1945年(昭和20年)、敗戦直後の日本の惨状は極めて深刻だった。多くの都市がアメリカ軍の空襲で“焼け野原”となり、街には戦災孤児や怪我人、それに傷痍軍人や浮浪者があふれ、餓死者が出るなど人々はその日の食べ物を得るのにも苦労していた。まことに哀れな惨状だった。
こうした中で、ある唄が人々の心を癒し慰め、生きる希望を与えてくれた。それが『リンゴの唄』である。この唄はある映画のテーマソングで、歌っているのは松竹少女歌劇団の並木路子だった。
彼女自身も戦争で父と母と兄を亡くし、悲劇のどん底にあった。しかし、映画関係者らに励まされ、なんとか明るい声でこの唄を歌ったのである。その結果、映画も評判になったが、唄の方は驚くほどに大ヒットした。当時、幼児だった私もこの唄のことをよく覚えている。
これほど戦争で傷ついた人々の心を癒し、生きる希望を与えてくれた唄があっただろうか。まるで“奇跡”のような唄である。作詞はサトウハチロー、作曲は万城目正。
りんごの唄 並木路子 昭和うた