陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

森田 薫 詩集『冬の崖底(そこひ)から』

2022-09-02 | 詩関係・その他

     

 森田 薫  氏(鳥取県北栄町)の第3詩集『冬の涯底(そこひ)から』をご恵投いただいた。
 言葉の美しさというのは表現を豊かにする。
 いや、言葉の美しさを引き出せる、使い切れるというのは表現を豊かにする、と言った方が正しい
のかも知れない。

 作者が意図するとしないとにかかわらず、さりげなく詩句として置かれているとしたなら、
それはもう、作者の資性としか言いようがない・・・。そんな感じが氏の作品に多く見受けられる。
”詩”を読むことの懐かしさのような、”詩”集を手に取るよろこびのような充足感。



    冬の道

 ・・ふしぎなことに
 もう何処へも行こうと思わなくなった
 そこに道があればおのずから
 ひらけゆくものがある

 道の傍らに一本の樹が立ち上がり
 夕べ、ぼくは梢のまわりを満天の星がめぐるのを
 カーテンの隙間から見ていた
    
 水天の華が風に舞う冬の道
 生と死と、あらゆるものに光と影を宿す
 この世の謎と
 幾世紀をめぐるはるかな旅程
 ぼくらの眼差した世界の踏破が未遂のままであれ
 ただ生きてあることのふしぎを想う

 道があり
 樹はそこに立っている
 吹きぬける風
 鳥たちの飛来も
 散華も
 花も鳥もわが家の犬の遠吠えさえも
 いま在ることのすべてが訪(おとな)う季節(とき)の約束なのだと

 

  *第3連 水天の華・・風花のこと(造語)  

  ※当ブログの入力機能に制限があるためルビが付された箇所は( )書きとし、
   注記記号が付された第3連”水天の華”は上記表記とした。(前田)

 

発 行  2022年8月30日
著 者  森田 薫
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円+税


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