秋田市の鈴木いく子さんの詩集「朝の自転車」が刊行された。
鈴木さんは製本作家でもあり、自ら製本したり外注したりしながら複数刊行されてきた。
今回の詩集は、昨年末に同様刊行した「バイパスのない一本道」に続くもので、これまで
書いたり先に詩集に組み入れた作品を<夕暮れ><静かな夜に><朝の時間><新しい年に>
の4つにテーマ化し、18篇を収めている。そこにはテーマごとに感じた素直な世界がみて
とれる。情景や出来事から感受し言葉に表した作者の姿は、前向きでありながらどこか寂しさ
も感じられる一面がある。また、タイトルとなった「朝の自転車」は作者の心の姿でもあり、
よく伝わってくる。私事だが、かつて”会社人”であった頃の、出社前に感じていた”私”や私の
くぐもった”心”の声のようなものがふと思い出された。
この詩集を手に取って読んだ人は、自身と共感できる詩がこの中にあると気付くことが出来
るかも知れない。
「夕暮れ」
暮れ始めると/早いから/まばたきの間に/落としていくから/しっかりつかまっていこう/
お母さんのエプロンを//街路樹の繁った葉のすき間を/鳥たちが帰っていくから/おうちに
いくんだろうね//今日の日も泣いて笑って/心のひだを揺さぶっておさまって/あたりは茜
色から夕闇に変わろうとしているから/今日の最後の色をしっかりと目に入れておこう//も
うすぐ/お味噌汁の匂いだよ/カレーの匂いがしてくるよ/何もなかったように/日が暮れる
よ/今日も終わるよ/明日がくるよ//
「静かな曲」
夜に聴く/静かな曲は/気持ちを落ち着かせる/体の中心の重心が/だんだん下に降りてくる
/下がって下がって/下に辿り着いたら/横になって眠りにつく/静かな曲のように/水が流
れる//
「朝の自転車」
朝の自転車はペダルが重い/前日までの快適な軽さは/すっかり忘れてしまう/今日も一から
やり直し//長年使って錆びた車体は/見た目も年季が入っている/時々悲鳴をあげる部品の
/今にも倒れそうな自転車//一日の始まりはハンドルに/手をかけるまでが第一歩/気が重
い時は/辿り着くまで時間がかかる//エンジンはついていない/自力で動かさなければ/一
ミリも動かない/体力に加え/気力も大いに必要だ/特に坂道のぼり坂は//うんとこしょ/
どっこいしょ//あちこちギシギシ/痛みも響くが/少しずつ動きだす/少しずつ回転も上が
っていく/次第にペダルも軽くなって/今日がリズムに乗っていく//
著 者 鈴木いく子
発行日 2020年5月20日
発 行 アトリエほっとはあと
体 裁 B6判
頒 価 500円
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