
雪が画面に映したその写真は、淳と静香が腕を組んでいるところを写したそれだった。
雪は淳の顔を直視しないまま、彼に真実を追及する。
「単なる”悪縁の知り合い”や”幼馴染み”という説明じゃなく、
本当のところを聞きたいんです。
彼女宣言されて、わざわざ学校にまで現れて先輩と腕組んで‥。見過ごせって方が無理です」

淳は何も言わず、その場に視線を落としていた。
雪はやはりそんな彼の方を向けないまま、ずっと気になっていたことを続けて口にする。
「その上去年は‥仲良さそうに‥電話してましたよね‥。
覚えてるんです‥あの時出くわしたから‥」

雪はどんよりした雰囲気でそう言った。
それを聞いた淳は、覚悟を決めたように一つ息を吐く。

淳は顔を上げると、雪に向かって話し始めた。
かつての幼馴染みであり、今は悪縁の仲のその人の話を。
「聞いて。雪ちゃん、君には俺と静香の関係は理解し難いかもしれないけど‥。
俺には兄弟もいなかったし、静香とは性格も話をするのも、意外に一度もぶつかることが無くて、良い関係だったんだ。
それで俺にとって静香は、友達の姉以上の存在だった。少なくとも、高校の時までは‥」

「けど結局、胸の内は違った」と淳は続けた。その答えに雪が問う。
「どういうことですか?」

淳の脳裏に、静香の姿が浮かんだ。
高級ブランドを身に纏い口元に笑みを湛える、獰猛で美しいその獣の姿が。
「静香にとって俺はただの金づるで、俺にとって静香は、金目当てで周りをウロチョロする奴らと大して変わらない。
いつだって自分が困ったときは何でもしようとするけど、余裕が出来ればすぐに手の平を返して、俺の揚げ足を取って父にチクる」

淳は沈んだ色を帯びた瞳をしながら、冷めた口調でこう言った。
「今までずっとそんな感じ」

淳は淡々と話を続ける。
「無闇に拒否しようとすれば、すぐに父に告げ口するから‥。
正直、静香が何かをやらかしたとしても、俺に拒絶権は無いんだ。
そうなると俺も、静香が確実に助けになる時は断る理由がないだろう。断ったら被害を被るし」

自分が静香を丁重に扱う理由を、淳は雪に説明した。
去年雪が目にした電話をしている場面も、そういった理由の元でだったのだと‥。

黙って聞く雪に、淳は続けてあの写真のことを説明する。
「その写真も、その時の状況とタイミングで撮られたんだろう。誤解しないで。
どうせ状況を撹乱する為に悪意の元に撮られた写真ってだけさ。それに静香は、他の理由で学校に出入りしてるし」

そして淳は口を噤んだ。
雪は話し終えた淳を真っ直ぐに見つめながら、小さく頷く。
「はい‥」

雪の返事を聞いた淳は黙り込み、彼の前で雪もまた沈黙した。
しんとした空気が、二人の間に張り詰める。

テーブルに置かれたマグカップに目を落としながら、
雪は心の中が徐々に騒ぎ出すのを感じた。
本当に‥?

瞼の裏に、以前静香と共にテーブルを共にした時のことが浮かんで来る。
直接的な言葉こそ無かったが、あの時感じた彼女から自分へ発せられるあの嫌悪感‥。
あの人にとって先輩は、本当に金づるってだけだろうか‥?私にはどうしてもー‥

