「イセエビの殻を煎じて飲むとはしかが早く治る。」(愛媛県内全域)
「はしかが流行しはじめたら、杓子に『こどもいない、いない』と書いて玄関につるす。」(今治市立花・宮窪町)
「はしかが流行した時は門口に『子供は留守』と書いて貼る。」(弓削町弓削)
「家の門に、杓子に『はしか済みました』と書いて吊す。」(美川村弘形)
「はしかになると着物にキンカンをつるしておく。」(新居浜市泉川・東予市吉岡)
「キンカンの実を赤砂糖で煮つめて食べるとはしかによい。」(新居浜市神郷・松山市御幸・御荘町御荘)
「はしかにはサイの角を削り煎じて飲む。」(伊予三島市三島・宇和島市丸穂)
「はしかにはギョリュウ柳の葉を煎じて飲むとよい。」(北条市粟井)
「はしかには、大根のおろし汁に、ショウガのおろし汁、砂糖を加えて飲む。」(今治市富田)
「はしかには、タケノコスープを飲ませると発疹した後、順調に快方に向かう。」(今治市富田)
「はしかには、もち米のおもゆを飲ませると早く出る。」(伊予三島市三島・美川村弘形)
「はしかが出そうになったら、糯米粥を食べる。」(松山市旧市内)
「アズキははしかに悪い。」(波方町波方)
「はしかが出そうになったら、ゴボウは食べられん。」(松山市旧市内)
以上『えひめの言い伝え-愛媛の医と食の伝承-』(「えひめの言い伝えを発行する会」、昭和63年発行)より。
全国的には、麻疹を疫病神として家や村から追い出そうとする事例が多く、日本民俗大辞典にも「俵蓋に赤飯を盛り、赤紙の御幣を立て、村はずれに、あるいは川の向岸へ送り棄てて帰る。そのとき振り返ると疫神が再びついてくる」という事例が紹介されている。愛媛県内に見られる、家の門口に「子供は留守」とか「はしか済みました」と杓子や紙に書いて貼るのも、麻疹を一種の寄り来る神(疫病神)としてとらえ、家の中に入って来ないように祈願したものと見ることができる。また、杓子を使用することについては、例えば、宮詣りのみやげに杓子を持ち帰り、小児の夜泣きをとめるため、門口にうちつけておくなど呪物の一種として扱われることがある。なぜ杓子が呪物になりうるのかはっきりとはわからないが、杓子が御飯(米)を分配する道具であり、米は供物や散米など魔祓いの儀礼において、ある種の霊力を持つと認め、その力によって魔を祓うことができるとされる。米の霊力が道具にも付帯していると認識されているからであろうか。
2001年06月15日