翌日、聡美が雪の包帯の巻かれた手を見て声を上げた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/ac/024904984a3d761b262af22a220cc333.jpg)
大きな声で心配する聡美に、雪は昨日のことを説明しようとした。
しかし‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/d4/3399c0d485e243e3792945a74c4a2f32.jpg)
気がついたら、周りの人達が皆雪の方を見ていた。
とっさに、「‥ツナ缶を開けようとして‥」と嘘を吐く雪。
聡美が、びっくりさせないでよと安堵の溜息を吐く。
「さっき聞いたんだけど、昨日教育科の校舎にホームレスが忍び込んだんだって!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/6c/9d56d14042ada4255973fb733b582999.jpg)
雪はビクッとしたが、昨日はすぐに帰ったんだともう一度嘘を吐く。
「そっかよかった~!なんでも女の子が一人殴られて、未だ意識不明らしいよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/a4/4eac720bd7f2d5d7ea3791c4c02a989b.jpg)
雪が耳を疑っていると、前に座っていた学生が「違う違う!」と話し掛けて来た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/48/dc68ce3b144b547517d0c87f0dd27fce.jpg)
それを皮切りに、皆口々に昨日の事件についての推測を口にし始めた。
「私が聞いたのは逃げる途中に階段から転げ落ちて‥」
「俺はホームレスがその女の子を裏山に引きずって行ったって聞いたぞ」
「その子歯も全部折れちゃったらしい。学校も辞めるらしーよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/85/5893414b7978dd20788883a5c73c1084.jpg)
噂というものは、回るのが早くて過大されていて、そして当たっていることは一つもないものだ。
雪は昨日、警備員さんに言われた通りになったと思い返した。
「たまに構内でこういう事件が起きた後によくあるんだが、
変な噂が立っちゃ本人が苦労するだけだから、このまま黙って過ごすのが一番だよ。
明日学校に来てみれば分かるだろうけどね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/92/0f84f942a3540d849231c4e73c14c349.jpg)
黙っておいてよかった‥と思いながら、雪は自販機で一人ジュースを買った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/9d/c369e9e377b8c441233f086fdc4d09bc.jpg)
缶を拾おうと手を伸ばすと、鋭い痛みが走る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/be/51322dd3a958788ade8b7da51af80e4f.jpg)
思った以上に重症らしい。
溜息を吐く雪。
すると誰かが、雪の代わりに缶を拾ってくれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/43/cbbb3e1f75bdb5669fa275bfc955b2f7.jpg)
顔を上げると、思いもしない人物だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/12/84ff58eff797580126d6eab424342641.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/b1/14c20d3452ec14d84aca2b5f21b75bde.jpg)
青田淳。
雪は躊躇いながら礼を述べる。すると、その手どうしたのと彼は聞いてきた。
これは‥と雪が説明しかけると、彼は言った。
「昨日何かあったの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/5c/318a30310ca46f0da464ea86a7af0115.jpg)
「昨日‥ですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/49/9a24ed26cef75f9f5caeeb01399fb782.jpg)
不信を感知する、雪の勘が働いた。
彼のこんな眼差しを、いつか見た気がする。
それを見た後は決まって、雪の心にザワザワとさざ波が立った。
「昨日教育科で起きた事件で皆大騒ぎだろ。もしかしてと思って聞いてみたんだ。
雪ちゃんも残ってたのかなぁと思って」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/ef/dfb516a010aa092ca139c16fe665f35c.jpg)
雪は否定した。ツナ缶を開けるときに切ったのだと。
青田先輩はふぅん、と含みを持たせた返事をした。
自販機にお金を入れ、ボタンを押す。
「雪ちゃん‥転ぶわ手ぇ切るわ‥。もっと自分自身に気を遣ってあげなきゃダメだよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/72/1b6d124b4da4c59cbe0ce65803d368d3.jpg)
ゴトン、と缶が落ちる。
「え?」と聞き返した雪に、彼は静かに言った。
「いや、気をつけろってことだよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/a8/ccf42d04f7f1e35e0e3854470bc7c291.jpg)
怪我をして損をするのは自分だろう、
そう言って、彼はジュースを手に取った。
「昨日の事件と関係ないなら、よかった」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/ab/7006066740196b53bbb3eccb608c7cef.jpg)
お大事に、と言って彼は去っていった。
雪の胸にモヤモヤとしたものを残して。
あれのどこが心配してる顔なのよ‥。むしろ嬉しそうなんですけど
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/1e/b8f4a463081f02d7a3c5f5c32bbf45e9.jpg)
すると後方から、何やら物音が聞こえた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/e4/52acdcc0a68d6dea5a7bb8249f7ba234.jpg)
振り返ってみると、平井和美だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/72/719b75fde7130d7dbabb9eab7df07e0d.jpg)
一瞬雪と目が合ったが、彼女はすぐに視線を逸らすと駈け出して行った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/12/ba2d4f566ed5ff358bfc5286d43db0fd.jpg)
雪は事態が飲み込めなかった。
いつも青田先輩と会話をした後に和美と会うと、睨まれるのが常だったからだ。
あの二人に何かあったのだろうか。
理解不能の状況に、雪は一人立ち尽くした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/cb/5ece95c31e79d1a1c90756de79623395.jpg)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雪が感じたデジャヴ。
先ほどの、彼のあの眼差し。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/5c/318a30310ca46f0da464ea86a7af0115.jpg)
雪があれと同じ眼差しを見たのは、確か横山のことで新学期が始まってすぐ彼を問い詰めた時のこと。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/93/ed6406b2e3003c94e044a2be48b28e78.jpg)
そんなつもりじゃなかったのに、と彼が言った時。
あの時と同じ目をしていた。
これらの共通点は何だろう?
あの何もかも分かっているような目つき。
きっとその瞳の中に、彼の描いたシナリオが記されている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>巻き込まれた災難、でした。
謎に包まれたホームレス事件ですが、次回その真実が明らかになります。
雪でも淳でもない、ある人物の視点から描かれるお話です。
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大きな声で心配する聡美に、雪は昨日のことを説明しようとした。
しかし‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/d4/3399c0d485e243e3792945a74c4a2f32.jpg)
気がついたら、周りの人達が皆雪の方を見ていた。
とっさに、「‥ツナ缶を開けようとして‥」と嘘を吐く雪。
聡美が、びっくりさせないでよと安堵の溜息を吐く。
「さっき聞いたんだけど、昨日教育科の校舎にホームレスが忍び込んだんだって!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/6c/9d56d14042ada4255973fb733b582999.jpg)
雪はビクッとしたが、昨日はすぐに帰ったんだともう一度嘘を吐く。
「そっかよかった~!なんでも女の子が一人殴られて、未だ意識不明らしいよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/a4/4eac720bd7f2d5d7ea3791c4c02a989b.jpg)
雪が耳を疑っていると、前に座っていた学生が「違う違う!」と話し掛けて来た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/48/dc68ce3b144b547517d0c87f0dd27fce.jpg)
それを皮切りに、皆口々に昨日の事件についての推測を口にし始めた。
「私が聞いたのは逃げる途中に階段から転げ落ちて‥」
「俺はホームレスがその女の子を裏山に引きずって行ったって聞いたぞ」
「その子歯も全部折れちゃったらしい。学校も辞めるらしーよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/85/5893414b7978dd20788883a5c73c1084.jpg)
噂というものは、回るのが早くて過大されていて、そして当たっていることは一つもないものだ。
雪は昨日、警備員さんに言われた通りになったと思い返した。
「たまに構内でこういう事件が起きた後によくあるんだが、
変な噂が立っちゃ本人が苦労するだけだから、このまま黙って過ごすのが一番だよ。
明日学校に来てみれば分かるだろうけどね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/92/0f84f942a3540d849231c4e73c14c349.jpg)
黙っておいてよかった‥と思いながら、雪は自販機で一人ジュースを買った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/9d/c369e9e377b8c441233f086fdc4d09bc.jpg)
