大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

タカタ製エアバッグ、アメリカ史上最大のリコール:日本企業のイメージ悪化

2016年05月05日 | 日記

 タカタ問題はアメリカで大きな社会問題になっており、早急に解決しないと日本企業全体の信頼が大きく低下する可能性がある。

 アメリカの大手メディアで日本のことが大きなニュースになることはあまりない。たとえばNYT(ニューヨーク・タイムズ)であれば、日本のことが記事になるのは週に1回あるかないか。大手テレビ局の扱いはもっと少ない。ちなみにWSJやブルームバーグといった経済メディアは毎日のように日本のマーケットを分析、報道しているが、一般の人向けの報道とは言い難い。


 こうしたなかアメリカではタカタ問題についての報道が突出して多くなっている。そのため一般のアメリカ人は、クロダの名前は知らなくてもタカタの名前は知っている。一方、本家本元の日本では、タカタについて詳しい調査報道がほとんどなされていない。そのためか、日本ではアメリカは必要以上に騒ぎすぎではないかといった意見が出てきている。しかし、たとえば次のようなことを知ってもなおアメリカは騒ぎ過ぎという人がどれだけいるだろうか。


 NYTによれば、これまでタカタ製エアバッグにより世界で11人(アメリカで10人)の人がなくなっている。もっとも最近では今年3月末に、ホンダシビックに乗っていた17歳の少女が衝突事故の際、エアバックから飛び出した金属片が首に当たり亡くなるという痛ましい事件があった。衝突自体は大したものではなかった。
 ところでNYTによれば、タカタとホンダは2004年にはエアバッグが爆裂する危険に気づいていたが、当局に知らせなかった(リコール開始は2008年)。またタカタの元エンジニアは、その後エアバッグについて秘密に試験がおこなわれたが、試験で2つのエアバッグが爆裂した後、データが破棄されたと証言している。こうしたなかタカタは、エアバッグの問題を、製品設計ではなく製造過程に問題があったと主張し、初期段階で関係する4000台の車しかリコールしなかった。ちなみにエアバッグ1つのリコール費用は100ドル(約1万円)に過ぎない。
 そして2016年5月4日(水)、NHTSA(米高速道路交通安全局)はタカタに対し2018年末までに3,500-4,000万個のエアバッグを追加リコールするよう命じた。これによりアメリカ国内のリコール数は6,400万近くまで増加。アメリカ史上最大のリコールとなった。さらにNYTは、タカタが安全性を証明できなければさらに8,500万個のリコールが必要になるとのNHTSAの発言を紹介している。

 日米で報道ギャップがありすぎる。私は日本の報道(過小)に問題があると思う。このまま日本側で問題軽視が続けば、タカタ問題は解決が遅れ日本の工業製品全体、日本企業全体の信頼性が疑われるようになることが懸念される。いや、それはすでに始まっているのかもしれない。
 それにしても日本企業の不祥事が多すぎる。マンションの抗うち偽装、食品廃棄物の偽装再販、オリンパスや東芝の不正会計、三菱自動車の燃費偽装などなど。これほどの不祥事のオンパレードはほかの先進国では見当たらないのではないか。こうした不祥事はあくまで個々の企業、役員の問題なのか、それとも多くの企業に共通する問題なのか、じっくり考える必要がありそうだ。

★ 2016年5月6日追記

 オートモーティブ・ニュースによれば、5月5日、ホンダはマレーシアで今年3月と4月にエアバッグが原因でそれぞれ一人の人が亡くなったと発表した。これでタカタ製エアバッグによる死者は世界で13人(アメリカで10人)となった。

★ 2016年8月27日 関連記事

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