![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/62/f7db3d1808fd2903c2683deacda2b95d.jpg)
雪が勉強していると、携帯電話が震えた。先輩からメールだ。
勉強は捗ってる?
試験終わったら海に遊びに行こうか
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/4b/0f10880b2cc24ba7851cf63c94d293a4.jpg)
わぁ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/39/81dc1791dd8813c1033dd97d43fdd80d.jpg)
そのメールを読んで、思わず雪は先輩と海に居る場面を想像する。
「うんうん、冬の海も良いよね〜」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/1f/d10d04c80af7758aec335a4c05560ff8.jpg)
「人は居ないし、雰囲気あるし。前は聡美達と行ったけど今度は先輩と‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/49/75060d6cfc704530c119ae09a503c56a.jpg)
二人は寒い寒いと言い合いながら、お互いに手を繋ぐだろう。
身体を寄せ合って見上げた先にはきっと、笑顔の先輩がいる‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/7b/0d244601d5172bd0daf3a89ed31ba65f.jpg)
ときめくわ〜
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/1d/c72732597fb83b45f20fb727893e04b7.jpg)
雪が妄想にふけっていると、再び携帯が震えた。
今度は静香からメールが入っている。
ねぇ、また店で奢ってよね
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/cc/87006b540ab89b806fa53ec213b87437.jpg)
なんと調子の良い‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face2_lose_s.gif)
雪がムキーと憤慨しながら返事を打とうとした矢先、再び携帯が震える。
「次はお金もらいますよ!?‥ってビックリした!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/da/a48ecfe6fca3483dfa92b13d5390b142.jpg)
また先輩からメールが入っていた。
あと、前雪ちゃんが言ってたハーブ園も見に行こうよ。博覧会もいいよね‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/f4/17300b54d544a3a510ff773b914f424f.jpg)
「そうそう!あそこ行きたかったんだ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/35/8c2704d7f8a88941ab4b2ed5dc8e115a.jpg)
先輩からの提案に雪の心が躍る。
そういえばこの間彼の家に行った時、「あそこに行きたいあそこにも行きたい」と、
彼の前で零したことを思い出した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/04/b515e773ba1aec1b4e4f30f84f52d9b9.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/0b/998c06dc8d2b8665344d69ba24586bcd.jpg)
雪は携帯を置いて、彼の提案を手放しで喜んでいる自分をふと疑問に思う。
あぁ‥そうだよね。
私は勉強で先輩は就職の準備で、今まで遠出はおろかまともにデートも出来なかった
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/ad/7509b1d7423123f62efb4930297cd4e0.jpg)
この間もそうだった。
仕事をしてる先輩の方が忙しいに決まってるのに‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/41/394b23d29821f15a3cce5ab39ab767a4.jpg)
雪の脳裏に、自身の忙しさなどおくびにも出さず雪にエールを送る彼の姿が思い浮かんだ。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、雪は彼に返信を送る。
「はい、どこも良いですよね‥一緒に行きましょう‥と。
単位のことばっかりであんまりデートも出来なくて、ごめんなさい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/e1/faa70059ede683c756fe95bb7ba2e639.jpg)
「私が!空気!読めなくて!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/1b/08c0d56a5ee83af4410c0d2ba64c3372.jpg)
そう言いながらゴツンゴツンと机に額をぶつけていると、早速彼から返事が返って来た。
雪の気持ちを見通した上の、その温かなメッセージが。
ううん、ただもっと良くしてあげたいだけだよ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/ba/04aaf5c8c4de196af90d10e6938bdf99.jpg)
会いたいから
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/66/c9150f42d05eef4a04b27b7df8c2228a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/93/2127c172bd960129abe30f3a0331396f.jpg)
その言葉は雪の胸の中をくすぐり、前向きになれる力をくれる。
雪はううんと伸びをしながら、声を高らかに気を引き締めた。
「うあー!ちゃっちゃと勉強して試験終わらせるぞー!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/cf/18f71e0d0975e1753dab4b573e295731.jpg)
「うわっ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/03/e73f5fc53ba14acbedadb26645737abc.jpg)
勢い良すぎて転げていたが‥。
一方。
単位のことばっかりであんまりデートも出来なくて、ごめんなさい