缶を拾おうと手を伸ばすと、鋭い痛みが走る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/be/51322dd3a958788ade8b7da51af80e4f.jpg)
思った以上に重症らしい。
溜息を吐く雪。
すると誰かが、雪の代わりに缶を拾ってくれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/43/cbbb3e1f75bdb5669fa275bfc955b2f7.jpg)
顔を上げると、思いもしない人物だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/12/84ff58eff797580126d6eab424342641.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/b1/14c20d3452ec14d84aca2b5f21b75bde.jpg)
青田淳。
雪は躊躇いながら礼を述べる。すると、その手どうしたのと彼は聞いてきた。
これは‥と雪が説明しかけると、彼は言った。
「昨日何かあったの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/5c/318a30310ca46f0da464ea86a7af0115.jpg)
「昨日‥ですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/49/9a24ed26cef75f9f5caeeb01399fb782.jpg)
不信を感知する、雪の勘が働いた。
彼のこんな眼差しを、いつか見た気がする。
それを見た後は決まって、雪の心にザワザワとさざ波が立った。
「昨日教育科で起きた事件で皆大騒ぎだろ。もしかしてと思って聞いてみたんだ。
雪ちゃんも残ってたのかなぁと思って」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/ef/dfb516a010aa092ca139c16fe665f35c.jpg)
雪は否定した。ツナ缶を開けるときに切ったのだと。
青田先輩はふぅん、と含みを持たせた返事をした。
自販機にお金を入れ、ボタンを押す。
「雪ちゃん‥転ぶわ手ぇ切るわ‥。もっと自分自身に気を遣ってあげなきゃダメだよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/72/1b6d124b4da4c59cbe0ce65803d368d3.jpg)
ゴトン、と缶が落ちる。
「え?」と聞き返した雪に、彼は静かに言った。
「いや、気をつけろってことだよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/a8/ccf42d04f7f1e35e0e3854470bc7c291.jpg)
怪我をして損をするのは自分だろう、
そう言って、彼はジュースを手に取った。
「昨日の事件と関係ないなら、よかった」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/ab/7006066740196b53bbb3eccb608c7cef.jpg)
お大事に、と言って彼は去っていった。
雪の胸にモヤモヤとしたものを残して。
あれのどこが心配してる顔なのよ‥。むしろ嬉しそうなんですけど
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/1e/b8f4a463081f02d7a3c5f5c32bbf45e9.jpg)
すると後方から、何やら物音が聞こえた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/e4/52acdcc0a68d6dea5a7bb8249f7ba234.jpg)
振り返ってみると、平井和美だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/72/719b75fde7130d7dbabb9eab7df07e0d.jpg)
一瞬雪と目が合ったが、彼女はすぐに視線を逸らすと駈け出して行った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/12/ba2d4f566ed5ff358bfc5286d43db0fd.jpg)
雪は事態が飲み込めなかった。
いつも青田先輩と会話をした後に和美と会うと、睨まれるのが常だったからだ。
あの二人に何かあったのだろうか。
理解不能の状況に、雪は一人立ち尽くした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/cb/5ece95c31e79d1a1c90756de79623395.jpg)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雪が感じたデジャヴ。
先ほどの、彼のあの眼差し。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/5c/318a30310ca46f0da464ea86a7af0115.jpg)
雪があれと同じ眼差しを見たのは、確か横山のことで新学期が始まってすぐ彼を問い詰めた時のこと。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/93/ed6406b2e3003c94e044a2be48b28e78.jpg)
そんなつもりじゃなかったのに、と彼が言った時。
あの時と同じ目をしていた。
これらの共通点は何だろう?
あの何もかも分かっているような目つき。
きっとその瞳の中に、彼の描いたシナリオが記されている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>巻き込まれた災難、でした。
謎に包まれたホームレス事件ですが、次回その真実が明らかになります。
雪でも淳でもない、ある人物の視点から描かれるお話です。
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