大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

英メイ首相、明日、不信任投票

2019年01月16日 | 日記

 2019年1月15日(火)、イギリス議会(下院)でEU離脱案の採択がおこなわれたが、予想通り432対202の大差で否決された。

 その後、労働党からメイ首相の不信任投票の採択のもとめがあり、1月16日(水)の19時から議会でメイ首相の不信任投票がおこなわれることになった。

 不信任が可決されると、14日以内にふたたび現内閣あるいは新内閣の信任投票がおこなわれ、そこでも不信任が可決されると解散、総選挙がおこなわれることになる。

 ただ、EU離脱案に反対した野党の英自民党(12議席)はメイ首相の不信任には反対するとしており、EU離脱案に反対した多くの保守党議員(118人)も不信任案では反対にまわるとみられている。

 こうしたことから、不信任が可決される可能性は小さいと思うが、その場合でもメイ首相の前途は多難である。

 不信任が否決された場合、メイ首相は、月曜までに代わりとなるEU離脱案を議会に提出することになっている。

 しかし、今回、EU離脱案が大差で否決されたため月曜までにEUが大きな修正に応じる可能性はほぼなくなった(僅差での否決の場合は、可決を後押しするためEU側がなんらかの譲歩をするとの報道が多かった)。

 労働党の一部や自民党はEU離脱の再投票をもとめているが保守党内では依然として離脱派が大きな力をにぎっている。

追記

 2019年1月16日、メイ内閣が信任された。

参考

英メイ首相、信任投票の結果 (2018/12/13)

イギリスがEUを離脱したら (2016/6/19)


日本の司法制度は「不思議の国のアリス」:欧米で日本異質論が拡大

2019年01月09日 | 日記

 2019年1月8日(火)のウォールストリートジャーナルは、カルロス・ゴーン氏は「ワンダーランド(不思議の国のアリス)」に囚われていると題した編集委員による社説を公表した。

 日本の司法制度を強く批判するこの社説には次のような刺激的な文章が並んでいる。

 「カルロス・ゴーン氏の司法手続きでは、判決が先にあり、証拠は後にくる」、これはすべてが逆転した不思議の国のアリスの世界である。これには補足が必要であろう。

 昨日、カルロス・ゴーン氏の弁護団の会見(1時間半)が日本外国人特派員協会でおこなわれ、日本では、特別背任容疑を否認している場合、通常は第1回公判が開かれるまで保釈はなく、また裁判がはじまるまで最低でも半年かかる(つまり半年は保釈されない)という説明があった。

 そのおもな理由は、逃亡の恐れおよび証拠隠滅の恐れである(今日、東京地裁はそれを認めて弁護側の勾留取り消し請求を却下した)。

 しかし欧米では、居場所を特定できるGPSがついたブレスレットの着用などによる逃亡防止がはかられている。そして証拠隠滅についてWSJは次のように述べている。

 「いま世界が学びつつあることであるが、日本の検察のやり方は、(欧米のように)最初に起訴をして、それから法廷でその証拠を被告と争うというものではない。東京で検察官は、罪を認めるまで被告を拘束し、弁護人なしに尋問をおこなうというものである。裁判は基本的に形式的なもので、あらかじめ有罪がきまっている。」 

「検察官は(保釈しない理由として)逃亡の恐れと証拠隠滅の恐れをいうが、もし検察官が今までに十分な証拠を持っていないのだとしたら、何が隠滅されるというのか?」

 欧米では逮捕の時点で十分な証拠があるのが普通で、長く拘束して自白を引き出すというやりかたはされていない。

 WSJはさらに踏み込んで、検察の発表よりゴーン氏の反論の方がずっと説得力があるとまで述べている。

 私自身は、ゴーン氏に刑事上、民事上の責任があるかないか判断できないが、少なくともひとつわかっていることがある。

 今回裁かれることになるのは、ゴーン氏にくわえ日本の司法制度のあり方だということである。

 難しい経済問題ということでテレビの露出こそ少ないが、新聞を中心とした欧米メディアの扱いはいまほんとうにすごいことになっている。この問題でカショギ氏の問題がふっとび、日本で勾留延長などなにかうごきがあると即座に大きな報道がなされる状態になっている。そして、WSJのような日本異質論が日に日に高まっている。この先どうなるか心配になってくる。

 最後に付け足しておけば、ウォールストリートジャーナルというのはリベラルな新聞ではまったくなく、保守本流の経済紙で、編集委員が共和党とトランプ大統領を強く支持しているアメリカで発行部数が一番多い新聞である(2019年1月現在)。

参考(2019/1/13追記)

【社説】「不思議の国」のカルロス・ゴーン ウォールストリートジャーナル(日本語) 2019/1/9 

ゴーン事件を日本の司法制度改革の契機に(社説) フィナンシャルタイムズ(日本語)2019/1/9


米下院、壁の建設費を含まない暫定予算案を可決

2019年01月04日 | 日記

 

 2018年1月3日(木)、さきの中間選挙で選ばれた議員の任期がはじまった。

 下院では民主党が過半数となり、さっそく壁の建設費を含まない暫定予算案を採択・可決した。

 しかし、上院で過半数をにぎる共和党は、大統領が拒否権を行使しないことが明らかにならないかぎり、下院で可決した法案を上院で可決することはしないとしている。

 このため、政府閉鎖はなお収束のめどが立たないでいる。

 アメリカで法案を成立させるには、上下院で同一の法案を可決したのち、大統領が署名する必要がある。

 大統領には法案を拒否する権利(拒否権)があり、これをくつがえすには両院で2/3以上で再可決する必要がある。


アメリカで収益後退: 景気後退入りのサインとなるか?