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/3a/afca55b88155bbb4ec0fdc4f8de89e8c.jpg)
雪が送ったそのメッセージを、淳は車内で一人眺めていた。
暗いその空間で唯一、彼女がくれたその言葉だけが仄かに明るく光っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/2c/ba253f4803e92abe03427894e883b61b.jpg)
こうしていると、何も変わっていないように思えた。
「日々に追われて息詰まる彼女」と、「手を差し伸べる自分」の構図は。
「そうだ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/19/55c5b3256d9d29be3858df72d2f18240.jpg)
「全部元通りになればいい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/80/18165062ddfd539032bf45e8fda7e44e.jpg)
「原状回復すれば‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/a1/dc56662785b37d556851b90c9c0ccf49.jpg)
いつだって打って出る度に変数は誤差となった。
今回だって例外ではないはずー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/1b/5c284fcbbda5f59ff470f5d5671fd035.jpg)
引き続き雪が勉強を続けていると、キィとドアが開いて蓮が入って来た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/71/9982f05fb78c1771be4a836b67bea075.jpg)
「何?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/1c/6a2e100d63a9f711635efc51fe8b524e.jpg)
そう尋ねても、蓮は何も言わない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/08/7bcc848caae19e42c70d5b3cc8eb7d3a.jpg)
ツカツカとベッドまで歩いて来て、そのままバタンと寝転がる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/f4/1520d0c883477cf073cd3d92dd90f297.jpg)
「ただ横になってるだけ。勉強しててよ。邪魔しないからさ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/ec/3e1348e61ade0c7106e3bc3571aa965e.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/81/327b410ca96b0a250d419b4dac9a12a2.jpg)
蓮は背を向けたまま、そう言って本当にただ横になっていた。
雪は弟の背中を見つめたが、自分からは何も聞き出したりはしない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/b1/00c0da7711272d7d98ef76c4feb57ad3.jpg)
暫くコチコチと時計の針が動く音だけが部屋に響いた。
そして暫しの後、背を向けたままの蓮がポツリと口を開く。
「やっぱアメリカ戻るっきゃないよね?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/1a/d526becdedb95a46d8b2a1b1642817ad.jpg)
雪はテキストに目を落としたまま、少しおどけながらこう返した。
「そうだね。窓から飛び降りようとしたその負けん気で、アメリカでも頑張んな」
「うん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/f2/614ba6a0c3294f3a7728a28794287c65.jpg)
姉弟はそう言ってクククと笑い合う。
もう笑い事に出来るくらい、先日のピラミッド商法騒動は既に過去の出来事になっていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/63/07ebce07e2b7a095590715f6d6598569.jpg)
色々あったけど、結局慣性のように元通りになるのだろう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/be/b2abe066615c5837a3369b6455abe0f7.jpg)
蓮はきっと頑張れる。そう信じている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/06/7ed33aee649e8430e7d725bd7692e9c5.jpg)
少し頼りないその背中を見つめながら、雪はそう思った。
再びテキストに目を落とし、ぼんやりとこう思う。
冬休みになったら、バイト代使って蓮に会いがてら先輩と一緒に旅行してもいいな
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/1f/a27760e91699bbdcda177b40c6da6ae8.jpg)
その言葉は雪の胸の中に温かな光となって灯る。
先輩と一緒に‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/74/8c7e5358961195a67085b73e0ff51366.jpg)
彼と一緒に居るだけで未来は、少し輝いて見える気がした。
沢山デートして、些細なことで喧嘩したり、仲直りしたり。
皆みたいに、もっと恋愛を楽しまなきゃ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/55/3e0816850e89d49a1f1600667380549c.jpg)
ごく、平凡に。
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いつだって願うのはごく普通の平凡な日常だった。
しかし雪を取り巻く慣性は、思い描く未来とは違う方向へと雪を導いて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<慣性>でした。
今回は「元に戻る」というのがキーワードになっていますね〜。
しかし淳は「もうそれが出来ないんじゃないか」という恐怖に必死に抗おうとしているように思えます。
雪が今のところその辺に気づいてないのが今後のキーになりそうですね。
うう〜ん‥。
次回は<通告>です。
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LINEマンガだとすいすいと読んじゃうんですが、Yukkanenさんの説明・解説が入ってるとほんと深く読み込んじゃいます。
自分1人で読むとここまで深くは読み込めないので助かってます!
