春を待ち焦がれる人の思いは、列島の北でも南でも変わらない。四つの島の太平洋岸は、黒潮に近いほど春の上陸が早い。本州の真ん中にある渥美半島の先端部、伊良湖岬に春の先触れを確かめに行ってみた。
風はまだ冷たいものの、海の色はひと月前とは違う。浜に寄せる波濤の耀きや岩に砕ける波しぶきの燦めきに、春の兆しは瞭然と顕れていた。この日は伊良湖に泊まった。
翌日も好天に恵まれた。伊良湖水道を横断し神島に渡るか、知多半島の東に浮かぶ篠島・日間賀島を巡るか迷ったが、結局まだ訪れたことのない後者を選び、高速船に乗った。
日間賀島で魚介料理の昼食を摂り、暫く島内を散策した。何処の漁村を訪れても、多くは家々が密集し道が狭い。港に好適な場所は、平坦地が少ないのがその理由だろうし、建物を密集して建てれば、台風に対して防禦力が増す。
車が通らない路地は安心して歩くことができ、いろいろな発見がある。人は歩かなければ、何事も詳しく知り得ない。歩いて目で視手で触れ、確かめたものだけが信ずるに値する。
歩行が脳の働きを活発にすることは古くから知られていた。その積み重ねで、人類は徒歩の時代に知恵のほとんどを獲得して今日に至っている。
現代は、高速で移動する交通手段に事欠かない。しかし、乗り物の内と外とは、それが高速になるほど異質な時空間になる。私たちは乗り物の外の現実と隔絶された時空を乗り物の中で過ごす。高速の乗り物の中で新たな知恵が生まれることが少ないのは、内と外の時空間が一致しないからかも知れない。
夕景が美しいことで定評がある篠島の浜辺へ行ってみたものの、帰りの船が4時台の一便だけでは、その景観を歎賞するのを諦めるしかなかった。
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