一昨日、畑の湧き水のphを測定したついでに、畑脇を流れる農業用水のphも測ってみました。
<サンプルA:畑脇の農業用水>
ph8.14
畑の湧き水がph7.1前後だったので、農業用水も同程度だろうと思っていたのですが、予想外に高いアルカリ性で驚きました。
初冬は周辺の慣行畑で、来年に向けた土作りのために粒状石灰を散布しているので、ひょっとしてその影響が出ているのかもと一瞬考えましたが、今時期は降雨量が極めて少ないのでカルシウムが畑からそう簡単に流れ出すとは思えず、また、今年は暖冬のため凍結防止剤(塩化カルシウム)散布がまだ行われていない様子なので、原因がいまひとつハッキリしません。
そこで、本日改めて同じ位置で農業用水を計ってみると、やはりph8.14と出ました。周辺環境の影響があるとすれば数値に変動が見られるはずなので、この安定ぶりからして、水源がそもそも高いアルカリ性であると考えるのが順当です。丁度良い機会なので、農業用水を遡って水源を調査してみることにしました。
近所の方によれば、この辺りの農業用水は柏木水源地から取水しているとのこと。念のため地図を参照して主要水路を辿ってみると間違いなさそうです。小諸生まれではないので迷わないようにルートを確認していると、ふと思い立った場所がありました。亡き親方の果樹畑横に湧く水源です。うちの畑の農業用水路とは水系が別になりますが、データが多い方が都合が良いので寄り道してみることにします。
2本のケヤキの間に祠があり、石垣下から水が湧き出ています。昔は鎮守の杜だったのかも知れません。
<サンプルB:双子ケヤキ下の湧き水>
ph7.00
※中性ど真ん中。野菜栽培にはph7.0あれば十分。
水源の周囲ではレタスや白菜、キャベツなどが栽培されていますが、豊かな地下水帯のおかげで良質な高原野菜が生産されているのでしょう。
寄り道を終え、いよいよ当該水系を遡ります。水源に辿り着く前に中間地点を調査。浅間サンラインの南ヶ原入り口信号手前で車を止め、道路脇用水路に下りてみます。
<サンプルC:南ヶ原入り口付近の用水>
ph8.49
※畑脇よりも更に高いアルカリ性。
農業用水のアルカリ性が周辺環境の影響ではないことがハッキリしました。一体、水源はどうなっているのでしょうか?
以前調べたところによれば、小諸市の主要水源の内、弁天清水だけが軟水、それ以外は硬水だそうです。柏木水源が硬水だとすれば、これだけアルカリ性が高いことも頷けます。
用水路の位置に気を配りながら登っていくと、遺伝資源保存園前に「水出併用林道」と書かれた杭が立っていました。また車を止めて用水を計ってみます。
<サンプルD:水出併用林道入り口の用水>
ph8.21
※南ヶ原入り口よりもやや低いアルカリ性。
上流に向かってphがぐんぐん上がっていくかと思いきや、そうでもないようです。
細い林道を通って更に車を進めると、「水出林道」と書かれた杭の立つ場所に着きました。山道に入りそうなので、ここからは徒歩で探索してみます。
少し登ると、左手に勢いよく水が流れるU字溝がありました。ここでもphを計ってみます。
<サンプルE:水出林道入り口の用水>
ph7.20
水源に近づくにつれ、phが上がるどころか下がっています。どうなっているのかさっぱり分からないので、ともかく水源を目指します。
舗装の無い山道を登っていくと、フェンスで囲われた水源に辿り着きました。水源に林立しているのは杉のようです。
透明度の高い清流。phが気になります。
<サンプルF:柏木水源地の水>
ph6.74
※弱酸性!?
三度計測しましたが、弱酸性で結果は変わりません。冷静に考えるために辺りを見渡していると、杉の葉が青々としていることから肝心な事を思い出しました。
「山の土は酸性」
山林の樹木は深く根を伸ばし、雨水よりも酸性度の高い有機酸を分泌して岩盤からアルカリ成分を溶かし出すそうです。常緑樹の杉が今なお有機酸を出し続けていると考えれば、無理なくこの値を理解できます。
樹木が吸収し切れなかったアルカリは有機酸塩として山水に混ざります。また、一旦樹木に吸収されたアルカリも、その樹木が命を終えて微生物に分解されることで、同様に有機酸塩となり山水に混ざります。このような有機酸の介入があると山水は弱アルカリ性を示すことになりますが、杉の根元には溶け出すアルカリよりも多くの有機酸が存在するので、更にphが下がって水源は弱酸性になります。
次に、下流について考えてみます。樹木が出した有機酸(クエン酸など)はエネルギー源として微生物に利用されるそうです。流れ下るにつれて有機酸が消費されていくとすれば、アルカリだけが残ってphが上がり用水はアルカリ性になると言えます。
帰り際、林道入り口の脇を見ると、深い沢がありました。涸れ谷になってしまっていましたが、農業用水が整備される前はここを水が流れていたのでしょう。涸れた谷には杉がなく、落葉樹ばかりでした。冬眠した落葉樹は有機酸を出さないので、下流が酸性にならないのだろうなと思いました。よくよく考えてみると、強いアルカリ性と言うのも、人間がU字溝を設置して樹木と水の関係を分断してしまった結果と言えそうです。この用水によって麓の里は本当に潤ったのだろうか?山林の保全というのは難しいテーマであると感じました。