
昨年7月、90歳で亡くなった比較文明学者、梅棹忠夫さんへの関心が高まっている。
著作の復刊、増刷が相次ぎ、書店には種々の関連本が並ぶ。東日本大震災や原発事故で「人類の英知」への懐疑が深まる中、独特の切り口で文明論を説いた、文章や言葉に、未来へのヒントを求めているようだ。
今月下旬、<幻の梅棹本>が出る。『梅棹忠夫の「人類の未来」』と題した一冊だ。大阪万博に日本中が沸き、バラ色の未来を思い描いた1970年頃、梅棹さんは河出書房新社の「世界の歴史」シリーズの最終巻『人類の未来』を執筆する予定だった。
遺品のメモによると全12章で、人口爆発や資源枯渇、廃棄物処理など、小見出しには厳しい文言が並ぶ。人類を「できのわるい動物」と断じた章もあったが、最後は「暗黒のかなたの光明」と締めくくるつもりだった。なぜか、書かれないままに終わった。
梅棹さんが初代館長を務めた国立民族学博物館(民博・大阪府吹田市)で一緒に仕事をした小長谷有紀教授が、内容を推し量って当時の対談や座談会の原稿を集めたほか、宇宙飛行士の毛利衛さんらが、梅棹さんが描こうとした「未来」を考えて寄稿した。
「40年たっても色あせない言葉の数々。これを糧に私たちも人類の未来について、しっかり考察すべきだと思った」と、小長谷教授は話す。
21日からは東京・お台場の日本科学未来館で「ウメサオタダオ展」が始まる。元々は3~6月、民博で開かれた回顧展だ。未来館から強い誘致があり異例の巡回となった。担当者は「震災で技術のあり方、科学とのつきあい方が大きな課題になってきた。今こそ、梅棹さんの幅広い視野が必要と考えた」と説明する。
亡くなった後、ベストセラー『知的生産の技術』はさらに部数が伸び、累計141万部を突破。代表作『文明の生態史観』は3度増刷した。
ほかにもノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹さんとの対談集『人間にとって科学とはなにか』や、作家の司馬遼太郎さんとの対談集『日本の未来へ』などが近く復刊予定だ。
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