
円盤に籠るレモンの香とひかり薄くちいさな四角のなかに
おとといの晩、大阪から仕入れ先の営業担当が二人来社した。
前任のYとは二十年来の付き合いで
現在担当の若者Sはここ数年の付き合いである。
年末だから二人で来たのだろう。営業といっても
要るものは買うし、要らないものは買わないから
仕事の話はせず世間話ばかり。
で、焼肉屋に肉を焼きに行った。
この店とは25年来の付き合いだ。
十月にSくんと飲んだとき、仕事の話をしないから
話題もないので彼女の話を聞いた。
束縛がえげつないなんて愚痴りながらも
「まぁ腐れ縁ですわ。結婚はすると思いますけど」
と話していたので、披露宴では、とっておきの
ハトから帽子を出す手品をやってあげようと約束をした。
その翌日、スマホに彼から電話。
「たったいま振られましたわ」 「まだ若いんだから頑張れ」
と会話した翌日、ぼくもSくんと同じ境遇となった。
その焼肉屋さんでは有線が流れている。
「糸」が流れたとき
布を織れる相手と出会うのが幸せなんだとさ。
チャンネル変えておくれよ。
なんてぼやいて笑って良い晩を過ごした。
で、今日の昼。大阪のSくんが一人でやってきた。
「おう、なんだよ」 「いえね、社長さんにコレ」
と言って小さな四角をくれる。
「なんなん?」 「いや、若者の曲ですけどCDですわ」
「?」
「焼肉屋さんで「糸」が流れた2曲あとに流れた曲ですわ」
「?」
「胸に響いたもんで。あんときはお二人の話も入ってこなかったですわ」
他人は何を考えているのかわからないという典型だなと思った。
「ほう。で、だれの?」
「レモンていう米津なんとかいう人の曲で、知ってはりますか?
きっと社長さんにも響きますわ」
と言って手渡されたCD。 「で、きみ2枚買ったの?」
「いやパソコンにダウンロードしたからもういらないんですわ。沁みますよ」
と言って手渡されたCD。
仕方なくランチに中華をご馳走したけど
客だとか仕入れ先だとか関係なく
ああ、この曲をやつにも聞かせてあげよう!
と思ってくれる気持ちというのは
有難いもので
嬉しいものだ。
でもぼくはSくんが思うほど傷ついてはいないよ。
Sくんが傷ついているほどには傷ついていないよ。
ありがとう