昨夜は眠れなかった。
夜通し先輩に電話したのに出てもらえず、一人悶々としながら色々なことを考えていた。
やっと来た先輩からのメールは、”今日大学で会おう”というそっけない一通だけ。
雪は暗鬱たる気分で、待ち合わせ場所に向かった。
そして今そのことを、電話で聡美に相談しているところだった。
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一部始終を打ち明け終わると、まず聡美は驚きの声を上げた。
青田先輩の態度についての驚きだった。
「信じらんない!あの青田先輩が~?!想像つかないよ。超~~頭に来たんじゃない?!」
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聡美の驚き様に、雪はやはりとんでもないことをしてしまったのだと思い知らされ、もう一度落ち込んだ。
聡美が言葉を続ける。
「にしても、それはあたしでもムカつくわ!あんたが悪い、あんたが!
いくら同じ塾だからって、そんなことになったら二股だと思われてもしょうがないって!」
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雪は俯いて手で顔を覆った。やはり客観的に見てもそうなのか‥。
しかし腑に落ちない点も幾つかあって、雪はそれも聡美に打ち明けた。
「そうだよね、私が間違ってた。でもだからって事情も聞かずに行っちゃうだなんて‥。
メールでも何回も謝ったのに‥」

それに対して、聡美はとにかく謝れと無条件の謝罪を勧めてきた。
あのいつも穏やかに見える青田先輩がそこまで怒っているなんて非常事態で、
とにかく自分が間違ってましたの一点張りで行けと、彼女のアドバイスは締めくくられた。
雪はその言葉の後で、明日の塾の同窓会には先輩は連れて行けない旨を伝え、聡美に謝った。
聡美は気にしないでと言って励ましてくれる。
ちゃんと仲直りするんだよ、と続けて言ってくれたが、雪の心は重たいままだ。
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経過報告よろしく、と行って聡美は電話を切った。家へ向かうバスが来たから、と言って。
電話を切ってから、雪は重い心を抱えて俯いた。
昨日の先輩の姿が浮かんでくる。
本当に怖いくらい怒ってたな‥
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自分を責める心と、弁解しようとしたのに聞いてくれない彼を責めたい気持ちで、頭の中はグチャグチャだ。
そしてそれ以上に、自分だけが空回りしているような状況に心が沈む。
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雪が俯いていると、いきなり声を掛けられた。
「雪ちゃん」
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いつの間にこんなに近くにいたのかと、雪は驚きながら立ち上がった。
髪を直して、スカートの裾を正して、先輩の方へ向き直る。
「こんにちは、私も今来たところです。今日はいい天気ですね?」
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雪は今日、この間聡美と選んだワンピースを着てきた。
いつものファッションからしたら、スカート自体慣れないし裾も短い。
雪にとっては冒険だった。
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変かな‥と思いながら雪は微かな微笑みを浮かべた。一応彼女なりに精一杯着飾ってきたつもりだった。
しかし先輩は素っ気ない。「行こう」と一言行ったきり、さっさと車に乗り込んでしまう。
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雪は気まずい空気に当惑しながら、彼に従って車に乗り込んだ。
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車がエンジンの音を上げて走り出しても、車内の空気は冷え切っていた。
先輩は前を向いて運転したまま、一度も雪の方を見ようともしない。
「あの‥先輩‥」

雪が若干身を乗り出して話しかけても、先輩は短い返事だけで彼女の方を見なかった。
雪はそんな彼の態度を受けて、再び当惑し俯いた。
すごい怒ってる‥。とにかく謝らなくちゃ。まずは無条件に謝罪だ‥
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雪は聡美に言われた通り、まずは平謝りすることにした。他にこの状況の打開策も思い浮かばない。
一つ大きく息を吐くと、雪は真剣な口調で切り出した。
「先輩、すみませんでした。私が間違ってました」
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雪は真っ直ぐに彼の方を見て謝った。
しかし彼はまだ、雪の方を見ようとしない。その横顔は、凍て付いた面のまま動かなかった。
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これ以上、どうすればいいのだろう。
雪が再び俯き、途方に暮れようとした時だった。
先輩がようやく口を開き、短い質問をする。依然として前を向いたまま。
「亮とは、どうして?」
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どうやって知り合ったのか、どうして一緒に居たのか、
その質問はいくつかの答えが当てはまったが、雪はまず弁解をする。
「意図的に会ってたんじゃないんです。ただ偶然‥塾が同じで知るようになって‥」
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彼は雪の弁解を途中で遮るように、口を開いた。取り付く島もない口調で。
「アイツに関わるなって、そう言ったはずだけど」
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彼の横顔は冷淡なそれで、口調はこの上なく冷たい。
雪はその静かなる怒りに身をすくめ、もう一度謝った。両の拳を膝の上でぎゅっと握りしめて。

