ショウジョウサマとは、川名津柱松神事の際に、天満神社前に立てられた柱松の頂上に取り付けられる藁人形のことである。これは、天満神社の祭神菅原道真(菅丞相)と言われ、藁で人形を作り、右手に扇、左手に御幣と銭十二枚(閏年には十三枚)を持たせて、赤色の着物を着せている。
このショウジョウサマは、柱松が天満神社前に運び込まれて松に藁を巻き付けるなど装飾されている際に、宮司により作られ、松の頂上部に取り付けられる。柱松の最後の行事として松登りがあるが、松明を背負ったダイバン(鬼)が松に登り、松明と頂上に取り付けられた白木綿、漏斗、そして最後にショウジョウサマをそれぞれ東西南北の四方に振り、鎮火や柱松寄進者の身上安全を祈る。そして、これらを順に柱の上から地上に投じる。地上に落とされたショウジョウサマを家に持ち帰ると縁起が良いと言われ、住民が我先にと奪い合う。そして家の門口に飾られ、翌年の小正月に正月飾りとともに処分されるのである。ただし、昭和初期以前生まれの人達によると、かつては、これを拾うことを嫌っていたという。ショウジョウサマは厄のついたものだから拾うべきではないとか、厄を背負った不吉なものなので、本来は火の中に入れて焼くべきだと言う人もいる。このように、川名津ではショウジョウサマは、現在は縁起物として魔除けの役割を果たすが、元来、厄を背負った不吉なものというように両義的に認識されている。
ショウジョウサマは赤の着物を着た藁人形であるが、六十歳の還暦(厄年)に赤い頭巾やチャンチャンコを送るのが一般的なように、厄に関する民俗にはしばしば「赤」が登場する。魔除けの呪術性を「赤」は持っているのである。また、藁人形についても、例えば東宇和郡城川町魚成の実盛送り(虫送り)では、稲の害虫を実盛という藁人形に託して、川に流す行事があったり、呪いの藁人形も、人形に思いが託されるわけで、ショウジョウサマについても、柱松神事が厄火祓いと厄年の者の厄祓いという性格上、祓われた厄は、このショウジョウサマに託されているのである。それゆえ、年輩の人はこれを拾うことを忌み嫌うのである。この心意を逆転させて、厄を背負ったもの故に、魔除けの縁起物に利用できると考える人は、これを積極的に獲得しようとするのである。
数年前、松の頂上から投げ落とされたショウジョウサマを四十二歳の厄年の男性が拾ったことがある。これを見た地元の年輩の方はすかさず「厄年の者が拾うたらいけんやろが」と叫んだ。折角、柱松神事で厄年の厄を祓ったのに、祓われた厄を自らがまた拾ってしまったということである。このように、ショウジョウサマは柱松神事の厄祓いとしての性格を象徴するものと言えるのである。
2000年04月27日 南海日日新聞掲載