「好いたらしい」と謂う言葉がある。「人の様子・しぐさ・心遣いなど感じが良く好きだ」という意味。江戸の下町で多用されていた言葉らしい。もっぱら女性が男性に対して遣う女言葉である。「好いたらしいよっ!」とか「好いたらしい人っ!」とか遣う。
「ミッチー」こと浅香光代さんは、娘時代から浅草で女剣劇の一座を率いた人で御歳92才。この方がテレビの対談番組で「好いたらしい」を連発していたことがあった。まことに神田生まれの江戸っ子ならではの、江戸弁の響き鮮やかな言葉遣いだった。
「好いた」の後に「らしい」が付くと、断定に仮定が付加され、意思は韜晦される。「好き」の程度が軽妙に感じられる。女性にとって甚だ遣い易く、都合の良い言葉だったに違いない。
現代では忘れ去られた言葉だが、老いも若きも男子たるもの、女性に「好いたらしい」と思われることに憂き身をやつすことは、いつの世でも変わらない。女性に好感されることを願わない男性はいない。
同じ時代に生まれた類似の語法の言葉に「助平ったらしい」があるが、これは現代でも全然衰えることなく通用している。対象者の数が圧倒的に多いからだろう。当然ながらこちらは女性に好感されない。
好感されない性根をもちながら、好感されたいと願うこの背理性、男というものは困ったものである。
「あの子、◯◯さんのこと好いとるらしいよ」なんて噂話をよくしたものです。少し使い方が違いますが、方言ですかね。
江戸の下町方言だったのでしょうか。
私の居住地では、昔もこのような言い方はありません。
しかし江戸の男性たちには、耳触りの好い言葉づかいであったことでしよう。