![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/f4/301ab23a419d2c755f736ede05b2df52.jpg)
雪は彼の横顔に視線を落としながら、先ほど彼が話したことの意味を考えていた。
被害者意識が過剰で、他人のものを自分のものと勘違いするような人間は、
いつもああいう風になってしまうんだ。より多くのものを持とうとして、本来自分が持っていたものまで失くしてしまう。
結局、他人に対する願望だけを噛み締めながら生きることになるんだ。そんな人達には同情の余地も無いよ
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雪は塗り薬を手に取る彼を眺めながら、彼のその言葉の意味に思いを巡らせた。
彼の言葉には説得力があった。それはやはり、彼の経験に裏付けられた言葉だからだ。
そうだ‥この人って‥
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雪は彼の周りの人達が、普段何気なく口にしている言葉を思い出した。
それ俺も一度はしてみてぇな~。やっぱり金持ちは‥
今日の晩メシ、青田がおごってくれんじゃねーの? えー違ぇの?
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あのブルガリの時計は、母親から贈られた大切な時計だと彼は言っていた。
それを道楽によるコレクションの一つだと、お金持ち故に当然のようにそう見られてしまう現実。
彼が参加する飲み会では、奢られるのが当たり前であるかように振る舞う人達‥。
そして先日、彼の口から聞いた事実も思い出す。
亮とその姉は、俺の家が支援していたんだ
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”支援は当たり前で、ダメならスポンサーのせいという考えさ”、と彼は口にした。
お金を出すことを強制的に前提とされてしまう彼の気持ちが、雪は今自分の心に真っ直ぐ入って来る感じがした。
周りの人々が持つその”当然”の雰囲気‥。
私は清水香織一人だけでも、こんなに憤ってるっていうのに‥
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生まれながらに与えられた、恵まれたその環境。それは他人から見ると羨望や嫉妬の対象でしかない。以前は雪もそうだった。
安定した将来が保証されている彼に、わけもなく隔たりを感じていた。
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けれど我慢を重ねるという苦しみを味わった今、雪は自分と同じ様な‥いやそれよりももっと過酷な我慢を強いられてきた彼に、
自分の感情が重なるような気持ちがした。
先輩も同じ‥
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彼が背負って来た重荷や我慢、その全てを理解することなど出来ない。
けれど雪は彼の抱えるその荷物に、そっと手の平で触れているような気になった。
それはたった一点の、微かな接点であるけれど。
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じっと彼を見ていた雪の方を、淳はいきなりくるりと振り向いた。
彼と目が合った雪は、一瞬ビクリとして目を丸くする。
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淳は雪の方へ体ごと向くと、そのままじっと彼女の瞳を見つめ始めた。
あ‥と小さく出した雪の声が、二人の間を彷徨うように消えて行く。
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雪も目を逸らせなかった。
淳は彼女の方へ手を差し出しかけて、その途中で手を止める。彼女を見つめ続けながら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/45/08cee3aad9fe4a47030e3776339dc64c.jpg)
彼の瞳の中は、深い海の底のように静謐で、幽暗で、けれど何もかも映し出してしまうような、
そんな色を宿していた。その大きな二つの瞳は、瞬きもせず彼女の心の中を見つめ続けている。
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彼のそんな瞳を、雪は何度も目にしたことがあった。
けれどわけもなく恐怖や威圧感を感じた以前とは違い、今雪はその中に見覚えのある何かが揺れるのを見た気がした。
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二人共目を逸らさずに、己の顔を互いの瞳の中に映し続ける。
淳は彼女を見つめ続けながら、静かに口を開いた。
「‥時々、雪ちゃんて俺のことを遠まきに眺めてる」
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「まるで理解出来ないものを見るかのように、何か怖いものから身を引くかのように」
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あの日、柳瀬健太の行く末を想像して嗤っていた自分を、遠巻きに見ていた彼女の姿が思い浮かんだ。
他と隔絶されたその空間の中で向けられる、異質なものを見るかのような彼女のあの視線‥。
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何もかもを見透かすようなその瞳を、
淳は始め嫌悪し、じきに惹かれ、そして今は我知らず恐れている。
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自分は間違っていないと確証する心の片隅で、何かが揺らめくのだ。
