『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想46   瑠璃色の石

2013-01-08 22:57:55 | 小説(日本)

 


 

著者      津村節子<o:p></o:p>

 

生年      1928年(昭和3年)<o:p></o:p>

 

初出誌     1999年「新潮」<o:p></o:p>

 

出版      1999<o:p></o:p>

 

出版社     (株)新潮社<o:p></o:p>

 

受賞歴<o:p></o:p>

 

1965年  「玩具」第53回芥川賞<o:p></o:p>

 

1990年  「流星雨」女流文学賞<o:p></o:p>

 

1998年  「智恵子飛ぶ」芸術選奨文部大臣賞<o:p></o:p>

 

1991年   福井新聞文化賞<o:p></o:p>

 

2011年  「異郷」第37回川端康成文学賞・第59回菊池寛賞<o:p></o:p>

 

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感想<o:p></o:p>

 

 著者は今は亡き吉村昭の夫人であり、夫婦作家として著名な方だ。この「瑠璃色の石」は著者自身の「あとがき」によれば「茜色の戦記」「星祭りの町」につづく自伝的な小説の三作目で、著者と周辺の人以外の著名な人物や雑誌は実名だという。<o:p></o:p>

 

 昭和20年に女学校4年修了で繰り上げ卒業し、両親を喪って疎開先で姉と洋裁店を開いていた著者が、作家になる夢を諦めずに昭和25年(1950年)に新設された学習院女子短期大学の2回生として入学して、学習院大学の文芸部で夫になる高沢圭介と知り合い、共に作家として世に出るために苦闘する姿を描いたものである。<o:p></o:p>

 

圭介は中学時代に結核を患い、戦後肋骨を5本もとる大手術で蘇生し、作家になるという一念で来た人である。同人誌の中での評価は高かったが、なかなか文壇に出ることができなかった。それに対して妻は短大時代に少女小説が少女雑誌に掲載され、普通のサラリーマンより多い収入を得るようになっていた。圭介は2度仕事を辞めて小説に専念し、芥川賞の候補にもなりながら受賞できず、最後の場面では「おれは君の厄介になるのに疲れた」と言って実兄の仕事を手伝う決心をするところで終わる。<o:p></o:p>

 

ここで驚くのは人間関係の緊密なことである。著者は両親を早くに喪っているから、三姉妹の結束は固い。姉は妹の短大進学のために洋裁店を閉めることも厭わない。疎開先の伯父伯母も自分たちの娘のように親身に面倒を見る。圭介の兄弟も財産を失いながらも、病弱な圭介の身を案じて、家を建てる資金を出そうとしたり、仕事を世話したりする。文壇関係でも三島由紀夫が後輩の出す文芸誌に寄稿したり、丹羽文雄が新人作家発掘のために自腹を切って「文学者」という同人誌を発行したりする。さらに短大受験の際に、女学校卒業では資格がないので高等学校卒業認定試験を受けなければならない時に、短大でしてくれるというので会場に行くとただ一人の受験生のために薪ストーブが焚かれている。こうしたことは終戦直後という時代背景がなくては語れない優しさだし、絆であろう。<o:p></o:p>

 

次にびっくりしたのは圭介の企画力、アイディアマンぶりと有能さである。学習院大学時代に文芸誌を活版印刷にする資金を集めるために古典落語鑑賞会を幾度も開いたり、有名な作家を囲む会を開いたり、三島由紀夫と親しく交流したりする。さらに半年で実兄の会社を辞めたあとに、原毛を買い付けて撚糸工場で撚糸にしたものを東北のメリヤス業者に売るという商売を思いつく。しかし折からの不況の波に襲われて失敗してしまう。その後実兄の関係の繊維団体事務局に入り事務局長として団体を赤字から黒字に転換させる。実兄の会社に入るにしても食い詰めて頼って行くわけではない。そこで立派に成果を出している。実兄からお金をもらうことも借りることもしない。その人間としての矜持の高さに、兄弟たちも応援したくなるのだろうと思う。<o:p></o:p>

 

津村節子の小説は初めて読んだ。読みたいとずっと思っていた作家だった。この自伝的な小説は著者が守りたいと思っていたものがよく描かれている。小説を書くこと、小説について話し合える同志がいること。苦労はしているのだが、苦労に足を取られない、ずんずん進んでいくようなたくましさがある。小説を書くという目的がぶれないし、人生を肯定的に信じているからだ。<o:p></o:p>

 

津村節子は私の高校の先輩だ。まだそれほど有名でないときに母校に講演に来たことがあった。名前を知らなかったのでその講演を聞きに行かなかった。それが何十年も心残りになっていた。新聞のコラムで戦時下の母校について書いた記事を読んだことがある。私の知っている高校生とはまるっきり違う女学校の生徒の姿があった。軍需工場で生真面目に働く生徒たち。マイナスイメージでは書いてはいなかった。プラスイメージで、欠陥品を作らない信用のある生徒たちと。彼女はプラスイメージで物事を描く作家だと思う。それがこの「瑠璃色の石」にも貫かれている。<o:p></o:p>

 

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わがまま評価(五点満点)<o:p></o:p>

 

面白さ  :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

長さ   :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

読みやすさ:☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

人物   :☆☆☆<o:p></o:p>

 

時代背景 :☆☆☆<o:p></o:p>

 


読書感想45  泥棒はライ麦畑で追いかける

2013-01-04 12:36:09 | 小説(日本)

 


 

著者      ローレンス・ブロック<o:p></o:p>

 

生年      1938<o:p></o:p>

 

出身地     アメリカ合衆国ニューヨーク州バッファロー

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受賞歴     シェイマス賞・エドガー賞・MWA賞巨匠賞・<o:p></o:p>

