今日も事務補助のアルバイトが終わった後、雪はSKK学院塾に居た。
授業が始まるまでの間、なんとなくまとめた髪の毛が気になって、何度も頭に手をやった。
先日は聡美がまとめてくれたが、今日雪は自力でやってみたのだ。
すると思いの外時間がかかり、危うく事務補助のバイトに遅刻するところだった。
遠藤さんは今日特に機嫌が悪く、就業時間ギリギリに事務室に着いた雪にガンを飛ばしてきた‥。
せっかく頑張ってこの髪留めを使った日に限って、先輩は来なかった。
雪は幾分落胆した気持ちで空を見上げた‥。
授業が始まり、塾講師が今日は二人一組で対話の練習をすると言った。
近くに居る人とペアを組んでと言われ、雪が周りを見回していると、一人の女の子が声を掛けてきた。
「ねぇ、あたしと組まない?」
彼女は先日の自己紹介で雪と同い年だと知ったせいか、最初からタメ口だった。
言われるがまま机を寄せる雪に向かって、発音が苦手だけどよろしくね~と彼女は軽い口調で言った。
雪は彼女の名前こそ知らなかったが、やけに目立つ格好をしているので印象は深かった。
今日も上目遣いでこちらを眺めてくる彼女の、豊満な胸元が気になって雪は目のやり場に困った。
指示された教科書のページを雪が開いていると、突然彼女は背を反らして雪の髪の毛を覗き込んだ。
「あれぇ~?!その髪留めあたしが買おうとしてたやつと全く一緒だ~~!!」
突然の大きな声に、教室に居るほとんどの学生がこちらをジロジロと見て来た。
雪は愛想笑いを返しながらも、心中穏やかでは居られなかった。
ひぇぇ やめてくれ!!
そんな雪に彼女は自己紹介をした。近藤みゆき、という名だった。
雪が「私は赤山雪、よろしく‥」と言うやいなや、
近藤みゆきは大きな声で「うわぁぁ!超可愛い名前だね~~!!」とはしゃぎ始めた。
再び皆の視線がこちらに注がれる。
講師が苦笑いをしながら注目を逸らしてくれたが、近藤みゆきはまるで気にしていないようだった。
普段から他人の行動や視線に鋭敏な雪にとって、それは愕然とするしかない出来事だった。
その日の授業中ずっと、雪は神経をすり減らして彼女と対話を行った。
授業が終わった後の雪は、魂の抜けたような状態だった。
近藤みゆきは何も気にせず、雪に別れの挨拶をして去って行く。
途中廊下で河村亮に会うと、「トーマス、バイバ~イ!」とキャイキャイはしゃぎながら手を振って走って行った。
雪は亮と目が合うと、ビクッとその身を固まらせた。そんな雪に亮は、ピシっと人差し指で指して「逃げんなよ」と釘を刺した。
二人の横を、学生たちがウワサ話をしながら通り過ぎて行く。
男子生徒達は下品な笑い声を立てながら、近藤みゆきの露出の多さを嗤った。
雪も亮も近藤みゆきの方へ視線をやったが、亮はまゆをひそめただけだった。
「なんだ?あれくらいどーってことねぇじゃん。俺の姉貴のスカートなんてあれより短いぜ」
その亮の発言で、雪は彼に姉が居ることを知った。
すると亮はそんなことより、と雪に向かって「腹減らねぇ?」と聞いてきた。
「俺も今上がったとこなんだけどよー。メシおごれよ」 「!!」
‥また始まった、河村亮の「メシおごれ」攻撃‥。
雪は困りますよと眉根を寄せた。
先日塾の仕事も手伝ってあげたというのに、なんでまたご飯を奢らなくてはいけないのだ‥。
そう口を尖らせていた時だった。
ぐぅぅ~~
どちらともなく、腹の虫が大きく鳴った。
互いに互いのせいにするが、どちらも譲らない‥。
「マジお前って堅っ苦しいヤツだな~!すぐそこに安くて美味い店知ってっからそこ行こうぜ!」
亮はバシッと雪の背中を叩いて軽い口調で言った。
雪はしぶしぶ了承する‥。
「この近辺の屋台でここが一番うめーんだよ!」
そう言って亮はモグモグと口を動かしたが、沢山食べてもなるほどお安い。
雪はあまり高くない店に連れて来られた幸運に安堵した。
すると急に亮は雪の方を向き、「お前A大正門側の、駅の近辺に住んでるって言ってたよな?」と聞いてくると、キラキラしたオーラを纏いながら言った。
