ふうーーーっ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/62/aaef25878dd5db677c26d87c95534341.jpg)
「ゲホゲホゲホッ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/4d/e38b12d20db18af1972658be9fded9d3.jpg)
静香の吐き出す煙草の煙が辺りに充満し、雪はゲホゲホと咳き込みながら声を上げた。
「ちょっ‥煙草は後にして下さい!」「は?細かいわねぇー」
「はあぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/c2/7aac1e899ece8a0aaf97bf84d9478ce3.jpg)
ゆっくりと煙草を嗜む静香を見て、
雪は先程講義室で感じた穏やかな気分が吹っ飛ぶのを感じていた。
そうじゃん‥まだこの人が残ってた!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/e0/e40773fd44cd844c3d79f2868028285a.jpg)
ようやく補整された道路を歩めると思った矢先、静香の出現によってそれはまた獣道に逆戻りだ。
この自由奔放なトラブルメーカーは、今最も雪の心を憂鬱にさせる人と言っても過言ではない。
雪は鼻を押さえながら、早速静香から回収したプリントに目を通し始めた。
二人共金欠の為、この寒空の下で答え合わせだ。
「寒いから早く終わらせましょう。今日は早めに来たんですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/90/6fe29cf7dd90489e4de6499c72c3c926.jpg)
その雪の質問に、ゆっくりと答える静香。
「まぁ‥家に居たって‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/33/08cee3b6a6121e72f746f083e60b2c48.jpg)
静香は、煙草を燻らせながら先程の出来事を思い出していた。
「今すぐご注文を!もうお時間ありませんよ〜!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/fd/ce381940de6e417bd943dd14a7595a7d.jpg)
数時間前、静香は家でぼんやりとテレビショッピングを見ていた。
けどもう何の商品を紹介していたのかも思い出せない。
「これはテレビだから言ってるわけじゃありませんよぉ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/55/21cbe58310ad033ee4abef9f53ea643f.jpg)
携帯電話の履歴には<不在着信 青田淳>が七件表示されていたが、携帯を手に取る気にはならなかった。
静香は寝転がった体勢のまま、販売者の甲高い声をただ聞いている。
「私も素人じゃありませんからね、この商品は本当に破格なお値段ですよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/17/4c7feb666fb0913821263b05dd8d4f4e.jpg)
すると突然、誰かがドアを叩いた。
ドン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/42/e0040a2ab3b9365b0e6280a008ffe637.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/42/fc22c64b68d2ba6111afbacfb27da303.jpg)
静香は思わず身を起こし、目を見開いたまま固まっていたが、
ドアの向こうには依然として誰かの気配がしていた。
トントン
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/1f/84626fa28786c80397cadc7fda27049b.jpg)
静香は亮の部屋に向かって大声で叫ぶ。
「ちょっと亮!外出てみて!変な音がしてる!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/c2/8a920ddb3ee72b3cfb401ad20c3ea125.jpg)
しん‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/1e/a8a6f46b6fce5412c5b1661f323c3424.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/23/ec87272079a042a0f2486047f3b61226.jpg)
静香はハッとした後、最近の弟の様子を思い出して舌打ちした。
そうだ、最近外出たらなかなか帰って来ないんだった‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/b8/6267ed84457eb599ef362ef164fda65b.jpg)
ドンドン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/cb/acd2aba7bce93eb4b0ccf3b9ce812eaf.jpg)
だんだんとノックは大きくなり、ドアの向こうで苛立っている人の気配を感じる。
静香は身体を強張らせたまま、その場から動けない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/14/a4e70e643911e1b134d69ef9e680a37f.jpg)
指の先から体温が引いて行って、背筋がすうっと冷たくなった。