まるで静謐な泉に投げられた、小さな一石が起こす波紋のように。
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淳は雪に向かってゆっくりと手を伸ばし、もう一度口を開いた。彼女の顔に優しく触れる。
「だけど今‥」
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「少しだけ君が戻ってきたような気がしたから‥期待しててもいいのかな」
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自分から視線を逸らさなかった彼女の瞳の中に、淳は自分と同じものを見つけた気がした。
それは瞳の中に微かに光る、自分と彼女を繋ぐ微かな接点。
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雪は口を噤んだまま、彼の言葉の意味をまた考えていた。
全てを見透かした上で見出したその接点を、自らと繋ごうと手を差し伸べる彼‥。
淳は幾分哀愁を含んだ表情で、彼女に問い掛ける。
「さっき俺が言った言葉、ひどいと思う?」
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雪はその問い掛けに、無言で首を横に振った。
清水香織のことは、彼の意見と同じだった。
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彼と彼女は、今同じ感情を共有し、互いの目に自分の姿を映している。
淳は彼女の顔に触れながら、
「そっか」と小さく一言口にした。
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彼は優しく彼女の傷口に薬を塗り、またチューブから薬を出して塗って‥を繰り返す。
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それきり何も言わない淳を、雪はじっと眺めている。
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温かな指が優しく傷口を撫でる心地よさに、雪はいつしか目を瞑っていた。
あれだけささくれていた心の中が、徐々に滑らかな表面へと戻って行く‥。
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<接点>でした。
やっと雪ちゃんが先輩の中に共感する点を見出した、という回だったのではないでしょうか。
清水香織との一件はここに帰結するための展開だったのですかね‥。それにしては激しかったですが‥^^;
次回は<性分>です。
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雪ちゃんが香織に対して同情の弁を紡いだとき、いつもの先輩なら黙秘かもっと抽象的な優しい言葉をかけていたんじゃないかな、とふと思いました。君は頑張ったよみたいな…。そうしなかったのって、喧嘩してたのもあったけど、雪ちゃんを丸め込もうとしてるってよりは偽らない自分のストレートな気持ちをぶつけたかったのかなぁ。この回自体は二人の距離が少し縮まりプラスで終わった気がするのですが、Yukkanenさんのいう二人が見つけたこの「共通点」が最終的に決定的に二人を別けてしまう気がして怖いです。
同情の余地のない相手を前に自分が「変わる」か、相手を「変える」か。
二人の距離感にもっともっと切なさを感じた回になりましたー。
私、うれしいです。。。(T_T)雪ちゃんにやっと先輩と波長の合う瞬間が訪れてくれて。
師匠の表現のひとつひとつが、今回はとくに沁みましたー。淳の切なる思いが伝わりかけたことと、雪ちゃんの心のささくれが少しずつ取れていく様子がなんとも……繊細で美しい!泣きそうですっ。
先輩のやったことは荒療治だったと思うし、道具にされた清水香織はかわいそうですが、こうでもしなければ頑なな雪ちゃんの心はほぐれなかったはず。
その部分では、私はやっぱり先輩グッジョブ、と言ってあげたいです。
明日はどんな会話になるのかな。楽しみにしてまっす!
「ヨックシ(やっぱり)」は珍しく「~も同じく」の意味があるので。
さてさて、皆様のご意見ご解釈、面白く拝見致しました!皆様深いな~!
ゆっけドンさん
私もゆっけ丼さんと同じく、「被害者意識云々‥」は亮さんのことを指しているというよりかは、ピアノ君をはじめ、淳に群がる人々のことを指しているような気がします。
そしてそういう類の人間と今回雪ちゃんは初めて出会い、衝突した。その上で先輩が言った言葉に「共感」したんだと思ってます。
そしてゆっけドンさんの仰る、その「共通点」が二人を別けるというご意見、鋭い‥!
私もそんな気がします。結局先輩はそういう人達への共感は全く出来ず、「奪われていく」という自分の被害者意識ばかりが強い人ですもんね。今のところ‥。
それがこの先雪を中心に亮や静香が関与することで変わるのか、変わらないのか‥。楽しみですな‥!
さかなさん
本家版の題名も「接点」ということで、やはり作者さんは雪に先輩との接点を見つけてもらう為に、ここまで清水香織に追い詰められる展開へと話を運んだのではないでしょうかね。
(ここから単なる自分の意見です)
やはり雪が先輩に接点を見出すには深刻な「自分を奪われる」という展開が必要だったんですよ。レポートコピペ事件はそれに持っていくには程度がぬるかったんでしょうな。だからこそ香織はここまでしつこく話に出て来たのでしょう。(でもあの事件にも意味があって、雪が香織に対して「我慢を重ねる」過程の一つとして重要だったのだと思います。あれもまた、この雪VS香織へと続く布石だったんでしょうね。)
いや~全ての事件に意味がある、チートラ恐るべし‥!
先輩は先輩なりに雪ちゃんを楽にさせてあげたくて企んだんですもんね。そこに悪意は無かったと思います。その正誤はどうであれ。。
CitTさん
なんと‥!「ヨックシ」には「カッチ」と同じニュアンスを持つことがあるのですか?!