「俺の下宿もそこら辺なんだよ。送ってやろうか?」
これぞ亮のとっておき、キラキラスマイルである。
彼のこの笑顔を見た者は、誰しもが心を奪われる‥
「え‥遠慮しときます!!一人で帰れますんで!!」
‥わけではないようだ。
叩き返すかのような雪のリアクションに、亮は「嫌ならいーけどよ」と舌打ちした。
前回教科書を持ってやったり、今回キラキラスマイルを送ったりと数々の誘惑を仕掛けてみるも、
雪には全く通用しないことが亮には分かってきた。
「俺がこんな風に好意を見せるなんて滅多にないのにな~、後で後悔しても遅いんだぜ‥」
冗談めいてそう言ってみるも、雪は屋台のおじさんにお金を渡すとそそくさと帰路に着こうとした。
亮は急いで酒を飲み干すと、雪の後を追った。
いつも女の子に囲まれ、追いかけられる側の亮は、雪と居るとまるで逆の立場に立たされる‥。
後ろから着いて来る亮に、雪は「送ってくださらなくても大丈夫ですから」と念を押した。
しかし亮は別にそういう訳ではなく、ただ単に同じ方向なだけだとぶっきらぼうに言った。
赤面する雪に、ケラケラと笑う亮。
二人は駅までの道を、前後に並んで歩いた。
亮が、先を行く雪の後ろ姿を見て「髪あげるなんてらしくねーじゃん」と絡んでくる。
では、私らしさとは何かと雪が聞くと、亮は眉間にシワを寄せながら「んー‥ボサボサ?」と答えた。
ではボサボサとは何か‥とまた雪が聞くと、「ボサボサにボサボサって言って何が悪い」と答えた。
ダメージヘアーのデジャブ再び‥。
ダメージヘアーがダメージヘアーだからダメージヘアーって呼んだんだよ。
なんでダメージヘアーかって聞かれても‥
それも思い返し、雪は振り返りざま亮に対してメンチを切った。
その後亮はわざとらしく雪に「すごく似合ってるぞぉ~」などと言ったが、雪の眉間のシワはそのままだ。
そして雪は亮の頭を見て、「そういうそっちこそ自分の髪型に気を遣った方がいいと思いますけど」と言ってニヤっと笑った。
「ジュード・ロウって知ってますか?その人に似てるって言われません?特に髪が短い時‥」
ククク、と雪は笑い最近のジュード・ロウの姿を思い出した。
‥特に進行している彼の‥髪型を‥。
しかし亮はキョトンとした表情で、「誰だそいつ?」と言った。
‥知らないんかい!ヾ(′□`;ヾ(′□`;ヾ(′□`;)ォィォィォィ
雪の中の全米が突っ込んだが、亮はそんな雪の苦い顔には気づかず、
「あ~分かった分かった。似てるって言われた映画俳優だけでも何十人になるか‥」
と良い意味に受け取ってしまった‥。
雪は慣れない冗談‥もとい人をからかってやろうとしたこと自体が間違っていたと溜息を吐いた。
亮はそれに対しても軽い調子で返して、二人は傍目から見ると親しげなカップルのようだった。
そんな二人の様子を、一人車内から窺う人物がいた。
特に亮のことを凝視していた人物は、それが本物の河村亮だということが分かると、遂に車外に出た。
「よぉ、お前河村亮だよな?」
そう言った男の顔を見ても、亮はピンとこなかった。
「‥どちらさん?」
男は自分の名を名乗った。
亮の脳裏に、高校時代の記憶が蘇っていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ちょっと一杯>でした。
今回はコメディ色の強い回でした。
亮と雪の場面はやっぱりテンポが良くて良いですね!
さて初登場、近藤みゆきちゃん。前雪と先輩が行った雑貨店で、髪留めの売り切れを嘆いていた後ろ姿は、
彼女のものだったんですね~
やはり露出過多ですね‥ブレない子!
そして雪と亮が食べた屋台は、「粉食屋」といって、韓国料理のファストフード店らしいです。
キンパブ(韓国式海苔巻き)やトッポッキ、おでんなどが中心のようですよ。
学生街のため、安いお店が豊富にあるんでしょうね!う~ん食べてみたい!
次回は<えぐられた傷(1)>です。
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授業が始まるまでの間、なんとなくまとめた髪の毛が気になって、何度も頭に手をやった。
先日は聡美がまとめてくれたが、今日雪は自力でやってみたのだ。
すると思いの外時間がかかり、危うく事務補助のバイトに遅刻するところだった。
遠藤さんは今日特に機嫌が悪く、就業時間ギリギリに事務室に着いた雪にガンを飛ばしてきた‥。
せっかく頑張ってこの髪留めを使った日に限って、先輩は来なかった。
雪は幾分落胆した気持ちで空を見上げた‥。
授業が始まり、塾講師が今日は二人一組で対話の練習をすると言った。
近くに居る人とペアを組んでと言われ、雪が周りを見回していると、一人の女の子が声を掛けてきた。
「ねぇ、あたしと組まない?」
彼女は先日の自己紹介で雪と同い年だと知ったせいか、最初からタメ口だった。
言われるがまま机を寄せる雪に向かって、発音が苦手だけどよろしくね~と彼女は軽い口調で言った。
雪は彼女の名前こそ知らなかったが、やけに目立つ格好をしているので印象は深かった。
今日も上目遣いでこちらを眺めてくる彼女の、豊満な胸元が気になって雪は目のやり場に困った。
指示された教科書のページを雪が開いていると、突然彼女は背を反らして雪の髪の毛を覗き込んだ。
「あれぇ~?!その髪留めあたしが買おうとしてたやつと全く一緒だ~~!!」
突然の大きな声に、教室に居るほとんどの学生がこちらをジロジロと見て来た。
雪は愛想笑いを返しながらも、心中穏やかでは居られなかった。
ひぇぇ やめてくれ!!
そんな雪に彼女は自己紹介をした。近藤みゆき、という名だった。
雪が「私は赤山雪、よろしく‥」と言うやいなや、
近藤みゆきは大きな声で「うわぁぁ!超可愛い名前だね~~!!」とはしゃぎ始めた。
再び皆の視線がこちらに注がれる。
講師が苦笑いをしながら注目を逸らしてくれたが、近藤みゆきはまるで気にしていないようだった。
普段から他人の行動や視線に鋭敏な雪にとって、それは愕然とするしかない出来事だった。
その日の授業中ずっと、雪は神経をすり減らして彼女と対話を行った。
授業が終わった後の雪は、魂の抜けたような状態だった。
近藤みゆきは何も気にせず、雪に別れの挨拶をして去って行く。
途中廊下で河村亮に会うと、「トーマス、バイバ~イ!」とキャイキャイはしゃぎながら手を振って走って行った。
雪は亮と目が合うと、ビクッとその身を固まらせた。そんな雪に亮は、ピシっと人差し指で指して「逃げんなよ」と釘を刺した。
二人の横を、学生たちがウワサ話をしながら通り過ぎて行く。
男子生徒達は下品な笑い声を立てながら、近藤みゆきの露出の多さを嗤った。
雪も亮も近藤みゆきの方へ視線をやったが、亮はまゆをひそめただけだった。
「なんだ?あれくらいどーってことねぇじゃん。俺の姉貴のスカートなんてあれより短いぜ」
その亮の発言で、雪は彼に姉が居ることを知った。
すると亮はそんなことより、と雪に向かって「腹減らねぇ?」と聞いてきた。
「俺も今上がったとこなんだけどよー。メシおごれよ」 「!!」
‥また始まった、河村亮の「メシおごれ」攻撃‥。
雪は困りますよと眉根を寄せた。
先日塾の仕事も手伝ってあげたというのに、なんでまたご飯を奢らなくてはいけないのだ‥。
そう口を尖らせていた時だった。
ぐぅぅ~~
どちらともなく、腹の虫が大きく鳴った。
互いに互いのせいにするが、どちらも譲らない‥。
「マジお前って堅っ苦しいヤツだな~!すぐそこに安くて美味い店知ってっからそこ行こうぜ!」
亮はバシッと雪の背中を叩いて軽い口調で言った。
雪はしぶしぶ了承する‥。
「この近辺の屋台でここが一番うめーんだよ!」
そう言って亮はモグモグと口を動かしたが、沢山食べてもなるほどお安い。
雪はあまり高くない店に連れて来られた幸運に安堵した。
すると急に亮は雪の方を向き、「お前A大正門側の、駅の近辺に住んでるって言ってたよな?」と聞いてくると、キラキラしたオーラを纏いながら言った。
「俺の下宿もそこら辺なんだよ。送ってやろうか?」
これぞ亮のとっておき、キラキラスマイルである。
彼のこの笑顔を見た者は、誰しもが心を奪われる‥
「え‥遠慮しときます!!一人で帰れますんで!!」
‥わけではないようだ。
叩き返すかのような雪のリアクションに、亮は「嫌ならいーけどよ」と舌打ちした。
