大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

日本の司法制度は「不思議の国のアリス」:欧米で日本異質論が拡大

2019年01月09日 | 日記

 2019年1月8日(火)のウォールストリートジャーナルは、カルロス・ゴーン氏は「ワンダーランド(不思議の国のアリス)」に囚われていると題した編集委員による社説を公表した。

 日本の司法制度を強く批判するこの社説には次のような刺激的な文章が並んでいる。

 「カルロス・ゴーン氏の司法手続きでは、判決が先にあり、証拠は後にくる」、これはすべてが逆転した不思議の国のアリスの世界である。これには補足が必要であろう。

 昨日、カルロス・ゴーン氏の弁護団の会見(1時間半)が日本外国人特派員協会でおこなわれ、日本では、特別背任容疑を否認している場合、通常は第1回公判が開かれるまで保釈はなく、また裁判がはじまるまで最低でも半年かかる(つまり半年は保釈されない)という説明があった。

 そのおもな理由は、逃亡の恐れおよび証拠隠滅の恐れである(今日、東京地裁はそれを認めて弁護側の勾留取り消し請求を却下した)。

 しかし欧米では、居場所を特定できるGPSがついたブレスレットの着用などによる逃亡防止がはかられている。そして証拠隠滅についてWSJは次のように述べている。

 「いま世界が学びつつあることであるが、日本の検察のやり方は、(欧米のように)最初に起訴をして、それから法廷でその証拠を被告と争うというものではない。東京で検察官は、罪を認めるまで被告を拘束し、弁護人なしに尋問をおこなうというものである。裁判は基本的に形式的なもので、あらかじめ有罪がきまっている。」 

「検察官は(保釈しない理由として)逃亡の恐れと証拠隠滅の恐れをいうが、もし検察官が今までに十分な証拠を持っていないのだとしたら、何が隠滅されるというのか?」

 欧米では逮捕の時点で十分な証拠があるのが普通で、長く拘束して自白を引き出すというやりかたはされていない。

 WSJはさらに踏み込んで、検察の発表よりゴーン氏の反論の方がずっと説得力があるとまで述べている。

 私自身は、ゴーン氏に刑事上、民事上の責任があるかないか判断できないが、少なくともひとつわかっていることがある。

 今回裁かれることになるのは、ゴーン氏にくわえ日本の司法制度のあり方だということである。

 難しい経済問題ということでテレビの露出こそ少ないが、新聞を中心とした欧米メディアの扱いはいまほんとうにすごいことになっている。この問題でカショギ氏の問題がふっとび、日本で勾留延長などなにかうごきがあると即座に大きな報道がなされる状態になっている。そして、WSJのような日本異質論が日に日に高まっている。この先どうなるか心配になってくる。

 最後に付け足しておけば、ウォールストリートジャーナルというのはリベラルな新聞ではまったくなく、保守本流の経済紙で、編集委員が共和党とトランプ大統領を強く支持しているアメリカで発行部数が一番多い新聞である(2019年1月現在)。

参考(2019/1/13追記)

【社説】「不思議の国」のカルロス・ゴーン ウォールストリートジャーナル(日本語) 2019/1/9 

ゴーン事件を日本の司法制度改革の契機に(社説) フィナンシャルタイムズ(日本語)2019/1/9