ということは、ここで雪ちゃんが「彼も私と同じ様に‥」と思ってるってことですね!?
ぎゃー!それは大事!すぐさま修正します!
ありがとうCitTさん!
接点を見つけた二人が、淳が「そっか」の後にもう何も言わないのは、これ以上言葉にしなくても二人が見つめ合った時点で悟ったんだなと思いました。
みなさんほんっと深い~。また次回の記事楽しみです!!
そして話しはかなりとぶのですが、前からずっと気になっていたことがありまして、yukkanenさんにお聞きしたいことがあります!
日本語版Webtoons第17話で横山が「あんなナルシストのどこがいいんだよっ!」て、言ってますが、yukkanenさんの記事では、「みせかけかそうじゃないかもまともに区別出来ないくせに…」と書かれてあるのですが、韓国語を訳すとみせかけ…となったのですか?それとも日本語版がナルシストと勝手に訳したのでしょうか?今回の記事に関係のないことを言って申し訳ないのですが、ずっと木になる木~だったので、よろしければ教えて下さい(ー ー;)ペコリ。
ぎゃー!素敵!
この表現に(*´∀`*)ポッとなりました。hiroさん素敵!
そして横山の台詞のことですが、直訳すると「見せかけかそうでないかも‥」です。「虚飾」という意味の単語が使われています。意訳すると「社交辞令」という意味でも取れる感じですね。「ナルシスト」とはニュアンス違うな~と思うんですが‥。
でもまさかこんな初期で出て来た台詞が3部にまで引っ張られるとは、当初の翻訳さんは思って無かったと思います(笑)
ずっと気になっていたので聞けてよかった~^ ^ とゆうことは、日本語版がナルシストと訳されたとゆーことですね!
ずっと気になっていたので、何か意味があるのかと思い、実はナルシストとゆー意味を調べてみたのです(笑)
するとすごく興味深いことが書いてあったのでチートラには全く関係のないことだとは思うのですが、とりあえずちょい書きます
(長文失礼です…)
ナルシスト=自己愛
幼児期には誰もが持っているもの(第一次自己愛)だそうですが、成長するにつれ誰かを愛するようになると次第に薄れ(第二次自己愛)になるそうです。第二次自己愛に移行するためには、他者を知り、他者を愛することで強い自己愛が程よく薄まり、自己と他者を愛せるようになるそうです。
しかし何らかの理由で第一次自己愛に留まってしまった場合、自分だけを愛し(信じ)、周りの関係を疎外し世界との関係を持たず、結果孤独に満ちる。その何らかの理由とゆうのは、幼児期で育った環境、自分の周りの人の生き様が大きく関係してくるそうです。
とゆーのを見つけて、まさか淳?!
そこまで関係してるの?!と思っちゃいました ^^;
3部まで引っ張ってすいません^^;笑
いやほんと師匠のト書きがあるから理解が深まるんですけどね。
にしてもお互いの孤独と努力が性質が異なるけれど分かりあえた回で、淳良かったね、雪も吐き出すことが大事だったねとか思いますね。
で淳が引き出した事件ですけれど、実は蓮と恵カップルを呼び出しただけですもんね。
あとは結局なるようになっただけでしょ。
これもし清水香織が普通だったら「つい見栄張っちゃって、見かけて男の子との写真隠し撮りしちゃった」って言えばここまでにならんかったでしょうし。痛い女って事実は変わりはしませんが、破滅に落ちる原因を作ったのはやっぱり清水香織自身ですから。
全部雪のせいにしたり、殴りかかったりとか全て自身が起因ですよ。
だからバレルもバレないもないような気がするのは私がジューンに甘いからでしょうか。そもそもご飯おごってって言いだしっぺも蓮ですからねえ。
静香亮姉弟が、お金にだらしなければもっとお亮さんにも気持ちが向くんですけどね。
結局タカってるじゃんていうのが基本的にあってそれでああいう態度とかね、受け入れられないんですよ。
単なる「自分の容姿に自信がある」って意味じゃないんですね!自己愛かぁ‥。確かにそれだと淳にピッタリですね!
それを一部の時点で見抜いていた翻訳の方、そしてその台詞を言った横山、恐るべし‥!!
むくげさん
>破滅に落ちる原因を作ったのはやっぱり清水香織自身
これにシックリです。というか、チートラの登場人物で破滅する人って大概そうですよね。淳に操られるのも、操られるべきところがあるからゆえで。
雪ちゃんはそうやって人を操ること自体が「悪意がある」と見て受け入れられない、正義感が強いタイプみたいですが、時には汚い手を使って物事を処理することも必要なんじゃないか、と三十路の私は思います(笑)