頭の中で、ドアが大きな音を立ててバンと開く。
「静香ぁ!今日こそお前を殺してやる!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/48/364dc9fd8348cf36a7534e787be86b7f.jpg)
鬼のような形相の叔母は、そう言って幼い静香を叩いた。何度も、何度も。
「宅配便です」「はーい、ちょっと待って下さい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/64/b7cab65550df68c738596aa99f08b700.jpg)
耳からはドアの外のやり取りが聞こえて来るが、静香は未だ現実に戻れず瞼の裏の幻影を追っていた。
頭を抱えた体勢から見える叔母の口元が、幼い静香に残酷な真実を教える。
「亮を探してるのか?あの子はここには居ないよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/24/3f17d6bd5d416f0911d1a1d8e29087b6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/20/991fa6a0dc7fcc9884857738b7d5482d.jpg)
ようやく動けるようになったのは、静寂を取り戻して随分経ってからだった。
こんな時弟が傍にいたとしたら、こう言っただろう。
「ほらみろ、ただの宅配だったろ。
けどお前のじゃなくて隣のってのは珍しいな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/6b/ee1be88fff52f403e5f3b27a2b5dc9d3.jpg)
そのちょっとした皮肉に姉弟は言い争いを始める。
怒っていれば、あの暗い記憶も思い出さずに居られたのに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/30/214560244f9775f9538adef0a1197f25.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/c2/80af2ce2daa839d6845d4e8ea1ee9274.jpg)
玄関を見るとあのブーツを思い出す。あのゴツくてボロボロの黒いブーツを。
自分の靴が置けなくなると文句を言いながら、よく足で端に寄せた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/ba/23f488291feba9225300d7cce38730a7.jpg)
あの靴も今はもう、ない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/e7/e7968a21e92b8bd18e7ad6705086d977.jpg)
口を開けば喧嘩して時に疎ましかった、弟の存在。
けれどそれは自分の寄す処だったのだと、ひしひしと実感する。
空いた椅子を見る度に、広くなった玄関に立つ度に。
もうあたしにはアンタしかいないと、あの時伝えたはずだったのに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/48/2fc50e957efddbc9b6d0d58da14a72f3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/9b/d12d173cd99b9be3ad46689708ad4a78.jpg)
思いが溶け出すその前に、静香は身支度をして家を出た。
胸中に渦巻く様々な感情を、振り払うように急ぎ足でー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/bc/f56d5e5949b93f84ffae80fa01fe7dde.jpg)
「‥やることないしねー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/11/11b479917cc6bb1173a16122ece75c6b.jpg)
静香は前を向いたままそう言った。雪は静香の横顔をじっと見つめている。
「ていうか煙草すら許してくんないなんて、あたしのこのストレスは誰が責任取って‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/0c/18ccd51c6df510ee8e1b710720ec4809.jpg)
静香を見ていた雪の視線が、ゆっくりと外れて後方の一点を見つめて固まっていた。
静香は雪が見ているそれを追う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/7b/f07563040b816393038d647a496fd1c9.jpg)
「くれる‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/60/9428994e4e71994d006dc79fd03358ed.jpg)
そこには、一人立ち尽くすもう一人のトラブルメーカーが居た。
彼の姿を見て、二人はそれぞれに目を丸くする。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/80/e1657fce63bb225993dee2e36550a03f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/87/f9c9a84137ffdbd2729d8fb5325e9cd2.jpg)
柳瀬健太の背後からは、だんだんと鬱々としたオーラが立ち上って来た。
えーっとこの二人が親しいってことは、
赤山にあの女と青田の関係をぶっちゃければ奴は終わりじゃねーか?
横山は間違ってなかったんだ。いくら青田でも弱点の一つや二つ‥
「あの、もうこれで‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/03/eaf5e050be8d33dc3995f18dc54402ed.jpg)
嫌な予感がする、と雪の第六感が告げていた。
健太が近付いて来るその前に、この場を立ち去ろうとしたその時。
ガッ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/27/90fee066c8c21d55ed831007d9e89881.jpg)
突然雪の手首を掴んだかと思うと、凄い勢いで静香が逃走を始めた。
「えっ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/81/2234156c8b90b5ae0da5a6066aadd8a2.jpg)
「えぇっ???」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/da/d41691fb51118370346ff9f93adaa24c.jpg)
健太はただポカンと口を開け、去って行く二人の後ろ姿を見つめていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<寄す処>でした。
今回、静香が亮が居なくなった空間を見ている場面を見て、
「ぼくは勉強ができない」という山田詠美さんの小説の一節を思い出しました。
以下転載します。
「この人が死んだら嫌だなあと思った。彼も多分、ぼくを残して死ぬのは嫌だろうなあ、と。
そこまで思うと、なんだかやるせなくなった。
それは、大きな悲しみというより、ひとり分の空間が出来ることへの虚しさを呼び覚ます。
人間そのものよりも、その人間が作り上げていた空気の方が、ぼくの体には馴染み深い。
笑いや怒りやそれの作り出す空気の流れはどれ程、他人の皮膚に実感を与えることか。
多くの人は、それを失うことを惜しんで死を悼む。
生きていることは錯覚ばかり、とぼくは病院に来る途中に思ったけれども、
残す空気は形を持たずして、実感を作り上げるのだ。
しかし、その空気より他人に記憶を残せなかった人間は虚しい。
やがて灰になるなら、重みのある空気で火を燃やしたい」
どんな存在にもそういう気持ちを感じるでしょうが、静香の場合は唯一の肉親ですからね。
幼い頃叔母に虐待していた時に見放され憎む気持ちもあれど、
やはり亮の存在は静香の心の寄す処なんだと思います。
次回は<彼女の味方>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「ゲホゲホゲホッ!」
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静香の吐き出す煙草の煙が辺りに充満し、雪はゲホゲホと咳き込みながら声を上げた。
「ちょっ‥煙草は後にして下さい!」「は?細かいわねぇー」
「はあぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/c2/7aac1e899ece8a0aaf97bf84d9478ce3.jpg)
ゆっくりと煙草を嗜む静香を見て、
雪は先程講義室で感じた穏やかな気分が吹っ飛ぶのを感じていた。
そうじゃん‥まだこの人が残ってた!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/e0/e40773fd44cd844c3d79f2868028285a.jpg)
ようやく補整された道路を歩めると思った矢先、静香の出現によってそれはまた獣道に逆戻りだ。
この自由奔放なトラブルメーカーは、今最も雪の心を憂鬱にさせる人と言っても過言ではない。
雪は鼻を押さえながら、早速静香から回収したプリントに目を通し始めた。
二人共金欠の為、この寒空の下で答え合わせだ。
「寒いから早く終わらせましょう。今日は早めに来たんですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/90/6fe29cf7dd90489e4de6499c72c3c926.jpg)
その雪の質問に、ゆっくりと答える静香。
「まぁ‥家に居たって‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/33/08cee3b6a6121e72f746f083e60b2c48.jpg)
静香は、煙草を燻らせながら先程の出来事を思い出していた。
「今すぐご注文を!もうお時間ありませんよ〜!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/fd/ce381940de6e417bd943dd14a7595a7d.jpg)
数時間前、静香は家でぼんやりとテレビショッピングを見ていた。
けどもう何の商品を紹介していたのかも思い出せない。
「これはテレビだから言ってるわけじゃありませんよぉ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/55/21cbe58310ad033ee4abef9f53ea643f.jpg)
携帯電話の履歴には<不在着信 青田淳>が七件表示されていたが、携帯を手に取る気にはならなかった。
静香は寝転がった体勢のまま、販売者の甲高い声をただ聞いている。
「私も素人じゃありませんからね、この商品は本当に破格なお値段ですよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/17/4c7feb666fb0913821263b05dd8d4f4e.jpg)
すると突然、誰かがドアを叩いた。
ドン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/42/e0040a2ab3b9365b0e6280a008ffe637.jpg)
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静香は思わず身を起こし、目を見開いたまま固まっていたが、
ドアの向こうには依然として誰かの気配がしていた。
トントン
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/1f/84626fa28786c80397cadc7fda27049b.jpg)
静香は亮の部屋に向かって大声で叫ぶ。
「ちょっと亮!外出てみて!変な音がしてる!」
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しん‥
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静香はハッとした後、最近の弟の様子を思い出して舌打ちした。
そうだ、最近外出たらなかなか帰って来ないんだった‥
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ドンドン!
