美術の学芸ノート

中村彝、小川芋銭などの美術を中心に近代の日本美術、印象派などの西洋美術。美術の真贋問題。広く呟きやメモなどを記します。

ハビエル・シエラ『プラド美術館の師』(八重樫克彦・由貴子訳)を読む

2016-05-31 12:09:18 | 西洋美術
以前から気になっていた『プラド美術館の師』を読む。

様々な読み方ができる本だが、亡霊のように現れるプラド美術館の師フォベルがいったい誰なのか、その目的は何なのかというミステリーとして読む人が多いかも知れない。

そう読んでも十分面白いが、私は一つには師フォベルの美術作品の解釈を、この本の筋書きから独立したものとして楽しみ、もう一つは主人公ハビエルの自己形成小説として読み終えた。

若い主人公ハビエルは、1990年12月、「よき師は弟子に準備ができて初めて現れる」とプラド美術館内で語りかけてきた正体不明の師フォベルに夢中になっていく。

フォベルは絵画作品を精神世界への扉を開くものとしてハビエルに様々なヒントを与え、また、次々と驚くべき解釈を示して彼を虜にする。

その解釈自体や背景が、事実に基づくとされる大変興味深いものであるから、読者の知的関心を大いに刺激するのだ。

ところで、若い主人公ハビエルは、著者ハビエル・シエラその人(と同一名)であることが、邦訳232頁で確かめられよう。

すると、著者自身の若い時代の自己形成がこの本の中に直接投影されているのではないかと思われ、ますます関心を引く。

本の終結部において、主人公ハビエルとともに読者は、フォベルが消え、フアン・ルイス神父が亡くなり、マリーナも離れていったことを知る。ハビエルは、新たな出発を自覚しなければならなくなったことだけは確かだ。

「未知なる師がぼくを選びながら、見放した」

その理由は、若いハビエルにはよくわからなったかもしれない。認めたくない事実だ。

だが若いハビエルは師に見放され、成長していくのだろう。

プラド美術館の師の謎、決して夢ではなかったことの謎は、こうして、20年後のさらに若い世代のこの本の読者に託されていく。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

5月30日(月)のつぶやき

2016-05-31 03:11:44 | 日々の呟き

八重樫克彦、由貴子訳「プラド美術館の師」読了。美術作品の記述が、事実に基づいたもので、その方面からの知的関心だけでも、「師」フォベルの解釈と競うように読むことができる。この本が展示室監視員に捧げられているのもよかった。昔、澁澤龍彦の本で知った世界もかなり出てきて面白かった。

1 件 リツイートされました

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

5月28日(土)のつぶやき

2016-05-29 03:13:08 | 日々の呟き

自分の世界が小さく狭い人ほど、人を疑う。創作の世界も例外ではない。時代劇を書いていると、歴史にちょっと詳しい人に限って「そンな事はあり得ない」と疑う。歴史通の人は「もしかして、そンな事があったら楽しいだろうな」と作品を楽しむ。何事も、半可通が一番厄介だ。世界を広げて、世界を楽しめ

Riki67さんがリツイート | 2767 RT

自分にとってはどうでもいいことでも、誰かにとっては大事なこと。自分の嫌いな人でも、誰かにとっては大切な人。自分にとっては的外れな言葉も、誰かの心を震わせる言葉。自分は自分、人は人。(小池一夫)

Riki67さんがリツイート | 1450 RT

孵化したばかりの子ツバメたち。大きな口を開けて、親鳥が餌を持ってきてくれるのを待っています(^O^) pic.twitter.com/vCH1EtL9u5

Riki67さんがリツイート | 272 RT

プリベットシルバー、といいます。
側を通るととてもよい香りがしました。
花の形状は白い金木犀という感じです。
匂いは金木犀よりなお甘いような。
この木は、欲しいな。 pic.twitter.com/88gx9B3ykY

Riki67さんがリツイート | 18 RT

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

5月26日(木)のつぶやき

2016-05-27 03:16:35 | 日々の呟き

甲斐義明さんによる黒田清輝展雑感。と思ったら西洋美術史研究者に関する言及もあってびくりとする。
facebook.com/yoshiaki.kai/p…

Riki67さんがリツイート | 19 RT

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

5月23日(月)のつぶやき

2016-05-24 03:11:24 | 日々の呟き

好きなもの(漫画であれ小説であれ刀であれ歴史であれドラマであれスポーツであれ勉強であれその他もろもろ何であれ)が「なんか最近つまらないな、マンネリ化してきたな」と思ったら、少し距離をおいて、そのジャンルにおける自分の気力体力を回復させます。

Riki67さんがリツイート | 12 RT

経験上、つまらなくなったりマンネリ化しているのは十中八九作品ではなく自分だからです。疲れて、または慣れて、新しい驚きを受け入れる余裕がなくなっていたり、それを感じるセンスが磨滅していたり、舐めてかかって丁寧に受け取らなくなってます。なので、離れて回復または成長してから戻ると、

Riki67さんがリツイート | 9 RT

21世紀の人間がわからないものをわからないままに放置できない短絡主義に陥りがちなのは、ほぼすべての疑問について検索すればとりあえずの答えが得られるネット環境があるからだと思う。個人的には、「わからないのが普通だ」という当たり前の感覚が失われつつあることが、おそろしいと思っている。

Riki67さんがリツイート | 412 RT

バラの髪飾り、衣装!METとオランジュリー美術館と茨城県近代美術館のルノワール作品、モデルは皆違うが相互に類似。特に後二者。METのはこれ→Tilla Durieux (Ottilie Godeffroy, 1880?1971) metmuseum.org/art/collection…


@tikarato 先の三者のうちオランジュリー美術館のルノワールはこれ→Blonde à la rose musee-orangerie.fr/fr/oeuvre/blon… via @MuseeOrangerie musee-orangerie.fr/fr/oeuvre/blon…


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする