あの時もそうだった。
影響を受け止めきれずに、感情がガチガチに閉じ込められて‥
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学祭準備の設営チームとして働いて来た雪を待っていたのは、雑然とした実家のリビングだった。
床には様々なものが散らかっている。
「あ‥お母さん同窓会か‥」
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母が不在‥ということは、ここは自分がやるしかない。
雪はコートを脱ぎ、髪の毛を結ぶと、早速部屋の片付けを始めた。
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しかしなんだか既視感である。
さっきも同じようなことしたような‥??
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設営チームでも掃除して、そして休もうと思って帰って来た家でもまた掃除‥。
雪は首を傾げつつ、片付いた床に掃除機を掛けた。
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すると不意にドアが開き、父親が部屋に入って来た。
雪は掃除機のスイッチを切ると、父の元へと歩み寄る。
「あ、お父さん。おかえり」「あぁ」

入室して来た時の父の表情から、仕事が上手く行ってない顔だな、と雪は感じ取った。
父はどことなく不機嫌そうに、リビングを見回す。
「お、掃除したのか?わしが出てく時はとっ散らかってたが」
「うん」

片付けたことに父が気づいてくれたので、雪は嬉しくなり、口調が弾んだ。
「ついでにリビングも今‥」
「この際蓮の部屋もやりなさい。ゴミ溜めみたいになってただろう」

しかし父は雪の方を見ることなく、背を向けて娘に指示を出す。
「いくら部屋の主が不在だとしてもな」
「う、うん‥しようとしたんだけど‥」

雪がそう言った時、再び腹部に痛みが走った。
ズキン、と内蔵に響く鈍い痛み。
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しかし父はそんな娘の様子に気づかずに、その気遣いを長男にばかり向ける。
「それにほら‥ビタミンCかなんかも送ってやれ。
勉強が大変で、自分の身体に構う余裕もなかなか持てんかもしれんからな。
なんと言っても身体が資本だ」
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散々押し付けられるその重圧。それを再び父は娘に向けた。
雪はしっかりしているからと、父が持ち続けるその過信を。
「お前は姉さんなんだから、プレゼントとして送ってやんなさい」
「はい‥」
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お腹が痛い。その重さを感じれば感じるほど。
「そうするね‥」
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けれど雪はその痛みを逃さずに、そのまま自分の中に抱え込んだ。
ズキズキズキズキと、鈍い痛みがいつまでもお腹の中に響く。
敏感になってる時は、些細なことにも過剰に反応する。
大丈夫。こんなことは慣れっこじゃないか。
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‥と、思っていた
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心と身体は繋がっているはずなのに、時に心は身体の限界を超えて物事を受け入れてしまう。
そしてこの時の雪も、実はもうとっくに限界点を超えていたー‥。
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しかしそうとは気づかない雪は、今日も真面目に授業を受け、きっちりとノートを取っていた。
それでもどこか心は浮ついて、そんな自分を意識的に正す。
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ふと、周りを見回してみた。
目に入ってくるのは、授業中だというのにおしゃべりをする学生達、
いつもより空席が目立つ教室内、ふざけあって落書きを楽しむ女学生達‥。
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雪は鋭い観察眼でそれを考察する。
明日学祭だから、皆ソワソワしてるな。
でも来週は小テスト‥
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そう思い、雪は一層教授の話に耳を傾けた。
だから気付かなかったのだ。
離れた席に座る彼が、いつもよりぼんやりしていることに。
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青田淳は優れない表情で、ふぅと息を吐いた。
目の下に翳る隈。
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けれど誰もそれに気づく者はいない。
淡々と授業は進んで行く。
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授業が終わり、皆教室を後にした。
経営学科の皆を引き連れて、柳瀬健太がテンション高く声を上げる。
「終わったー!空講の奴ら、先に行ってよーぜ!」「はい」
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淳が笑顔で返事をし、健太に続いて学生達はバーへと向かう。
「俺らも早く準備手伝いにいこーぜ!
早くやりゃ早く終る!俺ってば今日授業ない日だったけど、先輩だから大学来てやったんだぜぇ!」
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「ポスターって店にあんの?」
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雪は皆のガヤガヤに紛れて、行くか行かまいか迷っていた。
もしかしたら行かなくてもいいかも‥と天秤が傾く中、青田淳が振り返りこう聞いて来た。
「行かないの?」

まるで心の中を見透かされたかのようなタイミング。
結局雪は帰ることが出来ずに、皆の後に付いていくしかなくなった。
「‥‥‥」

下を向いて歩く雪。すると不意に前方から声を掛けられた。
「友達は?」「え?」
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淳の質問に思わずビクッとする雪。
何を聞かれているのか一瞬分からなかったが、聡美と太一のことだということを察して、
おずおずと答えを口にする。
「あ‥二人共連続講義とアルバイトがあるとかで‥しかも風邪で‥」
「ふーん」
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淳は適当な相槌を打つと、すぐに雪から顔を背けた。
そんな彼のリアクションを見て、頭の中がまたゴチャゴチャと考え出す。
?何だ‥?どうしてまたわざわざ話し掛けて来るんだ‥?
二人が来ない不満を私にぶつけてるってこと?てかあの二人ワザと休んでるわけじゃないから!

彼の言動一つ一つに振り回されて、その言葉の意味を深読みして‥。
なにしろ青田淳という人間は、何を考えているのか全く読めない。
彼に関わると、頭の中がノイズでいっぱいだ。
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モヤモヤと考え込む雪。
彼女の方を振り返った淳は、そんな雪を見て疑問符を浮かべた。
どうしていつも彼女は、あんなにも敏感に反応するんだろう‥。
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雪を気にする淳と、何も気にしないようにしてその後ろを歩く雪。
二人の距離は、こんなにもまだ離れている‥。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>過信 でした。
さて再び過去に戻ってまいりました。
今の状態から考えると、本当この頃の赤山家は表面的なやりとりばっかりしてる気がしますよね~。
二時間強掛けて大学から帰って来て掃除する娘に労りの言葉もない‥お父さん‥(T T)
さて次回は<雪と淳>不機嫌 です。
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影響を受け止めきれずに、感情がガチガチに閉じ込められて‥
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学祭準備の設営チームとして働いて来た雪を待っていたのは、雑然とした実家のリビングだった。
床には様々なものが散らかっている。
「あ‥お母さん同窓会か‥」
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母が不在‥ということは、ここは自分がやるしかない。
雪はコートを脱ぎ、髪の毛を結ぶと、早速部屋の片付けを始めた。
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しかしなんだか既視感である。
さっきも同じようなことしたような‥??
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設営チームでも掃除して、そして休もうと思って帰って来た家でもまた掃除‥。
雪は首を傾げつつ、片付いた床に掃除機を掛けた。
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すると不意にドアが開き、父親が部屋に入って来た。
雪は掃除機のスイッチを切ると、父の元へと歩み寄る。
「あ、お父さん。おかえり」「あぁ」
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入室して来た時の父の表情から、仕事が上手く行ってない顔だな、と雪は感じ取った。
父はどことなく不機嫌そうに、リビングを見回す。
「お、掃除したのか?わしが出てく時はとっ散らかってたが」
「うん」
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片付けたことに父が気づいてくれたので、雪は嬉しくなり、口調が弾んだ。
「ついでにリビングも今‥」
「この際蓮の部屋もやりなさい。ゴミ溜めみたいになってただろう」
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しかし父は雪の方を見ることなく、背を向けて娘に指示を出す。
「いくら部屋の主が不在だとしてもな」
「う、うん‥しようとしたんだけど‥」
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雪がそう言った時、再び腹部に痛みが走った。
ズキン、と内蔵に響く鈍い痛み。
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しかし父はそんな娘の様子に気づかずに、その気遣いを長男にばかり向ける。
「それにほら‥ビタミンCかなんかも送ってやれ。
勉強が大変で、自分の身体に構う余裕もなかなか持てんかもしれんからな。
なんと言っても身体が資本だ」
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散々押し付けられるその重圧。それを再び父は娘に向けた。
雪はしっかりしているからと、父が持ち続けるその過信を。
「お前は姉さんなんだから、プレゼントとして送ってやんなさい」
「はい‥」
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お腹が痛い。その重さを感じれば感じるほど。
「そうするね‥」
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けれど雪はその痛みを逃さずに、そのまま自分の中に抱え込んだ。
ズキズキズキズキと、鈍い痛みがいつまでもお腹の中に響く。
敏感になってる時は、些細なことにも過剰に反応する。
大丈夫。こんなことは慣れっこじゃないか。
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‥と、思っていた
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心と身体は繋がっているはずなのに、時に心は身体の限界を超えて物事を受け入れてしまう。
そしてこの時の雪も、実はもうとっくに限界点を超えていたー‥。
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しかしそうとは気づかない雪は、今日も真面目に授業を受け、きっちりとノートを取っていた。
それでもどこか心は浮ついて、そんな自分を意識的に正す。
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ふと、周りを見回してみた。
目に入ってくるのは、授業中だというのにおしゃべりをする学生達、
いつもより空席が目立つ教室内、ふざけあって落書きを楽しむ女学生達‥。
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雪は鋭い観察眼でそれを考察する。
明日学祭だから、皆ソワソワしてるな。
でも来週は小テスト‥
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そう思い、雪は一層教授の話に耳を傾けた。
だから気付かなかったのだ。
離れた席に座る彼が、いつもよりぼんやりしていることに。
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青田淳は優れない表情で、ふぅと息を吐いた。
目の下に翳る隈。