昨夜、亮に送られて帰って来た時遭遇した彼の、驚いた表情が思い浮かぶ。
家の前まで彼氏以外の男を連れて来た‥
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この事実一つだけでも、私が間違っていたことは明白だ。
雪は俯き続けながら、自分にある非を噛み締めていた。
正直戸惑いはあるし、何より申し訳なくて‥どうしていいか分からない
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そんな雪に、先輩は静かに言葉を続ける。
「それにアイツに会ったなら、すぐに俺に話すべきだっただろ」

確かに何度か、先輩から”変わったこと”はないかと聞かれていた。
しかし雪は亮のことを言わなかった。けれどそれは、意識的に言わなかったのだ。
雪の心が彼の言葉に反感を覚える。
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勿論何も言わなかったのは私が間違ってた‥。
でもそれも、先輩が気にするかと思ってのことだったのに‥
ここから、無条件に謝罪するという方法を、雪は少し変える。
沈黙を破ったのは、彼に向かって投げた質問だ。
「あの‥河村さん‥とは‥あの人とは一体どういう‥」

しかし雪の質問は、またしても彼に遮られた。
いや、正確には否定された。
「今それ重要?」

彼は言葉を続けた。
彼女の気持ちや隠された気遣いなど問答無用な、その冷徹な命令を。
「俺の言う通り、もうアイツには関わるな」
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彼の中に、我を張る子供と高圧的な父親の両面が共存する。
しかしそんな彼の外面からは、その二面的な内面は窺うことが出来ない。
雪はその言葉の前に、思わず固まった。
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聡美が言っていた”無条件に謝罪する”という言葉が浮かぶ。
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しかし、逆に今雪が彼から向けられたのは、”無条件に我に従え”という命令だった。
「はい‥すいませ‥」

謝罪の言葉尻が窄む。冷たい汗が、頬を伝う。
声や語り口が、この上なく冷たい
心の中に、白い靄が立ち込めていく。
雪は視線を流し、彼の横顔をそっと窺い見た。
でも‥

