大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

オバマケア改廃で富裕層が大幅減税。そのしわよせで、低所得者に無保険者が大量発生の見込。

2017年03月11日 | 日記

 共和党・下院が進めるオバマケア改廃案により、富裕層が大幅な減税となる一方、低所得者は補助金が大幅に引き下げられ保険に加入できない人が大量に発生する見込みであることがわかってきた。

 まず目を引くのが富裕層への減税である。オバマケアでは、保険費用をおぎなうためキャピタルゲイン(株式などの売却益)への課税を3.8%引き上げるとともに、富裕層の所得に対する増税(社会保障税の0.9%の引き上げ)をおこなったが、共和党・下院案はこれを撤廃するとしている(注1)。

 ニューヨーク・タイムズ(2017/3/10)は、これにより10年間で2740億ドル(31兆円:1ドル=115円で計算)の減税となるが、そのほとんどは年収20万ドル(2300万円)以上の人に回るとの試算を紹介している。とくに富裕層で減税の恩恵が大きく、年収100万ドル(1億1500万円)以上の人の減税額は10年で1570億ドル(18兆円)と減税額の半分以上を占めるとされている。

 その一方で、低所得者への補助金は大幅に削減される。オバマケアでは住んでいる地域の保険料が高いほど、また本人の年収が少ないほど多くの補助金が支給される仕組みだった。共和党・下院案では、これが年齢によって一律の税額控除(補助金)が受けられる仕組みに改められる。これにより、年収が少ない人では連邦政府からの補助金が大幅に減少することになる。ニューヨーク・タイムズ(2017/3/7)によれば、保険料が高く(とくに人口が少ない地域)、所得が少ない家族の場合、年間で100万円近く補助金が減るケースもあり、保険料の支払いが困難になる人が大量発生することが見込まれている。

 来週月曜に、議会予算局(CBO)が共和党・下院案によってどれだけの減税になるか、また無保険者がどれだけ増えるかその見積もりを公表する予定になっているが、複数のシンクタンクからは一千万人以上の人が医療保険を失うとの試算が出ている。

 先の大統領選挙では、白人低所得層がトランプ氏当選の大きな原動力になったが、共和党・下院案によってもっとも大きな打撃を受けるのがこの層である。

 ニューヨーク・タイムズ(2017/3/10)は、共和党・下院案によって年間5千ドル(60万円)以上補助金が減る人の6割近くがトランプ氏に投票しており、補助金が増える人よりも支持率が高いという調査結果を紹介している。

 トランプ大統領が、大切な支持基盤となっているこの人たちのために法案修正に動くのかどうか、動かない場合、この人たちがどのような反応を見せるのか注意してみていきたい。

 

(注1) アメリカでは日本と異なり、年収に応じてのキャピタルゲインの税率が異なる。おおよそでいえば、年収400万円ぐらい以下では0%、年収4千万円ぐらいまでが15%、それ以上で20%となっている。さらにオバマケアでは、単身者で年収20万ドル(約2千万円)、結婚したカップルで年収25万ドル(3千万円)を超えると3.8%が加算増税されることになっている。


下院・共和党、ようやくオバマケア改廃案を提出

2017年03月08日 | 日記

 トランプ大統領が当選した後、与党共和党が最初に取り組んだのはオバマケアの改廃である。

 オバマケアには大きな予算が使われており、最初にここでどのぐらい予算を削るか決めないとあとの予算案を作ることができないのである。

 つまりオバマケアの問題を解決した後でないと、減税策もインフラ投資も具体化できないのである。

 これがなかなか進まないでいたが、2017年3月6日(月)になってようやく下院・共和党の具体的なオバマケア改廃案が出てきた。

 おもな内容は、1)医療保険(購入)への連邦政府の補助金を廃止する、2)低所得者向けの公的医療保険メディケイドの加入対象者を広げた州に出している補助金を2020年までに廃止する、3)あらたに年齢別の税額控除(tax credit)の仕組みを導入するというもの。 

 税額控除は日本にはない仕組みで、30歳以下の人は年2千ドル(23万円:1ドル=115円で計算)、60歳以上の人は年4千ドル(46万円)といった金額が決められていて、その金額までは収めた税金が返ってくる。そしてもし払った税金が、定められた金額に達しなければ差額を現金で支給されるというのが税額控除の仕組みである。

