愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

宇和島の牛鬼と鹿踊り 形骸化への危惧

2011年11月03日 | 祭りと芸能
宇和島の牛鬼、鹿踊りの頭(カシラ)。江戸時代から続く和紙を何重にも貼り合わせた張り子細工の伝統工芸である。いま、宇和島市内のものはグラスファイバー、FRP(プラスチック)、ダンボールといった素材が増えていて、このまま10年、20年経つと、形だけの継承になってしまうのではないかと私は危惧している。南予には各地に古い頭(カシラ)が残っているが、それら痛んだ際の修理技術の伝承も難しくなるのではないかとも危惧している。

宇和島の牛鬼、鹿踊りは無形民俗文化財であるとともに、頭(カシラ)は江戸時代のものも現存しており、それらは有形民俗文化財である。明治時代に製作され、今でも使用されているものも数多い。これらを後世に保存、継承するには頭(カシラ)等の道具の製作技術の継承にも目配りしておく必要がある。基本は江戸時代の張り子細工職人「森田屋礒右衛門」の作品。伊達博物館に鹿面が保管されている。いかにその技術に迫ることが出来るか。その技術を継承している張り子職人(えひめ伝統工芸士)も宇和島市内にはいるので、現在はまだ修理、新調は可能であり安心できるのだが、今はあまりにもFRP、プラスチック、ダンボール牛鬼が増えすぎという印象。安易な素材を選択する前に、張り子細工の伝統を見直す事も必要。民俗文化財として継承するには、江戸時代から継承されている道具の製作技術も継承しないといけない。

正確な統計はとっていないが、宇和島市内の牛鬼の5割以上は既にプラスチック、ダンボール製となっているのではないか。これらは現代版の新規創作牛鬼というべきもので、文化財、文化遺産としての牛鬼と言っていいものか、甚だ疑問。厳しい見方をすれば、宇和島の牛鬼のうち、既に半分は厳密には「本物」の牛鬼ではないのではないかと思うときがある。

正直、このまま頭(カシラ)の和紙、張り子での製作技術がないがしろにされ、その技術継承ができなくなると、50年後、100年後には、宇和島の牛鬼文化は完全に形骸化してしまう恐れがある。

地域の文化遺産として牛鬼、鹿踊りを保存、活用、継承していく上では、このことは無視できない。



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