読書感想295 最後の証人
著者 : 柚月裕子
生年 : 1968年
出身地 : 岩手県
出版年 : 2011年
出版社 : (株)KADOKAWA
☆☆感想☆☆
本書は佐方貞人シリーズの一番目として書き下ろされたものだ。しかし、他のシリーズが検事時代をあつかっているのに、本書は検事をやめて弁護士になってからの事件をあつかっている。本書では12年前に東北地方の米崎市での検事の仕事にピリオドをうち、東京の中野で弁護士事務所を開いている佐方貞人が登場する。報酬の多寡ではなく、面白い事件を扱うというポリシーがあって、古巣の米崎市の殺人事件の弁護を引き受ける。相手方の検事は佐方の検事時代の上司であり、恩人の筒井検事の愛弟子にあたる庄司真生という20代の女性検事だ。依頼内容は殺人事件の弁護だったが、状況証拠は不利だった。高層ホテルの一室で交際のもつれからディナーナイフで被害者を殺害したと見られている。依頼人は不倫関係も刺殺もすべて否認している。
被害者は地元の開業医、高瀬光治医師の妻、高瀬美津子。
被告人は地元の建設会社の社長、島津邦明。
検察の調書の裏にある真実にどこまで近づけるか。被告人を無罪に導けるか。弁護士でありながら、検事の役割もはたすという離れ業を見せる佐方弁護士の手腕が冴える。ほかの佐方貞人シリーズは短編で構成されているが、本書は一冊で一つの事件を扱っている。著者の力の入れ方がわかる。