないが、できる限り乗馬を続けたい」と目を輝かせる。