前回教科書を持ってやったり、今回キラキラスマイルを送ったりと数々の誘惑を仕掛けてみるも、
雪には全く通用しないことが亮には分かってきた。
「俺がこんな風に好意を見せるなんて滅多にないのにな~、後で後悔しても遅いんだぜ‥」
冗談めいてそう言ってみるも、雪は屋台のおじさんにお金を渡すとそそくさと帰路に着こうとした。
亮は急いで酒を飲み干すと、雪の後を追った。
いつも女の子に囲まれ、追いかけられる側の亮は、雪と居るとまるで逆の立場に立たされる‥。
後ろから着いて来る亮に、雪は「送ってくださらなくても大丈夫ですから」と念を押した。
しかし亮は別にそういう訳ではなく、ただ単に同じ方向なだけだとぶっきらぼうに言った。
赤面する雪に、ケラケラと笑う亮。
二人は駅までの道を、前後に並んで歩いた。
亮が、先を行く雪の後ろ姿を見て「髪あげるなんてらしくねーじゃん」と絡んでくる。
では、私らしさとは何かと雪が聞くと、亮は眉間にシワを寄せながら「んー‥ボサボサ?」と答えた。
ではボサボサとは何か‥とまた雪が聞くと、「ボサボサにボサボサって言って何が悪い」と答えた。
ダメージヘアーのデジャブ再び‥。
ダメージヘアーがダメージヘアーだからダメージヘアーって呼んだんだよ。
なんでダメージヘアーかって聞かれても‥
それも思い返し、雪は振り返りざま亮に対してメンチを切った。
その後亮はわざとらしく雪に「すごく似合ってるぞぉ~」などと言ったが、雪の眉間のシワはそのままだ。
そして雪は亮の頭を見て、「そういうそっちこそ自分の髪型に気を遣った方がいいと思いますけど」と言ってニヤっと笑った。
「ジュード・ロウって知ってますか?その人に似てるって言われません?特に髪が短い時‥」
ククク、と雪は笑い最近のジュード・ロウの姿を思い出した。
‥特に進行している彼の‥髪型を‥。
しかし亮はキョトンとした表情で、「誰だそいつ?」と言った。
‥知らないんかい!ヾ(′□`;ヾ(′□`;ヾ(′□`;)ォィォィォィ
雪の中の全米が突っ込んだが、亮はそんな雪の苦い顔には気づかず、
「あ~分かった分かった。似てるって言われた映画俳優だけでも何十人になるか‥」
と良い意味に受け取ってしまった‥。
雪は慣れない冗談‥もとい人をからかってやろうとしたこと自体が間違っていたと溜息を吐いた。
亮はそれに対しても軽い調子で返して、二人は傍目から見ると親しげなカップルのようだった。
そんな二人の様子を、一人車内から窺う人物がいた。
特に亮のことを凝視していた人物は、それが本物の河村亮だということが分かると、遂に車外に出た。
「よぉ、お前河村亮だよな?」
そう言った男の顔を見ても、亮はピンとこなかった。
「‥どちらさん?」
男は自分の名を名乗った。
亮の脳裏に、高校時代の記憶が蘇っていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ちょっと一杯>でした。
今回はコメディ色の強い回でした。
亮と雪の場面はやっぱりテンポが良くて良いですね!
さて初登場、近藤みゆきちゃん。前雪と先輩が行った雑貨店で、髪留めの売り切れを嘆いていた後ろ姿は、
彼女のものだったんですね~
やはり露出過多ですね‥ブレない子!
そして雪と亮が食べた屋台は、「粉食屋」といって、韓国料理のファストフード店らしいです。
キンパブ(韓国式海苔巻き)やトッポッキ、おでんなどが中心のようですよ。
学生街のため、安いお店が豊富にあるんでしょうね!う~ん食べてみたい!
次回は<えぐられた傷(1)>です。
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近影を見てなかったので全然ピンとこなかった。。
ジュードロウ、カッコいいイメージしかなかった。。もう違うのか…笑
たしかに、登場したての頃の亮の髪型はМ字でしたね。
しかし皮肉を賛辞と受け取るわ、メシおごれ攻撃をかましておきながらキラ笑顔ひとつで女をオトせる気でいるわ……亮くんのそういうポジティブ(=アホ)なところが好きです。
でも外国の方は彫りが深いから、M字でもそんなに違和感ないですけどね~
でも雪ちゃんは何かと亮の髪が薄い的なこと言うみたいですね‥(2部56話で雪が酔っ払って先輩におぶられて帰るときも、そういうこと言ってるっぽいです)
将来が‥心配です‥(遠い目)
亮のお爺さん(禿)が亮に「お前ハゲ気をつけろ」と言うシーン。
禿は遺伝ですからね・・・
ますます心配が‥。
亮さん、カップラーメンばかりじゃなくてもっと自分に気を遣って‥!