どこか見慣れた姿
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すでに知っている姿
その冷淡に見える横顔には、見覚えがある。
その冷たい口調も、底冷えするような威圧感も。
でも、と雪は思う。
膝の上に置かれた拳に、力が入っていく。
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‥でも私だって、言いたいことが沢山ある。
雪の脳裏に、去年の忌むべき記憶が次々と思い浮かんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<無条件に>でした。
ちょっと中途半端なところですが、次回に続きます~。
雪のワンピ姿は貴重!合コン以来のスカートではないでしょうか。
さて今回の先輩のセリフ。
雪の「河村さん‥とは一体どういう」の後の「今それが重要?」。本家版に忠実に訳すとこう。
日本語版は、「そんなことはどうだっていい」←コレにしびれました。うまいな~~!
次回は<吐露>です。
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夜通し先輩に電話したのに出てもらえず、一人悶々としながら色々なことを考えていた。
やっと来た先輩からのメールは、”今日大学で会おう”というそっけない一通だけ。
雪は暗鬱たる気分で、待ち合わせ場所に向かった。
そして今そのことを、電話で聡美に相談しているところだった。
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一部始終を打ち明け終わると、まず聡美は驚きの声を上げた。
青田先輩の態度についての驚きだった。
「信じらんない!あの青田先輩が~?!想像つかないよ。超~~頭に来たんじゃない?!」
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聡美の驚き様に、雪はやはりとんでもないことをしてしまったのだと思い知らされ、もう一度落ち込んだ。
聡美が言葉を続ける。
「にしても、それはあたしでもムカつくわ!あんたが悪い、あんたが!
いくら同じ塾だからって、そんなことになったら二股だと思われてもしょうがないって!」
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雪は俯いて手で顔を覆った。やはり客観的に見てもそうなのか‥。
しかし腑に落ちない点も幾つかあって、雪はそれも聡美に打ち明けた。
「そうだよね、私が間違ってた。でもだからって事情も聞かずに行っちゃうだなんて‥。
メールでも何回も謝ったのに‥」
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それに対して、聡美はとにかく謝れと無条件の謝罪を勧めてきた。
あのいつも穏やかに見える青田先輩がそこまで怒っているなんて非常事態で、
とにかく自分が間違ってましたの一点張りで行けと、彼女のアドバイスは締めくくられた。
雪はその言葉の後で、明日の塾の同窓会には先輩は連れて行けない旨を伝え、聡美に謝った。
聡美は気にしないでと言って励ましてくれる。
ちゃんと仲直りするんだよ、と続けて言ってくれたが、雪の心は重たいままだ。
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経過報告よろしく、と行って聡美は電話を切った。家へ向かうバスが来たから、と言って。
電話を切ってから、雪は重い心を抱えて俯いた。
昨日の先輩の姿が浮かんでくる。
本当に怖いくらい怒ってたな‥
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自分を責める心と、弁解しようとしたのに聞いてくれない彼を責めたい気持ちで、頭の中はグチャグチャだ。
そしてそれ以上に、自分だけが空回りしているような状況に心が沈む。
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雪が俯いていると、いきなり声を掛けられた。
「雪ちゃん」
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いつの間にこんなに近くにいたのかと、雪は驚きながら立ち上がった。
髪を直して、スカートの裾を正して、先輩の方へ向き直る。
「こんにちは、私も今来たところです。今日はいい天気ですね?」
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雪は今日、この間聡美と選んだワンピースを着てきた。
いつものファッションからしたら、スカート自体慣れないし裾も短い。
雪にとっては冒険だった。
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しかし先輩は素っ気ない。「行こう」と一言行ったきり、さっさと車に乗り込んでしまう。
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雪は気まずい空気に当惑しながら、彼に従って車に乗り込んだ。
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車がエンジンの音を上げて走り出しても、車内の空気は冷え切っていた。
先輩は前を向いて運転したまま、一度も雪の方を見ようともしない。
「あの‥先輩‥」
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雪が若干身を乗り出して話しかけても、先輩は短い返事だけで彼女の方を見なかった。
雪はそんな彼の態度を受けて、再び当惑し俯いた。
すごい怒ってる‥。とにかく謝らなくちゃ。まずは無条件に謝罪だ‥
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雪は聡美に言われた通り、まずは平謝りすることにした。他にこの状況の打開策も思い浮かばない。
一つ大きく息を吐くと、雪は真剣な口調で切り出した。
「先輩、すみませんでした。私が間違ってました」
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雪は真っ直ぐに彼の方を見て謝った。
しかし彼はまだ、雪の方を見ようとしない。その横顔は、凍て付いた面のまま動かなかった。
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これ以上、どうすればいいのだろう。
雪が再び俯き、途方に暮れようとした時だった。
先輩がようやく口を開き、短い質問をする。依然として前を向いたまま。
「亮とは、どうして?」
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どうやって知り合ったのか、どうして一緒に居たのか、
その質問はいくつかの答えが当てはまったが、雪はまず弁解をする。
「意図的に会ってたんじゃないんです。ただ偶然‥塾が同じで知るようになって‥」
