今回の日曜美術館は、『奇想の絵巻"誕生のなぞ~鳥獣戯画~』です。

現在、京都国立博物館で『国宝鳥獣戯画と高山寺展』が開催されていることは、
私のブログでも紹介しました。
鳥獣戯画が甲乙丙丁の4巻絵巻です。

絵巻の始まりは甲巻です。
兎や猿たちが川遊びに興じています。

乙巻
麒麟など空想上の動物が登場します。
一方、象など実在の動物も描かれ、夢と現実が入り交じる不思議な動物図鑑です。


丙巻
甲乙から数十年後に描かれたとされます。
甲巻を手本に別の絵師が描いたと考えられています。
ユーモアは変わりませんが、少しグロテスクです。


丁巻
登場するのは老若男女、身分もさまざまです。

国宝に指定される名画でありながら、誰がいつ何のために描かれたのか、
一切記録が残されていません。
鳥獣戯画が描かれたのは12世紀から13世紀です。
作者は鳥羽僧正が有力とされてきました。
鳥羽僧正は、平安時代後期の位の高い僧侶であり、当代随一の絵の腕前で知られています。

重要文化財
鳥羽僧正様 不動明王像

しかし、断定にはいたりません。
明治時代以来130年ぶりの修復作業が行われ、
初めて京都国立博物館でお披露目されています。
全4巻を修復するなかで、新たな発見がありました。
修復前の戯画図
波打ちがひどく、折れ、シワ、紙の表面の毛羽立ちなどが目立ち、
その結果墨線が薄くなっているのです。

修復は一枚一枚の絵を全て分解し、波打ちや折れを丁寧になくしていき、
新しい紙に張り付けていきます。

四年の歳月をかけてよみがえったのが、今回展示の鳥獣戯画です。
修復前

修復後

そして今回修復と同時に行われたのが科学的調査です。
結果、鳥獣戯画の紙はあまり上等ではなかったということです。
修復にあたった方は、普段描きの「戯れ絵(ざれえ)」ではなかったかと。
平安時代絵師たちは、天皇や貴族から発注を受け、
絵巻や寺の仏画に精力を注ぎました。
そこでは、何より雅で繊細な線で描くことが求められました。
国法 源氏物語絵巻

国宝伴大納言絵巻

こんな時代に描かれた意外な絵があります。
平等院鳳凰堂の扉絵です。

表から見えないところに、描かれた仏画絵師の落書きです。
人物や草花がのびやかに描かれています。

鳥獣戯画もその種のものではなかったのかというのです。
また、今回の修復で丙巻で、もとは表裏の両面に描かれていた ものが、
相剥(あいはぎ)し、つないで一巻にしたことなど、新たな発見もありました。
京都栂尾にある高山寺
私のブログでは紹介できませんでしたが、展示会では高山寺の貴重な美術品などが展示されていました。

国宝明恵上人樹上坐禅像
明恵上人(1173ー1232)
立派なお坊様を大きく描くのではなく、普段着で自然に溶け込む 明恵上人を描いています。周りの自然や動物たちと同じように明恵上人が描かれています。

国宝仏眼仏母像
明恵上人が若いときから手元に置いていた絵です。
亡き母の面影をこの像に重ねたと言われています。
23歳のとき雑念をふりはらうため、この絵の前で自らの右耳を切り落としたそうです。


明恵上人が自らの発案で作らせた絵巻です。
大海をすすむ龍は美女が変身した姿、一人の僧侶を守るためその身を龍に変えたという伝説に深く共感したのです。

この絵を使い、当時立場の弱かった女性にも仏の道を説いたといいます。
絵画の持つ力に特別な思いを寄せた 明恵上人、肖像画にもその思想が色濃く写し出されているといいます。
動物をこよなく愛した 明恵上人、愛らしい子犬像をいつも傍らに置いていたそうです。
重要文化財 子犬

明恵上人が弟子に語った言葉があります。
凡そ此の凡夫の上人
蟻、 螻(けら) 、犬、鳥、田夫、野人に至るまで
皆是仏性を備え
甚深の法を行ずる者也
賤しみ思うべからず
いきとし生ける もの全て等しく尊い存在である。
明恵上人が説いた華厳の思想を、人々は鳥獣戯画重ね、
その教えを伝えるよすがにしたようです。

京都の後、東京会場で開催されます。
