中間考査 前日
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時刻は深夜一時過ぎ。小さな時計の秒針が、時を刻む音が部屋に響く。
白いノートが、黒い文字で埋め尽くされて行く。
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雪は黙々と勉強した。
一時間経ち、二時間経ったが、同じ姿勢で手を動かし続ける。
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時計の針は三時半を刺した。
徐々に靄がかかっていくような頭の中に、あの時背中越しに掛けられた彼の言葉が蘇る。
それじゃあ、待つよ
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胸の中に、苦い思いが広がって行く。
雪は「疲れた‥」と口にしながら、息を吐いて手で顔を覆った。
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机の上に散らばったプリントに手を伸ばす。心の中が揺れていた。
何を待つというのか。真実は一体何なのか。
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忘れている中でふと思い出す、その瞬間ですら混乱している。
全てのことは、現実の前に冷たく冷める。
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雪は段々と意識が遠のいていくのを感じていた。
目に見える黒いものは文字だが、白いものは‥何だっけ?
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本を読んだって頭の中がぐじゃぐじゃで、意味なんてさっぱり分からない。
ヨダレを口から垂らしたまま、その眼がゆっくり閉じて行く‥。
「たっだいま~!」
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いきなり大きな声が玄関から響き、雪はビクッと驚いた。蓮が帰って来たらしい。
扉の向こうで母が蓮をなじり、まだ明かりの点いている雪の部屋を見て声を掛けて来た。
「勉強はそのくらいにしてもう寝なさいよ!
蓮はまた何なの?!明け方に忍び込むみたいに帰って来て!」
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雪はヨダレを拭いながら返事をし、もうひと頑張りと気を引き締めた‥。
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中間考査、初日。
雪は地下鉄の駅への道を歩きながら、受け取ったメールの文面を眺めていた。
試験頑張って
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先輩からのメールだった。たった一文だけの。
「‥‥‥‥」
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雪は複雑な気分のまま、眉を寄せて俯いた。
彼とはまだ、何も話す気にはなれない‥。
「おいっ!ダメージヘアー!」
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すると突然、物陰から河村亮が顔を出した。
雪は驚きのあまり息を飲み、「何なんですか?!」と亮に問う。
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亮は期せずして彼女を驚かせてしまったことを申し訳無く思いながら、雪に向かって口を開いた。
「いや‥お前、テスト受けに行くのか?」
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その探るような視線と質問に、雪は訝しげな顔をしながらも頷いた。
亮は出来るだけさり気ない仕草を演じながら、
「大学ってのも、テストだと早く終わんのか?」と彼女に問う。
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そうですけど、と雪は答えながらも頭の中は疑問符でいっぱいだ。尚も亮は続けてくる。
「だったら早く家に帰って来んだろ?」
「?図書館に行って勉強しなきゃ」
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雪がそう口にすると、亮は顔をさっと青くして声を上げた。
「はぁ?!図書館?!夜遅くなるじゃねーか!」 「だから何なんですか!」
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雪にとっては、亮の行動は意味不明である。そして雪は彼が自分をからかっているんだと思い、
「ヒマなら蓮とでも遊んでて下さい」と口にしてその場から去ろうとした。
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しかし亮としては、このまま彼女を行かせるわけにはいかない。いつ静香の毒牙がかかるか分からないのだ。
「おいおいダメージヘアー!」
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そう言って雪のリュックを引っ張った亮は、やはり出来るだけさり気ない風を装って声を掛けた。
「いや‥てか、お前もしや‥最近学校で誰かに追いかけられたり見つめられたり‥、
そういうことされてねーか?」
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その亮の言葉を受けて、雪は一瞬真顔になった。
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つい先日、横山から後を付けられたからだ。
音もなく現れた横山に、あの時は本当に驚いた‥。
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黙っている雪に、亮は頭を掻きながら話を続けた。
「いやまぁ‥その‥もしそういうことあったらオレに言えよ?特別な意味はねーけどよ」
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脳裏には、大暴れする静香が浮かぶ‥。
亮は雪にそう言葉を掛けてから、最後は冗談で締め括った。
「もしそんな奴がいたら、そいつのツラを拝んでみてーからよぉ!」
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誰がお前なんかをw と意地悪そうに笑う亮に、雪は青筋を立てて憤った。
何で朝からケンカ売るのと、雪の荒ぶる声が晴天に溶けて行く‥。
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片道2時間弱の通学時間を経て大学に着いた雪は、試験の準備をしながら、
先ほどの亮の行動について訝しく思っていた。
あの人何で突然あんな話を‥。前からずっと学校で何かないかって聞いてくるし‥。
誰が追いかけるって??