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彼は雪の弁解を途中で遮るように、口を開いた。取り付く島もない口調で。
「アイツに関わるなって、そう言ったはずだけど」
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彼の横顔は冷淡なそれで、口調はこの上なく冷たい。
雪はその静かなる怒りに身をすくめ、もう一度謝った。両の拳を膝の上でぎゅっと握りしめて。
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昨夜、亮に送られて帰って来た時遭遇した彼の、驚いた表情が思い浮かぶ。
家の前まで彼氏以外の男を連れて来た‥
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この事実一つだけでも、私が間違っていたことは明白だ。
雪は俯き続けながら、自分にある非を噛み締めていた。
正直戸惑いはあるし、何より申し訳なくて‥どうしていいか分からない
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そんな雪に、先輩は静かに言葉を続ける。
「それにアイツに会ったなら、すぐに俺に話すべきだっただろ」
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確かに何度か、先輩から”変わったこと”はないかと聞かれていた。
しかし雪は亮のことを言わなかった。けれどそれは、意識的に言わなかったのだ。
雪の心が彼の言葉に反感を覚える。
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勿論何も言わなかったのは私が間違ってた‥。
でもそれも、先輩が気にするかと思ってのことだったのに‥
ここから、無条件に謝罪するという方法を、雪は少し変える。
沈黙を破ったのは、彼に向かって投げた質問だ。
「あの‥河村さん‥とは‥あの人とは一体どういう‥」
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しかし雪の質問は、またしても彼に遮られた。
いや、正確には否定された。
「今それ重要?」
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彼は言葉を続けた。
彼女の気持ちや隠された気遣いなど問答無用な、その冷徹な命令を。
「俺の言う通り、もうアイツには関わるな」
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彼の中に、我を張る子供と高圧的な父親の両面が共存する。
しかしそんな彼の外面からは、その二面的な内面は窺うことが出来ない。
雪はその言葉の前に、思わず固まった。
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聡美が言っていた”無条件に謝罪する”という言葉が浮かぶ。
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しかし、逆に今雪が彼から向けられたのは、”無条件に我に従え”という命令だった。
「はい‥すいませ‥」
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謝罪の言葉尻が窄む。冷たい汗が、頬を伝う。
声や語り口が、この上なく冷たい
心の中に、白い靄が立ち込めていく。
雪は視線を流し、彼の横顔をそっと窺い見た。
でも‥
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どこか見慣れた姿
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すでに知っている姿
その冷淡に見える横顔には、見覚えがある。
その冷たい口調も、底冷えするような威圧感も。
でも、と雪は思う。
膝の上に置かれた拳に、力が入っていく。
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‥でも私だって、言いたいことが沢山ある。
雪の脳裏に、去年の忌むべき記憶が次々と思い浮かんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<無条件に>でした。
ちょっと中途半端なところですが、次回に続きます~。
雪のワンピ姿は貴重!合コン以来のスカートではないでしょうか。
さて今回の先輩のセリフ。
雪の「河村さん‥とは一体どういう」の後の「今それが重要?」。本家版に忠実に訳すとこう。
日本語版は、「そんなことはどうだっていい」←コレにしびれました。うまいな~~!
次回は<吐露>です。
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いつも、私には読み解きかねる心情なんかもこちらでスッキリ解決(^ー^)させて頂いています♪毎日更新なのがほんと嬉しいです。
これからも楽しみに応援してますね~♪
やったね、師匠~!
それが今重要?もいーなー。
てか、そっちのが私は好きかな。
それにしても、こんな機嫌のまま食事に行って、どーするつもりだったんでしょー、この人。機嫌が悪くても雰囲気険悪でも、俺は約束は守る男だ。←しつこい
管理人のYukkanenと申します。コメントありがとうございます(^^)!
応援、とってもとっても力になります。頑張りますね~!
そしてコメント欄にてみなさまが深い解釈を繰り広げてくださっています。記事は土台にしか過ぎませんので、どうかそちらも合わせてお楽しみ下さい♪
またお待ちしています~!
ちょびこ姉、ハゲ増し‥!
ジュー◯・ロウに怒られますよ~なんて^^
先輩はあんな険悪な雰囲気でも「やるべきこと」は完遂するよう教えこまれたMr.裏目ジュニアですから!
逆に考えると、幼い頃から彼の感情なんて重視されず「こうあるべき」ばかりが優先されてきた可哀想な人なんですよ‥。あ、目から汗が‥。
真澄さまは自らの意志で約束守ってらっしゃるんで、男前感ビシビシですけどね~。紅天女ヲタの英介氏の教育もあるかもですが。。こうしてみると資産家二世って皆似たようなところがあるのかもしれませんね。
うんうん、人間、成長のためにはそういう経験も必要ですよ。
がんばれユジョン~。
エクセル対決の時の品川さんと木口さんみたいな感じで見守っています。やっぱ人間って面白ーい(笑)。
(いえ、バカにはしてませんよ。)
見物のお供にはサルセウカン(米えびせん)がほしくなりますねー。
blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=eunong_e&logNo=110167854108
セウカンにもいろいろありますが、個人的にはこれがいちばん好きです。
セウカンおいしそうです。
日本のと味は違うのでしょうか?食べたくなってきた~~(こんな時間に限って‥)