雪は疑心のこもった視線を上に上げ、チラリと彼の方を見た。
すると彼もまた、雪のことをじっと見つめている。

雪はピンを刺された虫のように、その場に動けなくなった。
目を見開いたまま、ただ沈黙する。

淳の視線はまるで針のように鋭く、雪の視線を捕らえて離さない。
長い前髪の合間から、深く蒼がかったその瞳が見える。

雪はやはり視線を外せない。
彼は瞬きもしないで、彼女のことを凝視するー‥。


その緊迫した空気に耐えられなくなり、遂に雪は彼の瞳から視線を外した。
俯きながら、鼓動をズクズクと早めながら。

「あ‥それと‥」と、雪がもう一度口を開きかけた時だった。
彼の大きな手が、その長い指が、彼女の耳元の髪に掛かる。

突然彼から触れられて、雪は赤面しながらその場で固まった。
しかし淳はそんな雪のリアクションなど気に留めず、続けて雪にこう問う。
「それより大丈夫だった?」

そして彼の質問の核心部分に触れた時、雪の表情が固まった。
「福井から聞いたよ。昨日横山が酷かったって」

見ないふりをしていた心の傷に、不意に彼が手を触れて来た。
雪はピクリとそれに反応する。

しかし淳は彼女の異変に気づかず、その話題を続ける。
「特に何も無かったって言うから良かったけど」

そして雪は小さくこう口にした。
「それなら、連絡くれるべきでしょう‥?」と。

その雪の言葉に、淳は目を丸くした。
雪を見ると、彼女は不満気な表情で俯いている‥。

心に満ちたその気持ちが、ほつれたその場所から零れ出ていた。
雪は感情のうねりにまかせて、彼に向かって口を開く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<対面(2)ー静香の話ー>でした。
昨日に引き続きまた雪ちゃんに厳し目ですいませんが‥。
静香のことですが、雪ちゃんは結局先輩の口からどういった言葉が出れば納得するんでしょうかね‥。
「本当のこと」が聞きたいというのは分かりますが‥う~ん‥といった感じです。
まぁ~それでも淳も雪に対しての秘密が多すぎますわね‥。結局静香との取引のことはおくびにも出さずでしたし。
前回と今回の二人の<対面>は、まだ心の表面をなぞっているだけですね。。
次回は<対面(3)ー昨夜の話ー>です。
人気ブログランキングに参加しました



実はこここんがらがってたんです‥^^;
ありがとうございます~!修正しておきます!
またコメントさせていただきます。
自分本意な雪ちゃんの回ですが、あの雪ちゃんがこんな発言出来るようになったのに、成長したな~って気もしつつ、遠回しなワガママには変わりないか……と思います(笑)
全く関係無いのですが『対面~彼のコレクション』というカテゴリ名に、雪ちゃんが先輩と話つけて、先輩の心の中を知るのかな?もしかして先輩は人をコレクションしてるの!?と突拍子もないことを思ってしまい……。
冷静になると、コレクションって時計のことか!と一人で合点がいきました(笑)
これは昨日の記事の方になりますが、以前師匠も言及されていたように、二人の和解に関してはなぜ亮さんより先輩にばかり求めるのか…立場上2人に仲良くしてほしい気持ちはわかりますが。
確執は根深そうだし詳細は教えてもらえないし、為す術なしなのかもしれませんが、そんな状態で和解してほしいって無理があるような。また雪ちゃんのまじめさゆえかなーという気もしますが、中立スタンスで話をされると、ちょっと反発じゃないけれど、面倒かな、私なら…。理解しよう、寄り添おうというのが伝わってくる相手ならまだしも、ほっといてー、と思ってしまう。
静香の話も相変わらず突っ込まずに止まってしまうし、会話がツルンツルン滑っていくもどかしさ。
明日からの突っ込んだ会話に期待します!
Yukkanen さんが仰る、雪ちゃんへの憤りわかります~!ただいかんせん、雪ちゃんは恋愛ドドド素人だしなぁーとも思います。
その、鋭すぎる嗅覚ゆえに先輩と静香嬢がお互い友達以上に思っていた…と何となくわかってる。そんでもって、勉強だけだった自分と違って女として(表面だけだけど)自分を磨いてきて、恋愛経験も豊富だろう静香に雪ちゃん割りと劣等感ありますよね。自分に向けられる敵意に対する嫌悪感や困惑と同じくらい、静香嬢が魅力的に映っているんだと思います。
嫌悪と憧憬の関係は、淳→亮さんの関係と似ている気もしますが、淳と亮さんは"過去"があるぶん内容の重みが全く違いますね…。
先輩からどんな返事が返ってくれば満足なのかは、質問している自分にもわからないんじゃないでしょうか。むしろこの質問があって、雪ちゃんの先輩に対する前より強い気持ちを感じてしまいました~横山の事より太一のことより何より先に静香のこと質問しちゃうあたりも、見つめ返されて居たたまれなくて目をそらしてしまうのも、恋する乙女って感じで!
でもとりあえず先輩が語らなすぎなのは間違いないですよね。笑
明日以降の怒涛の話し合いの内容が楽しみですー♪
私も最初この雪ちゃんの台詞を読んで、雪ちゃんが一体どうしたいのかさっぱりわからなかったんですが、読めば読むほど、なんだ嫉妬してんのか‥と思うようになりました。
先輩は雪に疑われてるというところに対しての弁解を淡々としてますが、ここはどれだけ自分が雪のことを好きでどれだけ特別なのかを伝えた方が雪ちゃんは安心するのかなと思ったり。
そのへんのズレの居心地悪さみたいなものが、よく出てるなぁと思いました。
「亮さんを助けたい」と面と向かって言った雪ちゃん‥。これで先輩が「そうだよね!俺、亮に歩み寄ってみるよ!」はあり得ないと思います‥私も^^;
人間的には亮の方が柔軟力あるし、そっちに言う方が効果ありそうと思うんですが‥どうなんでしょうね‥。
ゆっけ丼さん
友達の姉以上の存在!そして二人は‥ダダーン!の説をまだ唱えていますYukkanenです。笑
そしてゆっけ丼さんが仰るように、雪ちゃんには静香が魅力的に見えてしょうがないんでしょうな!なんといっても巨乳‥笑
でも「嫉妬してる」と言えないのは、雪も淳も同じですね。この二人、実は恋愛ド素人同士だったりして‥。