光と影と

2006-06-10 02:33:20 | 徒然に


これまでも、毎日の長雨に閉口していたが
いまさらながらの入梅宣言が出た
だが、明日は晴れるという

光を透過して、美しい姿を見せる、きれいな花を見て
影の部分のなさに、物足りなさを覚えてしまうのは
梅雨の時期の成せる業なのか?

およそ、写真を楽しむものにとって、
雨が続くというのは、辛いことである

光と影をどう映しこむか?
それが写真だと思っている

花を撮る時も、人を撮る時も、美しさだけに心を奪われず
何か言いたげな花の表情、人の表情を写し取りたい

まだ、私が若い頃、カメラに凝り始めた頃の話である
瀬戸内の小さな港に良く、働く人を撮りに出かけていた時期がある

四国から石材を運んでくる小さな船の船員達の姿と
逞しい男のかく汗を写しこみたいと思ったからだ

肉体労働をする男達の姿は美しく、いわゆる絵になるものなのだ
今のように、本州と四国を結ぶ橋などなく、
石材を小さな船に積み込み、そして、簡単なクレーンで荷揚げする
まだまだ、人力に頼っていた古きよき時代の話なのだ

何度が通って、初めはカメラを向けるとカメラ目線で見上げていた彼らも
カメラ慣れして、過酷な労働を自然に私の前でしてくれるようになった

あるとき、帰り舟の荷物が翌朝になり、泊まることになった彼らと
港町の飲み屋で一緒に飲むことになった
無遠慮にカメラを向ける事への。彼らへのお礼をしたかったのである

そこで見せる彼らの表情は、昼間のそれと違って、
影の部分が浮き彫りになる、そんな人間性を見せて私の前にいた

「俺はな、あんたみたいな息子がいたんだが、交通事故で死なしてしまったよ」
赤銅色の顔にしわの線を深く刻ませた船長がポツリと、つぶやいた
「あんたを初めてみた時に、倅に似ているなって思ったものよ」
と、船長は、私のコップに一升瓶から酒を注ぎながら続ける

「荷降ろしの汚い姿の俺達なんて、撮るんじゃ~ねぇ」
最初にあんたが、「写真撮らせてください」と言った時に思ったものよ

「だけど、こんな、俺達に目を向けて写真なんて撮るやつは、
今までいなかったから、倅似のあんたには、許したんだよ」

「それに、港に入る日に、大きな写真を持ってきて、見せてくれ
家に持ち帰って、かかあに自慢できたからな」

居酒屋で見せる彼らの人となりは、昼間の光では見ることのない
影の部分である
しかし、私の本当に撮りたかった働く男達の姿が、そこには、あった

現像液の中で、ゆらゆらと現れる彼らの表情は、逞しく、美しいものであった
残念ながら、私の技量が伴わず、「写真コンテスト」には入賞しなかったが
光と影の何であるかを、私に教えてくれた彼らであった

今、まだ瀬戸内で健在であって欲しいと思うたけぞうである