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だんだんとノックは大きくなり、ドアの向こうで苛立っている人の気配を感じる。
静香は身体を強張らせたまま、その場から動けない。
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指の先から体温が引いて行って、背筋がすうっと冷たくなった。
頭の中で、ドアが大きな音を立ててバンと開く。
「静香ぁ!今日こそお前を殺してやる!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/48/364dc9fd8348cf36a7534e787be86b7f.jpg)
鬼のような形相の叔母は、そう言って幼い静香を叩いた。何度も、何度も。
「宅配便です」「はーい、ちょっと待って下さい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/64/b7cab65550df68c738596aa99f08b700.jpg)
耳からはドアの外のやり取りが聞こえて来るが、静香は未だ現実に戻れず瞼の裏の幻影を追っていた。
頭を抱えた体勢から見える叔母の口元が、幼い静香に残酷な真実を教える。
「亮を探してるのか?あの子はここには居ないよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/24/3f17d6bd5d416f0911d1a1d8e29087b6.jpg)
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ようやく動けるようになったのは、静寂を取り戻して随分経ってからだった。
こんな時弟が傍にいたとしたら、こう言っただろう。
「ほらみろ、ただの宅配だったろ。
けどお前のじゃなくて隣のってのは珍しいな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/6b/ee1be88fff52f403e5f3b27a2b5dc9d3.jpg)
そのちょっとした皮肉に姉弟は言い争いを始める。
怒っていれば、あの暗い記憶も思い出さずに居られたのに。
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玄関を見るとあのブーツを思い出す。あのゴツくてボロボロの黒いブーツを。
自分の靴が置けなくなると文句を言いながら、よく足で端に寄せた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/ba/23f488291feba9225300d7cce38730a7.jpg)
あの靴も今はもう、ない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/e7/e7968a21e92b8bd18e7ad6705086d977.jpg)
口を開けば喧嘩して時に疎ましかった、弟の存在。
けれどそれは自分の寄す処だったのだと、ひしひしと実感する。
空いた椅子を見る度に、広くなった玄関に立つ度に。
もうあたしにはアンタしかいないと、あの時伝えたはずだったのに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/48/2fc50e957efddbc9b6d0d58da14a72f3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/9b/d12d173cd99b9be3ad46689708ad4a78.jpg)
思いが溶け出すその前に、静香は身支度をして家を出た。
胸中に渦巻く様々な感情を、振り払うように急ぎ足でー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/bc/f56d5e5949b93f84ffae80fa01fe7dde.jpg)
「‥やることないしねー‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/11/11b479917cc6bb1173a16122ece75c6b.jpg)
静香は前を向いたままそう言った。雪は静香の横顔をじっと見つめている。
「ていうか煙草すら許してくんないなんて、あたしのこのストレスは誰が責任取って‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/0c/18ccd51c6df510ee8e1b710720ec4809.jpg)
静香を見ていた雪の視線が、ゆっくりと外れて後方の一点を見つめて固まっていた。
静香は雪が見ているそれを追う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/7b/f07563040b816393038d647a496fd1c9.jpg)
「くれる‥」
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そこには、一人立ち尽くすもう一人のトラブルメーカーが居た。
彼の姿を見て、二人はそれぞれに目を丸くする。
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柳瀬健太の背後からは、だんだんと鬱々としたオーラが立ち上って来た。
えーっとこの二人が親しいってことは、
赤山にあの女と青田の関係をぶっちゃければ奴は終わりじゃねーか?
