大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

ロバーツ最高裁長官がスイング・ボータ―に

2019年07月03日 | 日記

  ロバーツ連邦最高裁長官スイング・ボータ―の役割を果たすことが明らかになってきた。

 スイング・ボータ―というのは、最高裁の判決が保守、リベラルどちらか一方に極端にかたよらないよう、両者のバランスをとる投票行動をする裁判官のことをいう。

 米連邦最高裁では長い間、保守派のケネディー氏がこのスイング・ボータ―の役割を果たしてきたが、2018年、ケネディー氏は高齢を理由に辞職の意向を発表。

 後任に保守派のブレット・カバナー氏が任命された。

 アメリカでは、カバナー氏の任命により連邦最高裁の判決が保守に振り切れる可能性が出てきたと心配されていた。

 しかし最近、国勢調査をめぐる重要な判決において保守派のロバーツ長官はリベラル派の判事グループに加わり、スイング・ボータ―となることが明らかになった。

 アメリカでは10年に一度おこなわれる国勢調査をもとに議員の配分がきまる。ところが、トランプ政権は、国勢調査にあらたに市民権の有無を尋ねる項目を加えることを決定し、裁判がおこされていた。調査に市民権についての項目が加わると、民主党支持が多いマイノリティーの人々の調査への回答が減る、つまり民主党の地盤の議員数が減ると考えられている。

 この非常に重要な問題について、ロバーツ長官はリベラル派のグループに加わり(判決は5対4)、政府は新しい質問をくわえる十分な理由を開示していないとして、新しい質問の追加(今年)を差し止めた

 連邦最高裁の判決が保守に振り切れれば、公平であるという司法制度への信頼が揺らいでしまう。ロバーツ長官の行動は、そのような事態の発生をふせごうというものである。

 もっともスイング・ボータ―といっても、バランスのとり方はひとそれぞれ

 ロバーツ長官は最近、選挙区の恣意的な区割り(ゲリマンダリング)をめぐるきわめて重要な裁判で保守派グループに加わり、それを合憲とする判断をくだしている(知事および上下院で多数派を占め、自由に選挙区の区割りをおこなえる州が多い共和党に有利)。

 近年、AIをつかった極端なゲリマンダリングがおこなわれ、選挙結果に大きな影響を与えていることが大きな問題になっていたが、今回、ロバーツ長官はこれを合憲と判断した。

 スイング・ボータ―としての役割(リベラル派への賛成)は最低限のものになりそうである。

 

2019/7/12追記

 2019年7月11日、トランプ大統領は連邦最高裁判決をうけ、国勢調査にあらたに市民権(国籍)の有無を尋ねる項目を入れることを断念すると公式に発表した

2020/5/30追記

 2020年5月29日、コロナ感染が拡大する中、カリフォルニア州が教会の礼拝に対して定員の25%の制限を設けたことに反対して起こされた裁判において、ロバーツ長官はリベラル派とともにカリフォルニア州の措置を合憲とする判断をおこない、5対4で合憲判決が確定した

 

米連邦最高裁のケネディー氏が辞職:最高裁の保守化が一気に進むか (2018/6/28)

トランプ大統領の国家非常事態宣言、違憲の疑いが強い (2019/2/28)