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雪は以前亮がそう聞いてきた時の記憶を辿った。
確か店の裏の路地で‥。
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そして思い出す内、
その後店にやって来た先輩の顔が浮かぶ‥。
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無意識の内に浮かんだ彼の顔を、雪は眼をつむったまま打ち消した。
あ‥また先輩のこと考えて‥ダメダメ
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すると背後から、何やら不穏な視線を感じた。
彼女が持つ鋭敏さが、いち早くそれに反応する。
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うすうす誰がその視線を送ってくるのか分かってはいたが、
とりあえず雪はバッと振り返ってみた。やはり少し離れた席に、その男は座っている。
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横山は雪と目が合うと、ニヤリと笑って口を開いた。
「どうした?話でもあんの?」
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その台詞は、あれだけ「話がある」と雪に言い続けた横山の、軽い復讐だろう。
雪は再び前に向き直ると、あんぐりと口を開ける。
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波乱に満ちた、中間考査が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<始まる中間考査>でした。
雪ちゃんの集中力すごいですね!さながら受験生‥。
さて次回からちょっと地味な展開が続きます~
次回、<刺さる視線>です。
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時刻は深夜一時過ぎ。小さな時計の秒針が、時を刻む音が部屋に響く。
白いノートが、黒い文字で埋め尽くされて行く。
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雪は黙々と勉強した。
一時間経ち、二時間経ったが、同じ姿勢で手を動かし続ける。
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時計の針は三時半を刺した。
徐々に靄がかかっていくような頭の中に、あの時背中越しに掛けられた彼の言葉が蘇る。
それじゃあ、待つよ
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胸の中に、苦い思いが広がって行く。
雪は「疲れた‥」と口にしながら、息を吐いて手で顔を覆った。
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机の上に散らばったプリントに手を伸ばす。心の中が揺れていた。
何を待つというのか。真実は一体何なのか。
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忘れている中でふと思い出す、その瞬間ですら混乱している。
全てのことは、現実の前に冷たく冷める。
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雪は段々と意識が遠のいていくのを感じていた。
目に見える黒いものは文字だが、白いものは‥何だっけ?
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本を読んだって頭の中がぐじゃぐじゃで、意味なんてさっぱり分からない。
ヨダレを口から垂らしたまま、その眼がゆっくり閉じて行く‥。
「たっだいま~!」
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いきなり大きな声が玄関から響き、雪はビクッと驚いた。蓮が帰って来たらしい。
扉の向こうで母が蓮をなじり、まだ明かりの点いている雪の部屋を見て声を掛けて来た。
「勉強はそのくらいにしてもう寝なさいよ!
蓮はまた何なの?!明け方に忍び込むみたいに帰って来て!」
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雪はヨダレを拭いながら返事をし、もうひと頑張りと気を引き締めた‥。
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中間考査、初日。
雪は地下鉄の駅への道を歩きながら、受け取ったメールの文面を眺めていた。
試験頑張って
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先輩からのメールだった。たった一文だけの。
「‥‥‥‥」
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雪は複雑な気分のまま、眉を寄せて俯いた。
彼とはまだ、何も話す気にはなれない‥。
「おいっ!ダメージヘアー!」
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すると突然、物陰から河村亮が顔を出した。
雪は驚きのあまり息を飲み、「何なんですか?!」と亮に問う。
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その探るような視線と質問に、雪は訝しげな顔をしながらも頷いた。
亮は出来るだけさり気ない仕草を演じながら、
「大学ってのも、テストだと早く終わんのか?」と彼女に問う。
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そうですけど、と雪は答えながらも頭の中は疑問符でいっぱいだ。尚も亮は続けてくる。
「だったら早く家に帰って来んだろ?」
「?図書館に行って勉強しなきゃ」
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雪がそう口にすると、亮は顔をさっと青くして声を上げた。
「はぁ?!図書館?!夜遅くなるじゃねーか!」 「だから何なんですか!」