2019年01月02日 | 日記

 

 昨年末からアメリカ発の世界同時株安が続いている。

 その原因のひとつとされるのが、今年(2019年)、減税の効果がなくなりアメリカ企業の純利益の伸び率が低下するとみられていることである。

 ウォールストリートジャーナル(2019/1/1)によれば、S&P500(アメリカのトップ500社)の純利益の対前年伸び率は2018年の22%から2019年には7.8%に低下するとみこまれている。

 これについて、たしかに利益の伸びは小さくなるが増益(前の年より純利益の絶対額は増加)には違いないので経済へ大きなマイナスはないとする見方がある。

 しかし、WSJはそれを否定する興味深いデータを紹介している。

 WSJは、2四半期連続で純利益が対前年比でマイナスになることを「収益後退(earnings reccession)」と定義したうえで、過去50年間、収益後退がおこると多くの場合、ほぼ同時に景気後退が生じているとしている。

 もちろん、収益後退がおこっても景気後退がおこらない、いわゆる「だまし」もみられる。1988年以降これまで、6回の収益後退がおこり、そのうち3回は「だまし」である。

 しかし、6回のうち3回がじっさいに景気後退をともなっていることを考えると、景気後退の到来をつげる指標としての有効性はかなり高いと思う。

 しかも、収益後退がおこってから景気後退に入るまでの期間が非常に短い

 たとえばWSJのデータをみると、ITバブルの崩壊時(2001年)とリーマンショック時(2007-8年)に収益後退と景気後退はほぼ同時におこっている

 そして問題は、2019年に収益後退がおこる可能性が高いということである。WSJによれば、モルガンスタンレーは、2019年に収益後退がおこる可能性を50%と予想している。

 今年、今まで以上に米企業の決算発表に注目していきたい(2019年1Qの決算発表は4月から始まる)。


2019年上半期の注目: 日銀の追加緩和はあるか

2019年01月01日 | 日記

 

 

 今年は4月に統一地方選挙、7月に参議院選挙、10月に消費税の引き上げが予定されている。

 このため政府は、今年上半期、景気テコ入れを強化すると見られている。 

 ここで注目されるのが、日銀の動きである。

 日銀はこれまで消費税引き上げが近くなったり景気が鈍化すると、政府の景気対策と歩調をあわせて追加緩和をおこなってきた。

1) 日銀は、2015年10月の消費税引き上げを前に、その1年前の2014年10月にETF(上場投資信託)の買い入れ額をそれまでの1兆円から3兆円に増額した。

 ちなみに、この1か月後、政府は消費税引き上げの2017年4月への延期を発表。同時にその信を問うとして衆議院が解散され、同年12月に与党が圧勝した。

2) 2015年のチャイナショック(元切り下げを発端とした世界的な株急落)後、ヨーロッパの一部で金融不安が発生。世界的に景気減速が意識されるようになる。

 これをうけ、2016年6月、政府は消費税引き上げの2019年10月への延期を表明。

 そして、日銀は同年7月29日、ETFの買い入れ額を6兆円に倍増させることになった(ほぼ同時に、政府は28兆円規模の経済対策を決定)。

 さてそれで今年である。

 今年は消費税引き上げが10月に控えているうえに、7月に参議院選挙がある(1のケースに似ている)。そのうえ、世界的な景気減速がおこりつつある(2のケースに似ている)。

 そう考えると、今年の上半期にもういちどインパクトのある追加緩和がおこなわれる可能性が皆無ではないように思われる。

 現在、市場では国債不足が深刻化し、日銀の国債買い入れは年30兆円程度まで減少している。このため、国債買い入れの増額は難しく、追加緩和はETFの買い入れ増額が中心となる可能性が高いと思われる。

 日銀のETF買いについては市場をゆがめている、売却のめどが立たない、日銀の財務諸表を痛めるなど批判も強いが、ほかに政策手段がない状況である。

 日銀が今年どのような動きをするか注目される。

追記(2019/1/2)

 日銀は年6兆円をめどにETFの買い入れをおこなっていたが、2018年7月に「市場状況に応じて上下に変動しうる」と軌道修正。結局、2018年のETF買い入れ額は6兆5040億円となった。これは、事実上の追加緩和とみていいのではないだろうか。

 2019年上半期に予想される日銀の追加緩和のやり方としては、(1)市場にインパクトを与えることを狙って公式にETFの買い入れ額の引き上げを宣言する、(2)批判を受けないように何も説明することなくETFの一日当たりの買い入れ額を増やしたり買い入れ基準(頻度)を引き下げたり(増やしたり)する、のふたつが考えられる。

 個人的には、日経平均が2万円をこえている状態で、日銀によるETF買い入れ額の増額は将来の負債を破局的に拡大することになるので避けるべきだと考えるが、上で述べたように、これまでの経緯をみるとその可能性を100%否定することはできない(すでに始まっている?)。

2020/3/16追記

 日銀はETFの年間買い入れ目標を6兆円から12兆円にひきあげた。

 

関連ブログ

日銀が保有するETFの損益分岐点は1万8千円?? (2018/12/19)