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けれど誰もそれに気づく者はいない。
淡々と授業は進んで行く。
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授業が終わり、皆教室を後にした。
経営学科の皆を引き連れて、柳瀬健太がテンション高く声を上げる。
「終わったー!空講の奴ら、先に行ってよーぜ!」「はい」
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淳が笑顔で返事をし、健太に続いて学生達はバーへと向かう。
「俺らも早く準備手伝いにいこーぜ!
早くやりゃ早く終る!俺ってば今日授業ない日だったけど、先輩だから大学来てやったんだぜぇ!」
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「ポスターって店にあんの?」
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雪は皆のガヤガヤに紛れて、行くか行かまいか迷っていた。
もしかしたら行かなくてもいいかも‥と天秤が傾く中、青田淳が振り返りこう聞いて来た。
「行かないの?」
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まるで心の中を見透かされたかのようなタイミング。
結局雪は帰ることが出来ずに、皆の後に付いていくしかなくなった。
「‥‥‥」
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下を向いて歩く雪。すると不意に前方から声を掛けられた。
「友達は?」「え?」
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淳の質問に思わずビクッとする雪。
何を聞かれているのか一瞬分からなかったが、聡美と太一のことだということを察して、
おずおずと答えを口にする。
「あ‥二人共連続講義とアルバイトがあるとかで‥しかも風邪で‥」
「ふーん」
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淳は適当な相槌を打つと、すぐに雪から顔を背けた。
そんな彼のリアクションを見て、頭の中がまたゴチャゴチャと考え出す。
?何だ‥?どうしてまたわざわざ話し掛けて来るんだ‥?
二人が来ない不満を私にぶつけてるってこと?てかあの二人ワザと休んでるわけじゃないから!
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彼の言動一つ一つに振り回されて、その言葉の意味を深読みして‥。
なにしろ青田淳という人間は、何を考えているのか全く読めない。
彼に関わると、頭の中がノイズでいっぱいだ。
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モヤモヤと考え込む雪。
彼女の方を振り返った淳は、そんな雪を見て疑問符を浮かべた。
どうしていつも彼女は、あんなにも敏感に反応するんだろう‥。
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雪を気にする淳と、何も気にしないようにしてその後ろを歩く雪。
二人の距離は、こんなにもまだ離れている‥。
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<雪と淳>過信 でした。
さて再び過去に戻ってまいりました。
今の状態から考えると、本当この頃の赤山家は表面的なやりとりばっかりしてる気がしますよね~。
二時間強掛けて大学から帰って来て掃除する娘に労りの言葉もない‥お父さん‥(T T)
さて次回は<雪と淳>不機嫌 です。
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それだけ気になるなんざ
もうこの時無意識に好きですよね?
ううーこの無神経モラハラおやじからなぜこんないい娘がうまれたんだ!
ただでさえ家も遠いのによく家に帰ってきたなーここまで長男ありきの態度取られたら
男とかなんかに頼って家出してしまうのがフツーのグレる展開ですよ
出来ない子こそ可愛いとかではなく単純に長男教なんだなー
そしてアオータに対する過敏な反応
今日の態度そこまでじゃないですよね
穿ち過ぎます
雪ちゃんもまた、必要以上の過敏さなんですよね 生き辛い
鈍感力という言葉が流行りましたが言い得て妙だとオバサンは近頃納得します
健太とかもそうですよね
授業ないのに大学きたって・・・・(笑)
取ってない授業出たのか?それなら先に言って準備してればいいのに。
仕切る事も、独りで地道な作業もできない小物だって知っているけど(・~・)
「二人が来なかったからって私に何かいってるのか?」
ここでの「何かを言う」は「文句を言う」、「不満を言う」っぽいニュアンスが少しあります。
毎日yukkanenさんのチートラ楽しく読ませて頂いてます、ライン漫画から作品にハマりこのサイトまでたどり着いたのですが。
今はこのサイトの解釈や表現じゃなければいまいち物足りません。
今後も陰ながらyukkanenのかつどうを応援させて頂きます。
淳の後頭部にはきっと目があるのですよ!
裏目の息子には後ろ目が‥!
むくげさん
雪ちゃん‥グレたらグレたで特攻服が良く似合いそうですね‥。
鈍感力か‥。物事を考え過ぎない、というのも幸せを辿る一つの道だと思いますよね‥。
和花さん
健太の台詞は直訳だと「俺も今日大学来ない日だったけど‥」なのです。
大学来ない=授業無い日なのかな~と思ってそう訳したんですけど(後の文章に「大学来てやった」とあるので、「大学」が被らない訳にしたのです)、もしかしたら本来は授業あるんだけど、サボって来てないってだけなのかも‥ですね(^^;)健太め‥。
CitTさん
ほほ~!ここの「何か言う」は「不満を言う」ニュアンスがあるんですか。勉強になります。いつもありがとうございます^^
8!0さん
はじめまして。コメントありがとうございます^^
拙い訳文ですが、楽しんで頂けているみたいで嬉しいです。頑張って更新しますので、またコメント残して行かれて下さいね。
yukkanen様の翻訳に?ではないのですU+203C
すみません(ToT)
健太は本来授業を取っていたけど、サボるつもりだった。でもやっぱり(誰にも相手にされず)学校きちゃって皆がいるからなんとなく授業でたので「終わった」「今日来ない~」発言だったのかと思ったのです。
健太のいい加減さや虚栄心がよく出ているなと。で、やっぱりウザいなと(笑)
yukkanen様も翻訳に悩まれたのですね。
健太め!休学ノートに名前を書かれてしまえU+203C
でも健太ごときに頭を悩ませること自体が嫌ですよね‥笑
先輩!早く!休学ノートを!