横山は間違ってなかったんだ。いくら青田でも弱点の一つや二つ‥
「あの、もうこれで‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/03/eaf5e050be8d33dc3995f18dc54402ed.jpg)
嫌な予感がする、と雪の第六感が告げていた。
健太が近付いて来るその前に、この場を立ち去ろうとしたその時。
ガッ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/27/90fee066c8c21d55ed831007d9e89881.jpg)
突然雪の手首を掴んだかと思うと、凄い勢いで静香が逃走を始めた。
「えっ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/81/2234156c8b90b5ae0da5a6066aadd8a2.jpg)
「えぇっ???」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/da/d41691fb51118370346ff9f93adaa24c.jpg)
健太はただポカンと口を開け、去って行く二人の後ろ姿を見つめていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<寄す処>でした。
今回、静香が亮が居なくなった空間を見ている場面を見て、
「ぼくは勉強ができない」という山田詠美さんの小説の一節を思い出しました。
以下転載します。
「この人が死んだら嫌だなあと思った。彼も多分、ぼくを残して死ぬのは嫌だろうなあ、と。
そこまで思うと、なんだかやるせなくなった。
それは、大きな悲しみというより、ひとり分の空間が出来ることへの虚しさを呼び覚ます。
人間そのものよりも、その人間が作り上げていた空気の方が、ぼくの体には馴染み深い。
笑いや怒りやそれの作り出す空気の流れはどれ程、他人の皮膚に実感を与えることか。
多くの人は、それを失うことを惜しんで死を悼む。
生きていることは錯覚ばかり、とぼくは病院に来る途中に思ったけれども、
残す空気は形を持たずして、実感を作り上げるのだ。
しかし、その空気より他人に記憶を残せなかった人間は虚しい。
やがて灰になるなら、重みのある空気で火を燃やしたい」
どんな存在にもそういう気持ちを感じるでしょうが、静香の場合は唯一の肉親ですからね。
幼い頃叔母に虐待していた時に見放され憎む気持ちもあれど、
やはり亮の存在は静香の心の寄す処なんだと思います。
次回は<彼女の味方>です。
☆ご注意☆
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すみませんが、タイトルが少しわかりにくかったのですが・・「拠り所」のような意味でしょうか。
別に誰も大それたことなんて望んでいるわけでは無いんですよね。ただ平穏が欲しいだけなのに…
この漫画を読んでいていつも思うことなのですが、本当に、誰も悪く無いんですよね。それぞれがそれぞれのベストを尽くしているだけなのに、なんでこううまくはまらないのか…人間関係はパズルでは無いってことですかね
あああ〜そうですよね、聞いたことないですよね「よすが」‥。わかりにくくてすいません‥(TT)
一応意味としては「緑の語源となった言葉で、「身や心を寄せて頼りとするところ」「頼みとする人」「身寄り」「手がかり」「寄る辺」」という意味だそうです。
「拠り所」よりも家族とか家とか、そういった意味合いを出したくてつけました。静香にとっては亮が唯一のそういう存在ですのでね‥。
名乗るほどの者では…さん
なんて謙虚なHN‥「よすが」の補填コメ、ありがとうございます!
きざしさん
「僕は勉強ができない」面白いですよね〜〜!私があれを読んだのは高校時代かな、すごく影響を受けたのを覚えています。
そしてチートラの登場人物、誰も悪くないというのに同意です。
誰もに共感出来る部分がありますよね。
そして「人間関係はパズルではない」、名言ですね!
だからこそのこのもどかしさなんでしょうね‥。
なんだか主人公が冷めてて客観的に物事をみるところが淳と似てるなって思ってました。
あの主人公大人びてますよねぇ。確か高校生‥。淳のビジュアルで想像したら鼻血出そうです。