 

        PWA生涯功労賞<o:p></o:p>

 

代表作     泥棒バーニイ・シリーズ<o:p></o:p>

 

        アル中探偵マット・スカダー・シリーズ

「泥棒はライ麦畑で追いかける」初版    1999年出版

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感想<o:p></o:p>

 

 これは著者の代表作、泥棒バーニイ・シリーズの第9作目にあたる。サリンジャーとサリンジャーの手紙がオークションにかけられた事件を下書きにしたという。<o:p></o:p>

 

泥棒が本業で副業に古書店を営むバーニイはニューヨークのマディソン・スクウェアの向かいに建つパディントン・ホテルに3泊の宿泊費を払い4階の客室に入る。そして6階のアンシア・ランドーの部屋に忍び込む。アンシアは出版エージェントとしてプライバシーを秘密にしている人気作家のガリヴァー・フェアボーンの作品を一手に引き受けている。バーニイはガリヴァー・フェアボーンの手紙を盗みにきたのだ。しかし手紙は見当らず、アンシアの死体が硝煙と煙草の煙の中に横たわっていた。そこへ警察がドアを叩く。バーニイはアンシアの部屋の外の非常階段を伝わって3階の誰もいない客室に入りこむ。そこで豪華なルビーのネックレスとイヤリングを見つける。ホテルから逃れようとロビーへ降りると、アンシアの部屋へ入る前に6階で会った舞台女優に名指しされ、旧知の警官レイに逮捕される。バーニイの体からはアンシアを刺殺した物も泥棒の七つ道具も盗んだものも出てこない。釈放されたバーニイは盗みの依頼人に連絡をとろうとするが連絡がとれない。バーニイの古書店に次々にガリヴァー・フェアボーンの手紙を買いたいという人が訪れる。伝記を書こうとしている大学教授、ファンのコレクター、オークションのサザビーズの人、警官のレイまで来て山分けの話をもちかける。更に保釈金を払ってくれた大富豪ジョン・コンシダインからルビーのネックレスとイヤリングを取り戻してくれという依頼がくる。手紙はどこにあるのか? アンシアを殺したのは誰か? バーニイが謎を解いていく。<o:p></o:p>

 

 バーニイが泥棒なので非合法な手段で犯罪の証拠が集められるし、犯罪の現場に犯人と同じような感覚で近づくことができる。殺人事件を解決しながら、盗みの依頼者との取引で自分の利益を確実にする。まるで古書販売のように。盗み出したものも表ざたにできないような品物で、最終的には犯罪が成立しない。実にスマートな泥棒探偵である。バーニイと会話する人達が魅力的で楽しい。彼らを生かすためか、犯人も真相もあまりに意外である。脈絡が途切れたようだ。<o:p></o:p>

 

 またパディントン・ホテルで貸し出してくれるテディベアのエピソードが楽しい。日本人観光客にテディベアが大人気でお土産に持って帰る人が多いそうだ。ニューヨークへ行ったらパディントン・ホテルに泊まろう。<o:p></o:p>

 

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わがまま評価(5点満点)<o:p></o:p>

 

長さ      :☆☆☆<o:p></o:p>

 

人物造型    :☆☆☆<o:p></o:p>

 

推理の難解度  :☆☆☆<o:p></o:p>

 

独特の雰囲気  :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

面白さ     :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

アメリカ文化紹介:☆☆☆<o:p></o:p>

 


読書感想44  緋色の囁き

2013-01-02 00:56:36 | 小説(日本)

 


 

著者      綾辻行人<o:p></o:p>

 

生年      1960<o:p></o:p>

 

出身地     京都府京都市<o:p></o:p>

 

受賞歴     1992年「時計館の殺人」で第45回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞<o:p></o:p>

 

「緋色の囁き」 1992年祥伝社ノン・ノベルで初版<o:p></o:p>

 

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あらすじ<o:p></o:p>

 

 養父母と暮らしていた和泉冴子(いずみさえこ)は突然現れた伯母、宗像千代(むなかたちよ)に引き取られ、宗像家が経営する聖真女学園高等学校に転校し、寮に入る。全寮制で一学年一クラスのお嬢様学校である聖真女学園高等学校は、規則ずくめで厳罰主義の学校だ。冴子は学級委員長の城崎綾とその取り巻きの少女たちの雅な言葉遣いと陰気なクラスに驚愕し、同室の高取恵に対するクラス中の敵意を感じる。恵は冴子に自分とは親しくしないほうがいい、自分は魔女だからと話す。そして深夜寮内の開かずの間で高取恵の焼死体が発見される。そして次に同室になった城崎綾の取り巻きの少女も殺され、冴子を厄病神と罵った城崎綾の別の取り巻きも殺される。冴子は幼いころの記憶がなく、生理の始まりと共に赤い血にまみれる悪夢にうなされ、夢遊状態になる。もしかしたら自分が殺したのかもしれない。自信のない冴子にクラス中の敵意が向けられていく。

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感想<o:p></o:p>

 

 記憶を失っている得体のしれない自分と、異常な学校、異常なクラスメート、開かずの間の伝説、宗像家の秘密などがいくつもの糸のように絡み合っている。こうした中で主人公の真相解明への必死の想いが伝わってくる。犯人が暴かれたときにすべての謎が解明される。単に謎解きの推理小説ではなく、人の感情や心理がよく描かれている。しかし、連続殺人の犯行の引き金を生理不順にするのは無理があるのではないだろうか。

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わがまま評価(5点満点)<o:p></o:p>

 

謎解きの難度 :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

人物造型度  :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

物語の面白さ :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

長さ     :☆☆☆☆<o:p></o:p>

 

読みやすさ  :☆☆☆☆<o:p></o:p>