「ゲーテはすべてを言った」は、ゲーテ作かもしれない《名言》(紅茶のタグに書かれている)の典拠探しに絡めた話で、その点、一貫しています。
文学作品や美術作品でもよくある源泉を探る研究分野に似ていますが、東京にあるらしい国立大学のゲーテ研究の権威(家族は皆けっこう幸せそうです。因みに主人公の義父も芸亭學という、読み方によってそれらしい名の権威です)は、内心どうも周章狼狽しているようです。
AIの時代、PCで検索すれば典拠はすぐ見つかりそうですが、そこは曖昧な性格の《名言》ですから、幾つかあるゲーテ全集を手で捲ってもダメ。さあ、どうなる、というわけです。
小説の文中、『聖書』の引用はもとより、文学、美術、音楽(J.S.バッハが好みらしいです。ゴールトベルク変奏曲、クリスマス・オラトリオ、マタイ受難曲)そして哲学など、旧世代と変わらぬペダントリーも横溢です。
主人公の同僚教授に資料捏造の擬ソーカル事件なども起こりますが、これは小説の展開を進めるエピソードなんでしょうか?
源泉研究に絡めた話の謎解きをミステリーとしても読めるなどの声もありますが、本物の研究はもっと謎解きに満ちて、困難なものがあるかもしれません。
著者はシェークスピア研究の大学院生であり、牧師さんの息子ということです。これだけ文学方面で有名になると、今後、学問分野での業績も注目され、期待されるかもしれません。そうなるとまさに二刀流ですね。今どきの若手はすごいと予感させなくもありません。
今回の受賞、アカデミックな要素を緩やかに小説に活かして成功したのではないでしょうか。ユーモアや多少のパロディなどの要素もうまく取り入れています。