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雪にとっては、亮の行動は意味不明である。そして雪は彼が自分をからかっているんだと思い、
「ヒマなら蓮とでも遊んでて下さい」と口にしてその場から去ろうとした。
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しかし亮としては、このまま彼女を行かせるわけにはいかない。いつ静香の毒牙がかかるか分からないのだ。
「おいおいダメージヘアー!」
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そう言って雪のリュックを引っ張った亮は、やはり出来るだけさり気ない風を装って声を掛けた。
「いや‥てか、お前もしや‥最近学校で誰かに追いかけられたり見つめられたり‥、
そういうことされてねーか?」
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その亮の言葉を受けて、雪は一瞬真顔になった。
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つい先日、横山から後を付けられたからだ。
音もなく現れた横山に、あの時は本当に驚いた‥。
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黙っている雪に、亮は頭を掻きながら話を続けた。
「いやまぁ‥その‥もしそういうことあったらオレに言えよ?特別な意味はねーけどよ」
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脳裏には、大暴れする静香が浮かぶ‥。
亮は雪にそう言葉を掛けてから、最後は冗談で締め括った。
「もしそんな奴がいたら、そいつのツラを拝んでみてーからよぉ!」
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誰がお前なんかをw と意地悪そうに笑う亮に、雪は青筋を立てて憤った。
何で朝からケンカ売るのと、雪の荒ぶる声が晴天に溶けて行く‥。
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片道2時間弱の通学時間を経て大学に着いた雪は、試験の準備をしながら、
先ほどの亮の行動について訝しく思っていた。
あの人何で突然あんな話を‥。前からずっと学校で何かないかって聞いてくるし‥。
誰が追いかけるって??
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雪は以前亮がそう聞いてきた時の記憶を辿った。
確か店の裏の路地で‥。
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そして思い出す内、
その後店にやって来た先輩の顔が浮かぶ‥。
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無意識の内に浮かんだ彼の顔を、雪は眼をつむったまま打ち消した。
あ‥また先輩のこと考えて‥ダメダメ
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彼女が持つ鋭敏さが、いち早くそれに反応する。
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うすうす誰がその視線を送ってくるのか分かってはいたが、
とりあえず雪はバッと振り返ってみた。やはり少し離れた席に、その男は座っている。
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横山は雪と目が合うと、ニヤリと笑って口を開いた。
「どうした?話でもあんの?」
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その台詞は、あれだけ「話がある」と雪に言い続けた横山の、軽い復讐だろう。
雪は再び前に向き直ると、あんぐりと口を開ける。
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波乱に満ちた、中間考査が始まった。
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<始まる中間考査>でした。
雪ちゃんの集中力すごいですね!さながら受験生‥。
さて次回からちょっと地味な展開が続きます~
次回、<刺さる視線>です。
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淳もそう。
対人関係面において接し方が異なる二人ですが、自分への律し方はとても似ている。
そこはとっても相性がいいのかな、と。
漫画だからと言ってしまえばですが、自分に甘くてってメンバーが多いじゃないですか。
女の人は生活の乱れというか恋愛の不具合とか不機嫌が生活にモロにでるタイプ多いですけど、そこがないのがいいですね。
全然関係ないですけど、この回の雪ちゃんのニット帽スタイルが可愛くて萌~^^
いつも説教してはいても、根本的なところの力関係では姉の方が上なんですよね、この姉弟。なので、インハが本格的に牙を剥いた時には、インホは役に立ちそうにありません。ホンソルは独力で、女同士の戦いに向かわなければならないでしょう。
ありがとうございます!
CitTさんのご指摘を受けて早急に修正しようとしたのですが、ただいまgooブログの不具合?で記事投稿が出来ません‥(T T)
解決され次第修正しますので、お待ちを~~。
めぷさん
私も大学生の時、あんなに勉強してませんでした。。
これは日本だからですかねぇ。韓国や他の国の大学はもっと大変だと聞きますし‥。
日本語版、見ました見ました^^先輩とお父さんの会話、敬語じゃなかったですね~。
そして「なぜ理解してくれない」の文字が何だかおどろおどろしいフォントでちょっと怖かったです(^^;)
そして、亮さんが雪ちゃんを心配している姿に萌えました。何気に憎まれ口きいてるのがまたかわいい!
きのう日本語版更新されてましたね~。でも、師匠のステキな文章にどっぷりはまってしまっているので、なんかしっくりこない。。。暇さえあればこちらに訪問してしまう横山ちっくな私です。。。
でも雪が振り向いたのは「そういえば、あるじゃん!ストーカーしてる奴!」と気付いたからじゃないでしょうか。