打つ手なしと言われてきた新型コロナウイルス感染症の治療に光が見えてきた。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」でウイルスに感染し、肺炎を起こしていた3人の患者にぜんそくの吸入薬を使ったところ、症状が劇的に改善したという。3日、神奈川県立足柄上病院などの治療チームの報告書が日本感染症学会のホームページにアップされた。
報告書によると、73歳の女性は意識がなくほぼ寝たきり状態で入院。4日目から抗HIV薬が使われたが、症状は改善せず、副作用とみられる下痢や食欲不振などが出たため、9日目に投薬を中止。10日目からぜんそくに使う吸入ステロイド薬「シクレソニド」(商品名オルベスコ)に切り替えたところ、12日目には病室内を歩けるまでに回復。ウイルス検査では陰性が確認され、18日目に退院したという。
78歳の男性と67歳の女性もシクレソニドを入院5日目から投与されて以降、酸素吸入が不要となり、食事もすべて食べられるほどに回復。男性は病室内でスクワットをするまで元気になったという。
ぜんそく薬は特効薬になるのか。「北品川藤クリニック」(東京・品川)院長の石原藤樹氏が言う。
「シクレソニドは2007年に日本で発売された成人用の吸入ステロイド気管支ぜんそく治療薬で、従来の薬に比べて副作用が少ないことが知られています。気道の慢性炎症の抑制に効果があるとされるうえ、強い抗ウイルス活性があるとの報告もあり、新型コロナウイルス感染症に効くのではないか、との期待から使用されたようです」
新型コロナウイルス感染症がどのようなメカニズムで肺炎を起こすのかはわかっていない。
「どうやらシクレソニド以外の吸入ステロイドは、新型コロナウイルスには効かないようです。ただし、わずか3例での症例報告ですから、特効薬が見つかったとは言えません。患者さんの自然治癒力で治った可能性もある。症例数も足りないし、手法としてもランダム化比較試験などを行わなければなりません。副作用の検討も必要です」(石原藤樹氏)
とはいえ、検査はできても決め手となる治療薬がないなかで、明るい話であることは確かだ。
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