淳は元に戻したいんだろうけど、このままお互い変化していくのを受け入れられないのかな、、、
でも原状回復って、どういう事なんでしょう・・嫌な予感しかありません。
5ヶ月前ぐらいにLINE漫画でチートラを知り、yukkanenさんのサイトにたどり着いたスヌーピーです。
目まぐるしい毎日を送られているのに、更新ありがとうございます。
初コメなのにもかかわらず、コメ欄を借りて宵っぱりさんに質問してもいいでしょうか?
”最初から純粋な「恋愛感情」で始まっていないから”というのは、”淳は気がついていないけれど、実は小さい恋の芽は芽吹いてた”のか、それとも”全くそんな気持ちはなくて、ただの獲物として始まり、いつしか本気になっちゃった”って感じでしょうか?
それともそれ以外?
私は4部28話での淳が雪の声だけが耳に入ってくる描写を見て、あぁ、恋の始まりはここ辺り(学祭当日含めて)なんだなぁと思っていたものですから。
学祭あたりで恋という部分もあるかもですが、
私はもっと切実なもっと暗い…淳の疲弊した魂のSOSが雪ちゃんにすがったという感じと思っていて。
今はもちろん本当に好きでしょうがそれも恋愛というより依存が強過ぎるなって思います。
失う恐怖のあまり自分を出さないから、なかなか雪ちゃんの望む普通の恋愛は遠いですよね…。
「疲弊した魂のSOS」ですね。
なるほど。
流れ”だけ”を追っていけば、
多数の中から一人が気になり始める
↓
相手の事を知りたくなる
↓
ごはんに誘う
↓
もっと相手の事を知りたくなる
↓
ごはんだったり映画だったりに誘う
↓
もっともっと相手の事を知りたくなる
↓
何かと一緒に居る時間を増やす
↓
相手にも自分を受け入れてもらいたくなる
↓
告白をして「自分の彼女」「彼女の彼氏」という関係を確立させる
↓
その後もいろいろあるけど省略
と、ありふれた男女の恋愛に見えるんですけどね。
この二人の場合は...というか淳の深層心理が普通の恋愛をさせてくれないというところでしょうか。
思い切って質問して良かったです。
読み方の幅が広がりました。
ありがとうございました。
とにかく雪を自分の手の内に留めて置きたいの一心なのではないでしょうか。
それこそ変数を誤差にとどめておきたいのでしょうが‥。読者としてはうう〜んですよね‥。
ちょん。さん
いや〜チートラ深いですよね。。噛めば噛むほど味が出るスルメ漫画です。
雪が変化していけばいつか自分から離れて行くと、淳は相当な恐怖を抱えていると思われます。その根本を変えなければ、雪の変化を受け入れることは難しいでしょうね‥。
そして宵っ張りさんとスヌーピーさん(初コメありがとうございます!)のやり取り!素敵!!
淳のフィルターを通すと純粋な恋愛の流れも全て彼の根本の歪みを感じさせてしまいますよね(@@;)
彼がそこに向き合って自分を赦し雪を受け入れることが出来たら、物語は終わるような気がします。