 家族全員の税額控除の上限は1万4千ドル(160万円)とされている。

 また個人について7万5千ドル(860万円)、世帯で15万ドル(1700万円)を超える所得があると、所得に応じて少しずつ税額控除が少なくなるようになっている。

 この案がとおると、連邦政府による補助金が大幅に削減され医療保険に入れなくなる人が大量に生み出される恐れがある(下院・共和党はその見積もりを出していないが)。

 ところでアメリカのメディア-トランプ大統領を熱烈支持するウォールストリート・ジャーナルも含め-は、オバマケア改廃案がすんなり成立するか疑問視するものが多い。

 共和党内にさまざまな反対があるからである。

 一方には政府の市民生活への関与を最小限に抑えようとする保守強硬派が存在し、とくに税額控除の導入に強く反対している。

 他方には、オバマケア改廃で医療保険から締め出される人が多く出ることを懸念する議員-とくにリベラルとされる州の出身議員-がいる。

 まず今週(水曜日)、下院の委員会で法案の投票がおこなわれ、来週に下院本会議で投票がおこなわれる予定となっているが、民主党と共和党が拮抗する上院(100人)では、共和党から2人の造反者がでると法案が通らなくなる。

 法案の行方を注視していきたい。

 

2017/3/12追記

 2017年3月9日(木)、下院・委員会は共和党が提出した法案を可決した。ウォールストリート・ジャーナルは、共和党内に強い反対があるため、下院本会議での採択は予定より少し遅れ今月下旬ごろになりそうだと伝えている。


ヨーロッパの消費者物価の推移

2017年03月07日 | 日記

 エネルギー価格の上昇とユーロ安(輸入物価の上昇)によりヨーロッパの消費者物価が2%を超えようとしている

 なぜか日本のメディアではほとんど無視されているが、ECB(欧州中央銀行)のゼロ金利政策や国債買い入れに大きな影響を及ぼす可能性のある大きな出来事である。

 そこでホームページユーロ圏、ドイツ、イギリス、日本の消費者物価のデータを追加し、しばらくその推移を見ていくことにした。

▲ 2015年1月から2017年2月までの消費者物価(ユーロ採用国、ドイツ、イギリス、日本)

▲ 2007年1月から2017年2月までの消費者物価

 なお近年、日本のメディアでは変動の激しいエネルギーや生鮮食品などを除いた消費者物価が使われることが多いが、消費者物価はもともとは生活者の負担の変化をみるために作られたもので、欧米では生活への影響が大きいエネルギーや生鮮食品を含めた消費者物価が重視される。ということでホームページでは、全品目の消費者物価のデータを載せている。

 最近はエネルギー価格が落ち着いた動きを見せているが、今後、消費者物価がどう推移するか注視していきたい。


ユーロ圏の2月の物価上昇率が2%に上昇!

2017年03月03日 | 日記

 

▲高インフレにおそわれた旧ユーゴスラビアの百万ディナール紙幣(1990年ユーゴで撮影)

 

 2017年3月2日(木)、EU統計局(Eurostat)は、2月のユーロ圏(19か国)の消費者物価が前年比2%になったと発表した(1月のインフレ率は1.8%)。とくにエネルギー価格の高騰が物価上昇につながっている。

 これとは別に3月1日(水)にドイツ統計局が発表したところによると、ドイツの2月の消費者物価は2.2%の上昇(1月は1.9%の上昇)となり、EU平均をうわまわった。

 ECB(欧州中央銀行)は物価上昇2%を目標にしており、ECBのドラギ総裁が今後どのように金融緩和-ゼロ金利と国債の大量購入-の継続を正当化していくか注目される。

 フィナンシャルタイムズは、とくにドイツでECBによる金融緩和の見直しを求める声が強まっていると伝えている。

 なおアメリカでも、FRB(連邦準備制度理事会)が重視するインフレ指標PCEが1月に1.9%に急上昇しており、欧米同時にインフレ懸念が強まる可能性が高まってきた。